第47話 [ハロWIN]
僕たちは今、デルンの中央広場で体育座りをしていた。
というのも、今日から始まるハロウィンイベントが十七時に開始されるらしく、イベントNPCが現れるのを待っているのだった。
イベントNPCは各街に配置されるのだが、デルンでは大抵、この中央広場に現れる。そのため、開始を待つ人たちが大勢集まっていた。
今回のイベント名は「貴族たちの収穫祭」らしい。
十七時になると、広場の中央へ天から光が降り注いだ。
その光の中を、五人の人影が黒いマントを靡かせながら、ゆっくりと降りてくる。
地面に降り立った五人は、順番にシルクハットを取っていった。
「私はカボチャ公爵、好物はパンプキンパイ」
「私はカボチャ侯爵、好物はパンプキンプリン」
「私はカボチャ伯爵、好物はパンプキンクッキー」
「私はカボチャ子爵、好物はかぼちゃの煮物」
(一人ずいぶん渋いなぁ……しかし、明らかに一人おかしいのが……)
「私はポテト男爵、好物はじゃが……パンプキンキャンディー」
(じゃがって言ったよな? なんでポテト? ……男爵いもか!)
自己紹介を終えると、野菜貴族たちはポーズを決め、声を合わせた。
「我らに貢げ! 我らをもてなせ! 愚民共! そうしなければトリックの刑に処す!」
横にいた麦がナイフを取り出す。
「なんかムカっとするな……ちょい捌いてくる!」
「ちょいちょい! 捌けないから! ほら! 早くイベントやろう!」
イベントの内容的には、マップに配置されるイベントMobを倒して手に入れたお菓子や、街に落ちている野菜を見つけて貴族たちに持っていくと、好みによってポイントが変わる仕組みとなっている。
そのポイントを交換所で、アイテムに交換するのだ。
そして、ハロウィン限定衣装を身に着けてアイテムを渡すと、更に獲得ポイントが増えるらしい。
一人につき一枚配られる無料ガチャで、僕らは衣装を手に入れた。
「僕のは、ミイラ男か! 昔、トイレットペーパーでぐるぐる巻きにされたことを思い出すなぁ……。で、麦ちゃんはなんで鍬持ってるの……?」
「なんか私のやつ、『農家ルック~我らの神~』って書いてある! すごくない!? 神になっちゃったよ!」
「すごい……? う、うん」
僕らは早速、マップにいるイベントMobを倒しに向かった。
マップにはたくさんのカボチャらしきMobが散らばっていた。
「麦ちゃん! あそこ! パンプ金いたよ!」
「よしよし! あっ! あっちにはパンプ筋がいる! っしゃああ! 全部刈り取ってくれよう!」
中にはフェイクカボチャもあったりして……。
「ぎゃああああああ! パンプ禁食らった! また三分攻撃できないじゃん!」
そんなこんなで、僕らはあらかたお菓子を収集して、貴族たちの元へと向かった。
デルンの街を歩いていると、麦がベンチの片隅に落ちているジャガイモを発見した。
「おっ! 野菜発見! ラッキー! しかもジャガイモじゃん! 男爵にあげよう!」
僕らが貴族たちの所へ到着すると、他にもアイテムを渡している人たちがいた。
貴族たちは相変わらずの態度で、人々に接していた。
「ふん! こんなもの私に寄こすとは……」
「おぉ! そなたはなかなか見どころがあるではないか」
(上から目線がすごいな……)
「麦ちゃん、分けて渡すの面倒だから、いっぺんに渡しちゃえば?」
「何言ってんの! ダメだよ! ちゃんと好物通りに渡さないとポイント高くもらえないじゃん! 皆にそれぞれ渡したら、残りは全部男爵にあげるよ!」
(男爵だけ雑だな……)
麦がそう言って、貴族たちの前に立つと、貴族たちは先ほどまでのふんぞり返った態度とは打って変わって、麦を見るなり動揺し始めた。
「はっ……神がおられる……」
「神よ……」
「どうか我らしもべに、慈悲をお与えください」
そんな貴族たちの態度に、今度は麦がふんぞり返る。
「うむ! よかろう! ほれっ! お前たちの好物じゃ! ありがたく受け取るがよい!」
端から順に麦が好物を渡していくと、貴族たちは泣いて喜んだ。
そして男爵の番になり、麦が残りのアイテムを全て渡す。
「あっ! 一個、さっきのジャガイモ渡すの忘れてた!」
「ジャガイモですと! あぁ、神よ……なんて慈悲深い……」
麦が拾ったジャガイモを男爵に渡してあげると、男爵はその瞬間、目を見開き叫びだした。
「こ、これは……! おめぇナメとんのかっ! メークインじゃねぇかっ!」
男爵は貰ったジャガイモを投げ捨てると、足元へ唾を吐いた。その光景に固まる麦と僕。
(こわっ……男爵いものプライドなんだろうか……)
「えっ……私、神だよね……?」
放心状態の麦の横に落ちているジャガイモをそっと拾う、もう一人の神が現れた。
「ふふふ……。男爵いもは加熱するとホクホクして、じゃがバターやポテトサラダに向いている。メークインは煮くずれしにくく、煮物やカレーに適している」
拾ったジャガイモを愛おしそうに見つめながら語る男性は、麦と同じく農家ルックをした山羊のマスタールインさんだった。
ルインさんはジャガイモを持って、男爵の前へ歩み寄る。
「男爵には男爵のいいところ。女王には女王のいいところがある。お互いを認め合い、尊重し合うことでこそ、ジャガイモの叡智に辿り着けるとは思わないか?」
そう言ったルインさんは、優しい目で再びメークインを男爵に差し出した。
メークインを貰った男爵は、貰ったジャガイモを見つめると――
「バカ野郎! メークインじゃねぇか! 俺を誰だと思ってる!」
貰ったジャガイモをまた投げ捨てた。それを見たルインさんは、鍬を取り出し、男爵に向ける。
「よぉし、今から貴様に天からの裁きを与えてやろう! マッシュポテトにしてやる! そこへ直れ! 貴様にジャガイモの真理を叩き込んでやる!」
大魔法の詠唱を始めたルインさんの横で、麦もノリノリで鍬を構える。
「おぅ! やっちゃろやっちゃろ! この芋、料理してやろうぜ!」
(NPCなんだから、倒れるわけないのに……)
「ほら、麦ちゃん。やめなさい」
僕が麦を止めていると、ルインさんの横に、ウィッチ姿の皐月さんが不思議そうな顔で近寄っていった。
「あらあら。マスター何をされているのでしょう?」
「止めるな! 皐月! 我が漆黒の怒りは、もはや誰にも止められぬ!」
「NPCを攻撃しようとされているのですかぁ? 丸焦げで動けなくなりますよぉ? いい見世物になってしまいますけどぉ……ギルドのお知らせに面白いものが見られますよ、と載せておきますねぇ」
「うぇ!? 待っ!」
慌てるルインさんは魔法の詠唱を止め、男爵に向けポーズを決めた。
「ククク……命拾いしたな! 我が内なる力が暴れ出す前に退いてやる。感謝するがいい!」
くるりと向きを変えたルインさんは僕らと目が合うと、じっと目を細めた。
「貴様ら見覚えがあるな……」
(覚えてないのか……麦ちゃん今、農家ルックだしな)
皐月さんは微笑みながら、僕らのことを紹介した。
「この前お会いしましたよぉ。ふふふ。相変わらず人の顔を覚えないんですからぁ。鷹の麦飯さんと、私がこの前お手伝いにいった『わんわん警備保障』の文月さんですぅ」
皐月さんの説明を受けると、ルインさんは興味なさそうに鼻を鳴らした。
「あぁ、鷹だったか。デス以外に興味はないな。ククク……あの男は我が覇道を阻む最後の壁。いつか必ず打ち砕き、ソーサラーの頂点に君臨するのは我だと世界へ知らしめてやる!」
(デスさんとライバルなのかな?)
「そう言ってる割には攻めに行きませんよねぇ。麦飯さん。今度K4にも遊びにいらしてくださいねぇ。最近中堅ギルドの相手ばかりで、飽きてしまっていてぇ」
皐月さんに言われ、麦は少し考え込んだが、すぐに笑顔で頷いた。
「んー、そうだね! たまにはK4とかも楽しそう! うちのマスターに言ってみるよ!」
そんな話をしていると、僕らに気付いた二人がこちらへ歩いてきた。
「あれ? よぉ! 文月!」
「あっ、ロマさんにデスさん! こんばんは!」
ドラキュラ姿のロマさんと、何故かコック姿のデスさん。麦はデスさんの姿に驚き、指を差す。
「ちょっと! デスさん! なんでコックなの!? 包丁まで持って!」
「…………麦飯さんこそ、なんで鍬を持っているんですか? 私はガチャを回したら、この『コックスタイル~地獄の番人~』が当たりましたので、装備しています」
麦とデスさんがお互いの格好に驚いていると、ルインさんはデスさんの後ろで鍬を片手に、声を張り上げた。
「ふっ……貴様と再び相まみえるこの刻を、我は幾度夢見たことか! 貴様という壁を砕くため、我は常世の闇を彷徨い、終焉の地から……」
ルインさんは大げさに腕を広げ、なおも何か言い続けていたが、遮るようにロマさんがデスさんに話しかける。
「デスさん、早くアイテム渡しに行っちゃおうぜ」
「……そうですね、あの野菜たちでしょうか?」
ルインさんは二人の背中を見つめ、一瞬固まるも手を額にあて、「ふっふっふ」と笑って誤魔化していた。
ロマさんたちが野菜貴族たちに近づくと、さっきまでプレイヤーたちに尊大な態度を取っていた野菜貴族たちの笑顔が、一斉に凍りついた。
デスさんを見るなり震え始め、隣の貴族と抱き合い肩を震わせる。野菜貴族たちの視線が、デスさんの持つ包丁へと吸い寄せられていた。
「わ、わわわ、よ、ようこそ、いらっしゃいましたでし!」
(でし? 怯えすぎて舌噛んでんじゃん……そっか野菜だから、コックが怖いってことなのか?)
デスさんはそっと貴族の目の前に立つと、いつもの怖い笑顔を貴族たちに向けた。
「……あの、こちらどうぞ」
「ひっ! ありがたく頂戴する所存でございます……」
デスさんは順々に怯える貴族たちに、丁寧にアイテムを渡していった。
最後にデスさんが向かったのは、今にも涙腺崩壊しそうなポテト男爵の前だった。
「……あなたにも、どうぞ。好きそうな物を持ってきましたよ」
「あっ、メークインですね……は、はは! もちろん好きです! いただきますです! はい!」
(受け取った! 神からは受け取らなかったのに! 恐怖のほうが勝ったか)
一部始終を見ていたルインさんは、わなわなとしていた。
「ぬぬぬぬぬぬ……やはり、あいつは最大の敵だ! 皐月いくぞ! 我の力を高めるために狩りへ!」
「ふふふ。そうですねぇ。それではお二人とも、ここで失礼いたしますねぇ」
皐月さんとルインさんは、足早に去って行ってしまった。
(なんだか相変わらず騒がしい人だったな……皐月さんも大変そう)
皆それぞれ大変なんだなと考えながら、僕は麦と一緒にハロウィンイベントを続けるのであった。




