第50話 [壁の先]
K4の城を進んでいると、麦が前から来る足音に気付き、皆は臨戦態勢を取って待機していた。
前からゆっくりと歩いてきたのは、山羊のプリーストとソーサラー、そして皐月さんだった。
「皐月さん……」
「あらぁ。鷹が来ているとは聞いていましたが、文月さんもいらっしゃったんですねぇ。五人だけでしょうかぁ?」
「はい。僕たちは分断されてしまって……迷っていました」
「ふふ。そんなに嘘、お上手でしたっけ?」
【トレーサーパウダー】
皐月さんが地面に薬瓶を落とすと、割れた瓶から淡い白の光が辺り一面に広がった。
僕らの足元が、強く光りだすとともに、壁側で隠れている麦たちの足元も白く浮かび上がった。
「あらあら、五人も隠れていたんですねぇ」
皐月さんは穏やかな口調のまま、すぐさまアサシンへ足元を拘束するスキルを使う。
【グラスバインド】
麦は横に飛んで避けたが、せっちゃんとズーちゃんが草に捕まってしまった。
「すみませーん。捕まったとですー」
「ウゴケナイ!」
鷹のソーサラーが皐月さんへ『バーニングランス』を放つ。しかし、皐月さんの目前に土壁が出現し、炎の槍を受け止めた。
麦とバラシスさんが土壁へ飛びつき、必死に叩き始めるも、土壁の裏からは皐月さんの不敵な笑い声が響いていた。
「ふふふ。怖いですねぇ。早く私のナイトに守ってもらわないと……」
【ゴーレム召喚】
土壁が崩れると、その奥には狭い通路を塞ぐほどの巨体が立っていた。あまりの大きさに思わず息を呑む。左右へ回り込むほどの隙間はなく、まるで城そのものが僕らの行く手を拒んでいるようだった。
ゴーレムを目にしたバケットさんが、珍しく真剣な表情を浮かべた。
「うわぁ……迫力がやばいっすねぇ……」
ゴーレムの放つ威圧感に、皆はジリジリと後ずさる。
巨体が動きだす。地響きを立てながら、草に拘束された二人へゆっくりと、にじり寄っていく。
「キタナ! ヨケテヤル!」
「避けれんとですー!」
大きな拳が二人へ降り下ろされた瞬間、ごっつぁんさんがその前へ立ちはだかった。
――ゴキィィィン
重い音が辺りに響くと、ごっつぁんさんのHPはかなり削られていた。僕と鷹のプリーストはすぐにヒールをかける。
(一発が重い……ソーサラーが受けたら一発で沈みそうだ)
ごっつぁんさんが必死に攻撃を耐えつつ、皆でゴーレムを攻撃するも、固い上に回復が効くゴーレムは、なかなか倒れそうになかった。
「まいったねぇ……このままじゃジリ貧、よくて膠着状態ってとこか」
僕の隣のプリーストがぼやくと、拘束が解けたせっちゃんが小首を傾げた。
「でも、足止めにはなっとうですよね?」
バケットさんは遠距離攻撃をしながら、せっちゃんへ顔を向けた。
「よくて、膠着状態っすよ。このままじゃ足止めも難しいかもってことっす」
(その通りだ……回復が間に合っていない。少しずつだが、ごっつぁんさんのHPは減ってきている)
倒れる気配のないゴーレムに、麦の堪忍袋の緒が切れた。
「かあああああああ! ヒール受けれるゴーレムって! ずるくない!?」
皐月さんの優しい声が、ゴーレムの裏から響いた。
「でも、バフ魔法はさすがにかけれないんですよぉ。残念ですよねぇ」
(あれでバフなしなのか……あんなのに強化までされたら、とんでもないな)
苦しい戦いが続く中、麦が何かに気付く。
「おや? おぉ!」
そしてパーティーボイスで麦の指示が飛んでくると、皆は一瞬困惑するも頷いて了承した。
(うまくいくかな……? 考えても仕方ないか。麦ちゃんを信じてやってみよう)
僕らは指示された位置へ動き始めた。
ゴーレムに回復薬を投げていた皐月さんが、ふと眉をひそめた。
「あら? 一人、足りませんねぇ」
皐月さんはその場で『トレーサーパウダー』を使った。強い光が山羊のプリースト、ソーサラーの足元を照らし、皐月さんの足元を照らすと――
もう一つ、皐月さんの横で強く光った。
「知ってるか? 俺はギリギリを愛する男だ!」
真横に立っていたバラシスさんに、皐月さんが目を丸くした。
「あの隙間を抜けてきたのですかぁ。さすがに驚きましたぁ」
「召喚者を倒せば、ゴーレムは消える! さぁ食らえ! 今の俺は絶頂だ!」
バラシスさんが皐月さんへ襲い掛かるも、すぐさま皐月さんと山羊のソーサラーに反撃を食らう。
「ふっ……さすがに無理か!」
バラシスさんはHPが尽き、姿を消した。
「危ない目をした方でしたねぇ」
皐月さんがそっと胸を撫で下ろした瞬間、皐月さんの目の前に麦が降り立った。
「やぁ! 皐月どん!」
皐月さんたちがバラシスさんに気を取られている間に、麦は壁渡りでゴーレムの横を抜けたのであった。
その間に動いていたのは僕も同じだった。ごっつぁんさんの盾に守られつつ、ゴーレムの足の隙間めがけて走り抜けた。
「麦ちゃん今だ!」
ゴーレムの足の隙間から、『レゾナンス』を麦へ繋げる。
【知識の毒】
麦の持つ短剣の切っ先が淡い青に輝く。次の瞬間、皐月さんの体へ短剣が突き刺さった。
突き刺さった場所から青い文字が溢れ出すと、生き物のようにうねりながら皐月さんの全身へ絡みつき、瞬く間にその体を覆っていく。
「これは……」
皐月さんが言いかけた時、青い光が全身を包み爆発した。爆発が収まると、皐月さんの姿は消え、それに呼応するようにゴーレムも静かに崩れ去っていった。
残った山羊の二人を倒すと、その場には喜びの声が溢れた。
「あの状況で、よく持ち直したでごわす」
「麦さん、また新スキルっすか? なんすかあれ……後で教えてくださいよー」
麦は短剣をしまいながら、皆の方に近寄ってきた。
「いやぁ! 皆の者おつかれ! さすがバーリー小隊! 強敵相手に犠牲者は一名で済んだか!」
「バラシス! ヨワイナ!」
僕は、ズーちゃんの言葉に苦笑いした。
「皐月さんの気を引けたのは、バラシスさんのおかげですから」
麦はバラシスさんが倒れたところに向け、敬礼をした。
「ありがとう! バラシー! 君のことは忘れないよ!」
「あぁ……思い出してくれ。俺は気づけば隣にいると!」
すると、パーティーボイスで、バラシスさんの声が飛んできた。
「気持ち悪かです……」
せっちゃんが身震いする隣で、バケットさんはあきれ顔を浮かべる。
「ちゃんと復活者の足止めしといてくださいねー」
僕らが再び歩き始めると、通路全体が揺れ始めた。
「もうすぐ魔石部屋前に、着きそうなのに!」
麦の叫び声とともに、揺れは収まった。道が変わったのだ。
しかし、先ほどは聞こえてこなかった戦闘音が、すぐ近くで聞こえてくる。
(誰かが、この先で戦っている……)
僕らは顔を見合わせると、音のする方に向かって走り出した。




