第51話 [マスター!キャラ忘れてますよ]
皐月さんたちを倒し、僕らはその先へ進もうとした。だが、魔石部屋へもうすぐのところで、またも道が変わってしまう。
変わった道の先では、激しい戦闘音が鳴り響いていた。僕らは急いで戦闘音の方へと向かったのだった。
通路を抜けると、魔石部屋の入口がある小さな広間へと出た。
周りを見渡すと、鷹と山羊の乱戦状態になっていた。少し離れたところに、ヴィンテージさんが斧を振り回す姿が目に入った。
「ヴィンテージさん!」
「あれ~? 君たち、こっちに出ちゃったんだね~」
道が変わったことで、メイン部隊の内の一つ、ヴィンテージさんが率いる部隊と僕らは合流した。
麦が敵をかわしながら、ヴィンテージさんの側に行く。
「ボンさんたち、まだ魔石部屋に入れてないの!?」
「僕らは着いたばっかりだからねぇ~。マイラーさんたちは、さっき部屋の中に入ったみたいだから、中へ入れる人は手伝ってあげてぇ~」
麦はヴィンテージさんの言葉に頷くと、バーリー小隊へと指示を流した。
「バーリー小隊! 各員ここで解散―! 部屋へ行けるものは部屋へ!」
僕と麦は目を合わせると、魔石部屋の入口を目指した。
そこへ、僕の隣にすっと近寄ってくる花音さん。
「文月さん。ちょうどいいところに」
「あっ! 花音さん! ちょうどいいとこって?」
「レゾナンスください。部屋まで道、空けます」
花音さんは眠そうな顔で、スキルを求めてきた。しかし、『レゾナンス』は相手にステータスを渡している間、自分は弱体化してしまう。この乱戦状態の中の使用は正直不安だった。
「いいですけど……僕、弱体化しちゃうので、こんな乱戦状態で使ったら……」
「大丈夫です。死ぬ気で麦さんが守ってくれます。何より、今魔石部屋にいるソーサラーはデスさんだけです。微力ですが、私も力になりたいんです」
花音さんの言葉に、麦の方へ顔を向けると、麦は笑って頷いた。
「そこのお嬢さんにくれてやんな! 兄ちゃんのことは、あっしにまかせて!」
(てやんでい! って続きそうな物言いだな……)
僕は、麦を信じて花音さんに託すことにした。
「わかった! 花音さんについてきます!」
花音さんは杖を構えると、少しだけ口角を上げた。
「てやんでい」
レゾナンスでさらに詠唱速度、魔力を強化した花音さんは、敵を吹き飛ばしたり、拘束しながら部屋の入口まで一直線に駆け抜けた。
僕ら三人は入口前で目を見合わせると、麦を先頭に部屋へ突入した。
部屋へ入ると、アーチャーの攻撃が先頭で入った麦を襲った。僕はすぐさま回復をし、花音さんはその隙にアーチャーに近づき吹き飛ばす。
攻撃が外れた瞬間に、麦が一気に距離を詰め、アーチャーを仕留めた。
戦闘は止まらず、今度は麦に向かって飛んでくる魔法。僕は魔法の範囲外からレゾナンスを繋げた。回復薬を叩きながら、魔法に耐える麦。
魔法に耐えた麦がソーサラーへ向かって、飛び掛かる。ソーサラーが後ずさりした足元へ花音さんは、すかさず『キャッチホール』を使って穴へ落とした。
部屋の中央の高台では、ルインさんが眉間にしわを寄せて叫んでいた。
「盾の後ろに隠れているデスを落とせ! 二人追加で入れろ! 常にMax十人を保て! もう少しで終わる! 粘れ!」
その右側では、マイラーさんたちが敵の集中攻撃を浴び、魔石へ近付けずにいた。
山羊は倒れた者の代わりを次々と送り込み、常に防衛人数を維持している。その厚い壁に阻まれ、マイラーさんたちの部隊は耐久力の高い職を中心に、なんとか前線を支えているようだった。
(麦ちゃん一人なら素早く魔石の方に登れるだろう……でも、あの魔法の嵐じゃ近づけない……あそこのプリーストかソーサラーでも減れば、体勢は崩れるだろうか?)
僕らが攻めあぐねていると、急に後ろから声がした。
「麦さん」
振り返ると、そこにはバケットさんが飄々として立っていた。
「あれ!? バケツくん! 部屋これたんだね!」
「麦さんたちの後ろにいたっすからねー。麦さんたちが部屋入って、落ちないの確認して安全だと思ったから来たっすよ」
「このぉ! ちゃっかりくん! よくやった!」
麦はバケットさんを見るなり、何かを思いついたみたいで、バケットさんへ指示を出す。
「よぉし! いい子のバケツくんに指令を与えよう! 私と一緒にあそこのソーサラーを挑発して! カオちゃんが魔法届くとこまで、どうにか誘導しよう! カオちゃんもオーケー?」
二人とも真剣な表情で頷いた。
「補充で入ってくる人たちに気を付けて、ちゃちゃっとやっちまおう!」
麦とバケットさんは高台を上り、魔法に入らないギリギリのとこまで行くと、二人で一斉に毒針を投げ始めた。
山羊のソーサラーがイラつき始める。
「あいつらぁ」
隣にいた山羊のプリーストが、ソーサラーを宥めた。
「おい、毒針ぐらい無視してろ。どうせ、あいつらこっち来れないんだから」
「でも俺ばっかり……」
毒針を受け続けているソーサラーは大魔法を撃つ手を一瞬止め、麦に向け単発魔法を放った。
麦は撃たれる瞬間に避ける。
「そんな魔法、詠唱遅くて避けれちゃうよーだ!」
バケットさんもソーサラーを煽り始める。
「マジどん亀っすね」
そして二人して、野次を飛ばしながら毒針を投げ続ける。
「強いって言っても、当たらなきゃ意味ないよねー!」
「掠りもしないんすから、マジ、カスっすねー」
「食らえー粕漬―!」
「美味しくなって出直してこいっすよー」
二人の挑発に耐えきれず、遂に切れるソーサラー。二人に向かって単発魔法を連続で放つも、二人はすっと避けてしまう。
「くそ! あいつら……!」
ソーサラーが一歩、二歩と麦たちに近寄る。山羊のプリーストが、それを見て叫んだ。
「おい! それ以上いくな!」
「大丈夫、ちょっとだけ痛い目みさせて――」
怒りのまま踏み出したその一歩は、魔法シェルターの外だった。
「その位置です」
【シャドウボルト】
レゾナンスで強化された花音さんの魔法が、シェルターの外のソーサラーを貫く。
ソーサラーは大きくHPを削るとともに、ブラインドにかかってしまった。
後ずさろうとするソーサラーに、さらに二発、三発と高速詠唱の魔法が追い打ちをかける。
瞬く間にソーサラーは姿を消していき、高台からマイラーさんたちへ降り注いでいた大魔法が、一つ途切れた。
マイラーさんたちは、大魔法が一つになった隙を見逃さず、少しずつ前進を始めた。
盾を押し上げたマイラーさんたちは、一段、また一段と高台へ迫っていく。
にじり寄ってくる鷹の面子に、焦りだすルインさん。
「くっ、押される……デス……お前だけは」
高速の矢が絶え間なく降り注ぐ中、部隊が前進すると、デスさんの最上位魔法の射程範囲へと入った。大魔法がルインさんたちに降り注ぐ。
【アストラルフォール】
魔法シェルター内にいたアーチャーたちは姿を消し、プリーストとソーサラーだけが残った。
その機を逃さず、鷹は一気に進軍。だが、ルインさんは詠唱を終えデスさんへ魔法を放つ。
【アビスレイ】
一直線に放たれた真っ黒な光がデスさんを貫くと、デスさんは微笑みながら消えた。
それを見て、ルインさんが呟く。
「ふっ、我らの勝ちだ……」
しかし、その瞬間だった。後ろから炎の槍がルインさんの体を貫く。
【バーニングランス】
階段を駆け上がった花音さんが、ルインさんに向け放った一撃。きっと花音さんだけの火力では倒せなかっただろうルインさんは、デスさんと花音さん二人に倒されたのだった。
ルインさんが消えた魔石前はあっという間に鷹のメンバーが囲み、魔石を叩き始めた。
――ゴーンゴーン
叩き始めてすぐ、Gv終了を知らせる鐘が鳴り、魔石は割れずに終わった。
僕らは鐘の音とともに城の外へ追い出された。
セーブポイントに戻されると、鷹の皆は俯き、そして笑った。
「負けたー! 惜しかったなー!」
「相変わらずK4は難しかったな」
僕は拍子抜けした。前にK2を取られた時の鷹は、お通夜みたいに皆暗かったから、またそうなるのだろうと思っていた。
マイラーさんが大声で皆に招集をかける。
「皆、お疲れさん! いやー! あと一歩だったな! しかし、マスターと副マスターは落とせたから、よしとしよう! また次やる時は取るぞ!」
鷹のメンバーは「おぉー!」と拳を突き上げた。
その光景に口を開けていると、ロマさんに肩を叩かれた。
「どうした文月? そんな口ポカンとして」
「いや……城取れなかったのに、皆明るいなって」
「あぁ、K2落とされた時しか、負けてるとこ見たことねぇもんな。今回は単純に楽しみに行ってたからな。結果は一緒でも目的が違えば、気持ちも変わるだろ。おまえは今回楽しくなかったか?」
ロマさんに聞かれ、僕は今回のGvを思い返した。道が変わるギミック、緊張しながら通る通路、小さな部隊だったがお互いを信じ合って最後まで進んだ。
「あ、いや。正直、最後の方は慌ただしくて……でも、思い返すと、レースとは違う戦い方とか、緊張感とか、楽しかったかも」
「そう思えたんなら、よかったな!」
ロマさんの笑顔に、僕も釣られて笑顔になった。
僕らの横では、麦がバケットさんから質問をされていた。
「麦さんあの新スキルって、なんだったんすか?」
「あれねー! 気難しいおじいちゃんを納得させて取るんだけど。まず、毒生成をLv10にして、毒を20種類100個以上作って出てくる『?ブロック』でね、ヒントは頭いいね! いーたん!なんだけど」
麦が得意げに話し始めると、バケットさんは気だるそうに前髪をいじった。
「簡潔でお願いしまーす」
「Int依存の毒っす……その分、爆発的な威力があるんっす……」
麦が少し悲しげに話すと、僕の横から急にバラシスさんが現れた。
「ほう、それは興味あるな。俺は長く隠れ続けるためにIntは多めに振っている」
「うわっ! びっくりした……こんな真横にいつもいるんですね」
その後、いつもの明るい鷹のメンバーたちに、僕と麦の新スキルを根掘り葉掘り聞かれるのであった。




