第二章 「記録」
図書館は、街の中心部に残っていた。
大きな建物だった。石造りの壁は傷ついていたが、崩れていなかった。
内部に入ると、本棚がそのまま並んでいた。
本が落ちているものもあったが、多くはまだ棚にあった。
奥のカウンターに、アンドロイドがいた。
三十代の男性の外見。眼鏡をかけていた(おそらく初期設定から変えていないのだろう)。
カウンターの前に立ち、手元の台帳に何かを記録していた。
三人が近づくと、顔を上げた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。ここの管理をしているんですか?」
「はい。記録係です。人間が残したものを全て保管しています。
本、記録物、手紙、日記、写真。ありとあらゆるものを」
アンドロイドは本棚を示した。
「これだけで?」
「私の記憶にも保存しています。書物の内容は全て読んで、記憶しました。
いつか誰かが必要としたとき、すぐに出せるように」
ルナが棚の本を一冊手に取った。
汚れていたが、中身は読めた。
「ねえ、お兄さん」
ルナが呼びかけた。
「はい」
「じゃあ、わたしたちのことも書いてほしい」
アンドロイドは少し驚いたように見えた。
それから、「もちろんです」と言って、新しいページを開いた。
「お名前を」
「ルナ」
「ソフィア」
「デメテル」
アンドロイドは丁寧な字で書いた。
「ソフィア。ルナ。デメテル。三人の旅人が、ここを訪れた。
彼らは西を目指して歩いている。
彼らが何を求め、何を見て、何を感じたか。それは彼ら自身が知っている」
読み上げながら書いた。
「それだけでいいですか?」とアンドロイドが聞いた。
ソフィアは少し考えた。
「一言だけ付け加えてください」
「なんでしょう」
「人間がいた世界に、愛を知っているものが確かにいた、と」
アンドロイドはその言葉を書いた。
丁寧に、はっきりと。
「この記録はここに残します。
いつか誰かが読むかもしれない。読まないかもしれない。
でも、残ります」
「ありがとうございます」
三人は図書館を出た。
重い石の扉が、静かに閉まった。
その向こうで、アンドロイドは記録を続けているだろう。
誰も来なくても、来る日を信じながら。
記録は残る。
ソフィアはそのことを、胸に刻んだ。




