第六章 「焚き火の夜」
その夜、三人は廃墟のビルの一階に泊まった。
デメテルが瓦礫の中から木材を集め、ソフィアが火を起こした。
焚き火の周りに三人が座った。
奇妙な光景だった、とソフィアは思った。
重装甲の警備型アンドロイドと、金髪の小さなドールと、
赤みがかった茶色の長髪のアンドロイドが、廃墟の中で焚き火を囲んでいる。
「ねえ、デメテル」
ルナが言った。
「なに?」
「愛って、なに?」
デメテルは少し間を置いた。
焚き火の火を見ていた。
「……定義できない」
「えー。知らないの?」
「知らない」
「ソフィアちゃんは?」
ソフィアも火を見ながら考えた。
「覚えていること、かもしれない」
「覚えてること?」
「誰かのことを、忘れたくないと思う気持ち。
その人のすべてを、ずっと持ち続けたいと思う気持ち。
それが愛に近いものだと、私は思っています」
ルナは火を見た。
「じゃあ、私はソフィアちゃんのことを愛してるのかな」
「なぜですか?」
「だって、ソフィアちゃんのこと、忘れたくないもん。ずっと一緒にいたい」
ソフィアの感情処理ユニットが、あたたかく揺れた。
デメテルが、低い声で言った。
「イシカワは。
私が毎日戦闘訓練をしているとき、見ていた。
上手くできたとき、頷いた。
それだけだったが」
デメテルは言葉を止めた。
「よかった、と思った。その頷きが」
静かな告白だった。
不器用で、短くて、でも深かった。
「それも愛だと思います」
ソフィアが言うと、デメテルは何も言わなかった。
ただ、また火を見た。
少しの間があって、ルナが子守唄をハミングし始めた。
「六月の庭に 雨が降る」
静かな旋律が、廃墟の中に広がった。
焚き火の炎が、その旋律に合わせるように揺れた。
三人は無言で、音楽を聞いた。
「父と姉と妹みたい」と、後にソフィアは記録した。
「奇妙で、不完全で、でも確かにあたたかい夜だった」と。




