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第48話 [踏み出す]

 一週間続いたハロウィンイベントも、あっという間に終わった今日この頃。僕は麦を待つため、鷹のたまり場へと来ていた。


「あれー文月さん! こんにちはー!」


「あっ、こんにちは」


 気付けば、鷹の人たちが気さくに話しかけてくれるようになっていた。


「文月! また麦に待たされてんのかぁ?」


「はい! いつものことなんで!」


「文月はん、暇しちょるなら、おいと狩り行くでごわすか?」


「ありがたいんですけど、麦ちゃん待ってるんで今度にします!」


「ウブケカ ウムフレ ナムーフラ ナウェ」


「……えっ?」


 鷹のメンバーたちが通りすがりに色々と声を掛けていってくれる中、僕はここ数週間のことを思い返していた。


(僕は、目を向けなかったことが多かったのかもしれない……考えないようにしていたわけではないけれど……これから、どうすればいいんだろう……)


 この数週間は、先送りにしていた問題があることを、改めて思い知らされた出来事ばかりだった。


(麦ちゃんはもう本当に……現実には……戻れないよな……体ないしなぁ……)


 僕は納骨してからお墓には行っていない。それは、どこかで諦めきれない気持ちがあったからなのかもしれない。だからと言って、どうしていいのか分からずにいた。


(今後ずっとゲームの中には、いれるんだろうか? サービス終了したら? 消えちゃうのか?)


「はぁぁぁぁ」


 深いため息が自然と出てしまっていた。すると、後ろからロマさんに声を掛けられた。


「おぅ! どうした文月? そんなため息ついて。また麦待ってんのか。あいつ家いんだろ? クソか?」


「あ、ロマさん! いや、ちょっと急に買い出しに……」


 本当は宿で寝ているんだろうとは言えずに、そう答えると、ロマさんは少し笑って僕の横へと腰掛けた。


「なんだよ。本当元気ねぇな。なんか、あんなら言ってみろよ。聞いてやるぜ?」


(ロマさん……)


 ロマさんの優しい笑顔に、不思議と口を開いていた。


「もしもですけど……大切な人が急に、その……死んでしまったとして、でも魂が、ある種ゲームの中とかだけで生きちゃったら、どうします?」


「なんだそれ? 漫画か何か? まぁ、そうだな……どうにかゲームの中から現実に戻す方法を考えるかな?」


「でも、現実には体がもうなかったら?」


「はっ!? ねぇのかよ! それじゃな……うーん」


 ロマさんが悩んでいると、横からハーゲンさんが顔を覗かせた。


「それでしたら、現実に体を作り出すのはどうですか?」


 思ってもみなかったハーゲンさんの発言に、僕はとても驚いた。


「えっ! 体を作り出すって!?」


「クローンですよ。自分の遺伝子で作る、もう一人の自分」


(もう一人の自分……骨からもクローンって作れるのかな? どのみち、そんな技術力も設備もないけど……)


 結局何もできない自分にため息をつきながらも、ハーゲンさんへ質問を続けた。


「もう遺伝子がなかったら、クローンは作れないですよね?」


「そうですね。クローンは作れないでしょうが、人間の身体自体は作れますよ。各国で秘密裏に、そういった実験は進められていると、昔から言われていますし」


 その発言に眉間にしわを寄せるロマさん。


「それって、他人の身体っつうことだよな? それは魂がその身体に戻ったとしても本人って言えんのか?」


(魂が違う体に宿る……それって今の麦ちゃんの状態ともいえるよな)


 ロマさんの質問に少し考え込むも、穏やかな声でハーゲンさんは答えた。


「本人の記憶があれば、本人と言えるのではないでしょうか?」


 ロマさんは顎に手をやると、首を傾げた。


「そもそも不思議だよな。記憶は脳が保管すんのに、魂に記憶があるってのが。だって、アルツハイマーとかになったら記憶なくすだろ?」


(確かに……)


 ハーゲンさんはこの手の話が好きなのだろうか、人差し指を立て嬉しそうに答えた。


「それには色々な説があるんですけど、脳は単なる受信機で、魂に宿る記憶を受信しているだけとも言われていますよ」


(脳が受信機……考えたこともなかった)


 そんな考え方もあるんだなと思いながら、ハーゲンさんへ質問を続けた。


「なら、やっぱり魂に記憶が? でも、みんな前世の記憶とかないですよね」


「各地で前世の記憶を持った人の話は残っていますけどね。大体は子供の時に忘れてしまうんだとか」


(忘れられてしまうのは……悲しいな……)


 三人で話し込んでいると、今度はこころさんが僕らの話に入ってきた。


「こころはねぇ~昔聞いた話が一番しっくりくるなぁ~」


「こころさん!? 昔聞いた話って?」


 こころさんは僕の前にふわっと座ると、にこりと微笑んだ。


「難しい話はぁ~よく分からないけどぉ~。命のロウソクがあるでしょ~? そのロウソクが尽きる時に違うロウソクに火を灯すんだってぇ~。だから、魂は一緒でも違う人ってことぉ~」


(今度はずいぶん神秘的な話だな)


「へぇ~。ロウソクが現世での体ってことですかね?」


 また知らない話が出たので、僕は身を乗り出して聞いた。


「そういうことだよねぇ~。火を新しいロウソクに移す時ってぇ~、前のロウソクから蝋が少し垂れたりするでしょ? こころはそれが前世の記憶なんじゃないかなぁ~って思うのぉ。だから火が蝋を溶かすのと一緒に、前世の記憶もなくなっちゃうのぉ~」


(魂は引き継がれる……でも前のことは忘れてしまう……)


「……生まれ変わったとしても、結局は他人になっちゃうってことですよね。自分との思い出とか忘れられちゃうのは、悲しいな……って」


 僕が俯くと、ロマさんに背中を叩かれた。


「自分以外はみんな他人だろ? 悩むこともないと思うぜ。そういうのは、生きてるやつが覚えておくしかねぇんだよ」


(生きてる人が覚えておく……)


 その言葉に顔をあげると、微笑むハーゲンさんとこころさんが目に入った。


「こころはねぇ、生まれ変わってもずっと繋がっていると思うよぉ~。きっと、巡り巡って、み~んな何かしらで繋がってぇ~今でも関わりを持っているんだよぉ~。自分のロウソクが変わってしまったとしても、隣で揺らいでいた火が別の場所に移されてしまったとしても、みんな同じテーブルの上にいるんじゃないかなぁ~って、想っているよぉ~」


 こころさんの言葉に、何故か涙が零れそうになった。


 僕らが、そんな話をしていると、ログインしたマイラーさんがたまり場に現れた。


――ヒュン


「おっ! 結構いるな! よーし! ここいるやつだけでいいから、集まってくれ!」


 マイラーさんの呼びかけに皆はマイラーさんの元へ向かうが、ロマさんが振り向き僕の頭に手を置いた。


「まぁ話は逸れたが。何を悩んでんのか分かんねぇけど、なんだかんだ自分で考える前に、相手の意見を聞くってのもありだと思うぜ。そいつが何を想うかで、動き方も変わるだろ? 俺ならまずは、そうするな」


(相手の意見……か)


「ロマさん、ありがとうございました」


「おぅ! あんま自分だけで考えるなよ」


 皆の方へ歩いていくロマさんの背中を見ていると、急に後ろから飛びつかれた。


「文ちゃん! ごめん! 本当申し訳ない! 昨日遅くまでパムパムのとこ行ってたから、疲れて爆睡しちゃったよ! あれ? みんな集まって何してんの?」


「おはよう! なんかマイラーさんが皆に集合かけてたよ? 麦ちゃんも行ってくれば?」


「そうなんだ! なんだろ? ほら、文ちゃんも座ってないで行こう!」


 麦に引っ張られ、輪の方へ向かうと、マイラーさんが皆に向け話し出した。


「後でギルドの知らせにも載せる予定だが、先にここでも聞いておこうと思ってな! 今度のGv……遠足に行かねぇか?」


 マイラーさんの言葉に、そこにいた全員が頭に疑問符を浮かべていた。


「遠足!? ……って、どういうこと?」


「オフ会的な?」


 皆がざわつく中、マイラーさんは言葉を続けた。


「守ってばっかじゃ、つまらないだろ? だから、たまには攻めに行こうぜ!」


 あのK1を落としたGvの後、鷹はK2を奪還。もっとも、狼はK2を守っていなかったらしく、すんなりとK2を奪い返せたらしい。その次のGvもK2を守っていたが、中堅ギルドがちらほら来るだけだったと、麦が話していた。


 真っ先に麦が声をあげる。


「いいねー! いこいこ! 遠足いいじゃん! 楽しそう!」


 麦の言葉を皮切りに、周りの皆も動揺の声から一転、楽しげな声へと変わっていった。


 皆の反応を見て、嬉しそうに頷くマイラーさん。


「とは言っても、行けるとこも限られてるけどな! K3かK4か」


 腕を組んで悩むマイラーさんの目の前に、麦が勢いよく手を挙げた。


「はいはーい! K4行きたい! 山羊とやりたい! K4に一票! 文ちゃんの分も入れて二票!」


「なんで僕まで……」


 麦はクルリとこちらを向くと、僕の肩を掴んだ。


「文ちゃん! 借りは返すもんだよ! 私もこの前参加したでしょ! 借りを返して! 次のGv参加ね!」


「えぇぇぇ!?」


 断ろうと口を開きかけた時、ロマさんも笑顔で追い打ちをかけてくる。


「おぉ! 文月も来い! レースとは違う楽しさを教えてやるよ!」


「文ちゃん参加決定! 文月ついにGv参加します! 皆さん応援よろしくー!」


 麦に押され輪の中心に出された僕は、謎の文月コールを浴びるのだった。


「ふーみづき! ふーみづき!」


(Gvは参加してるんだけどな……)


 僕は断ることも出来ず、流されるまま次のGvを、鷹の一員として参加することになってしまった。



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