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第49話 [アサシン部隊]

 僕らは今、山羊が守るK4の狭い通路を、麦が率いる小部隊で歩いていた。


「後ろから足音!」


「こりゃ一人じゃないね! ごっつぁん! 前出て!」


「ごっつぁんです!」


 麦は鷹のクルセイダー『ごっつぁん』さんに指示を出し、小声でアサシン数名にも手で合図を出した。


「アサシン部隊! 忍法、隠れ身の術……! どろん!」



 先日、マイラーさんから提案された遠足。その行き先は山羊が守るK4だった。半ば強制的に鷹への参加を決められた僕は、麦が率いる小部隊へ配置され、今まさに敵城の攻略を進めていた。


 後ろから姿を現したのは、山羊のメンバー数名だった。


「ちっ! 出くわしちまったか! でも、支援が二人に盾と魔と薬か…… 迷った組か? やっちまえ!」


(後ろから来たということは、どこかでやられて戻ろうとしてる復活者かな?)


 相手のアーチャーの指示で、攻撃が一斉に飛んでくる。


(相手も五人…… やっぱり、大した火力じゃないと思って、仕掛けてきたか)


 前に出て僕らを守るごっつぁんさんに、僕は先日取得したスキル『レゾナンス』をかけた。


「文月はん! ありがたいでごわす!」


「いえ! 攻撃受けれないので、あんまり近づけませんが! スキルが切れない位置にはいますので、耐えてください!」


 僕のステータスを半分相手に渡す『レゾナンス』。これで、ごっつぁんさんの耐久をあげつつ、もう一人のプリーストとファーマシストが必死に回復をかけて、こちらは耐えている状態だった。


「なんだあのスキル? しかし、あの盾の野郎、結構固いな……。おい! あいつ倒せばここは通れる! 攻撃の手を休めるな!」


 相手のアーチャーが声を張り上げた瞬間、彼らの後ろからスッと姿を現したのは、麦と四人のアサシンたち。


「げっ! アサシンが隠れてたぞ!」


 相手が麦たちに気付いた時には遅く、五人の刃が一斉に襲いかかり、山羊の復活者は全て倒された。


「ひゃあああああ! やっぱアサシンって言ったら、こうじゃなきゃね! 隠密! 隠密!」


 麦が拳を握り喜んでいる横では、前にレース中に出会ったバケットさんが、ダルそうに頭を掻いていた。


「盾とか騎士がいなかったから、良かったっすけど。狭い通路で隠れんの辛いんすよねー」


「何言ってんだ! あの、すれすれをすれ違うスリル! たまらないだろ!? なぁ! たまらないだろ!?」


 バケットさんの後ろでは、バラシスさんが鼻息を荒くしていた。


「ウェナ ムントゥ オタンダ イジントゥ エズィヴーサ アマドリンゴズィ!」


「ズーちゃん、また翻訳切れとうよ?」


 翻訳機能がよく切れるズーちゃんと、小柄な博多っ娘のせっちゃん。鷹のアサシン部隊は、そんな五人で構成されていた。


 麦がバラシスさんの方に親指を向けた。


「あぁ! ズーちゃんはバラシーに、このスリル好きの変態め! って言ってんだよ!」


「スリル好きの変態か……フロンなら、もっと上手になじるぜ!」


 喜ぶバラシスさんの横で、呆れたように肩をすくめるバケットさん。


「麦さんって、言葉本当に分かってんのか微妙っすよねー」


 僕は近寄ってきたアサシン部隊に、支援をかけ直す。


「五人ともお疲れ様でした! 相手全然気づいてなかったですね!」


 麦は自分の胸を叩いて自慢気に頷いた。


「そりゃそうよ! 鷹の精鋭中の精鋭! 麦飯部隊が動いてるんですから!」


 麦の言葉に、前髪をいじりながら答えるバケットさん。


「精鋭って言っても、俺ら五人しか鷹にアサシンいないっすけどねー」


 麦はバケットさんの肩に手を置き笑った。


「バケツ君は相変わらず冷めてんねー! 皆もっとアサシンになればいいのにね! 壁渡りとか、めっちゃ楽しいのに!」


(壁渡りかぁ……前にやってるとこモニターから見たけど、あれ酔いそうだよな……)


「壁渡り、VRでやると難しかぁ。次のポイント探しよる間に落ちちゃうとよ」


 せっちゃんが手をモジモジさせて言うと、翻訳機能が直ったズーちゃんが麦に向け言葉を発した。


「ムギハ、トクイ、ダヨナ!」


「おほほほ! 壁渡りの麦ちゃんとは私のことですのよ! でも、隠れ続けるのはバラシーのが得意だよね!」


「あぁ、俺は日頃からディサピアーで、フロンに密着するギリギリを過ごしてるからな! まぁ大体はすぐバレるぜ。あいつは勘が並外れて鋭いんだ!」


(日頃からって……いつも、そんなことしてんのか……)


 得意げに胸を張るバラシスさんを見て、バケットさんは呆れたようにため息をついた。


「それ、鼻息荒くてバレてるんじゃないっすか? それよか、早く行かなくていいんすかー? 他んとこは結構進んでんじゃないんすかね」


 麦は「あっ!」と声を上げ、手を軽く叩いた。


「そだった! バーリー小隊! 出撃! 野郎ども! 歩幅を合わせろー!」


 麦が勢いよく歩き出そうとした瞬間、地面が揺れ始めた。


「あっ! 揺れが……!」


「道が変わるでごわす!」


 麦は立ち止まり、皆へ声を張り上げた。


「皆、切り替え位置に気を付けて固まれー!」


 揺れが収まると、先ほど進もうとしていた道が壁で塞がれていた。麦はその光景を見て、額に手をやった。


「あちゃー、行き止まりになっちゃったかー! よし! 戻って横道を探そう!」


(ここまで順調に進んでたんだけどな……しょうがない)


 ここK4はKの城の中でも特にギミックが特殊で、城の入口から魔石部屋へ続く道が四本あるのだが、通路が狭いうえ、道が入り組んでいる。しかも、ランダムで道が入れ替わったりもするのだ。


 なので、大部隊で一つの入口から突入しても、途中で分断されることが多い。


 今回決まった作戦では、四方向から小部隊で進むが、魔石部屋へ突入を考えた編成は二つ。残り二つの部隊は足止めを任せられていた。


 麦が率いる十人の小部隊は、足止めを任せられたチームだった。


 先ほどの道を少し戻ったところに、新たな横道が出来ていたので、僕らはその道を進んだ。


 先頭の麦とバラシスさんは、壁にぴたりと張り付き、そのまますり足で進んでいた。


「そろそろ、守ってる人たちと出会っていい頃なんだけどねー」


「まだ誰も、副マスターと出会ったって報告がねぇな」


 壁に張り付いた二人の後ろでは、皆は普通に歩いていた。


「副マスター? そんなやっかいなんですか?」


 僕の質問に、バケットさんは気だるそうに答えてくれた。


「話聞いてなかったんすかー? ゴーレム使いのファーマシストっすよ」


「ゴーレム使い!? ゴーレムって召喚できるんだ……」


(確かに……ちゃんと作戦聞いてなかったかも……バケットさんって意外としっかりしてるよな)


 せっちゃんが小走りで僕の横まで来ると、小声で話し始めた。


「この鯖でゴーレム召喚までいったんは、山羊の副マスターだけみたいですよ?」


「へぇ、すごい人なんだね! どんな人なんだろう?」


(鯖初のゴーレム召喚者か。戦士のマスターや、ホークさんみたいなタイプかな? でも山羊のマスターがあんなんだし、麦ちゃんみたいなのかな……)


 山羊の副マスターが、どんな人かを想像していると、不思議そうな顔の麦と目が合った。


「文ちゃんさっきから何言ってんの? 皐月どんの話だよ!」


「えっ!? 皐月さん!? 副マスターだったの!? そんな大物がチーム旧暦に来ていたなんて……」


 まさかの知人だったことに驚いていると、麦がピタッと足を止める。静かに手で皆にストップをかける姿に、その場には緊張が走った。


 アサシン部隊に手で合図を送り、アサシンたちは『ディサピアー』で姿を消す。


 僕は周りの人たちに支援をかけ直し、ごっつぁんさんの後ろへと待機した。


(一体、何が来るんだ……)


 奥の方から、静かな足音とプレッシャーが僕らに向かって近づいてきていた。



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