第45話 [共鳴]
僕らは、『?ブロック』を開けるために、次の目的地の『フィヨルヴァ』へと来ていた。
ここフィヨルヴァは、ワールドの北西にあり、北欧をイメージした街だ。マップには白夜と極夜があったり、少し特殊で他の街より難易度が高いマップが多い。
一年前までは、フィヨルヴァだけ他の街へ繋がるワープゲートがなかったのだが、途中から追加された。
そんな幻想的なフィヨルヴァの、街の中心にある巨大な焚き火の前で、麦はコンソールをずっと眺めていた。
「ねね、麦ちゃん。さっきから、ずっと黙っているけど、どうしたの? さっきまで、あんなにテンション高かったのに」
「むー。それが、さっき取ったスキルなんだけど、良スキルな予感がしてたんだけどねー。スキル情報みると、なんか微妙なんだよねー。」
「へぇ、どんなの? って言っても、毒系なんでしょ?」
「うーん。毒だけどさー。今のアサシンには、いらないような気もするし……でも、この毒の存在が広まったら、アサシンの方向性を変える人も出てきそうな……うーん……」
「おーい? 麦ちゃん?」
麦は、またコンソールを見ながら、自分の世界へと入ってしまった。
(このままじゃ、動かなそうだな……)
僕は移動するために、一旦スキルのことから話を逸らすことにした。
「ところで麦ちゃん。なんで僕ら、ここで待機してるの?」
「あぁ! ごめんごめん! 言うの忘れてた! 助っ人を呼んでさー、もう来るよ!」
「助っ人? なんで?」
僕が疑問を口にした瞬間、目の前にロマさんが現れた。
「よぉ! 待たせたな!」
「ロマさん! こんにちは! でも、なんでロマさんが?」
「なんだ文月、おまえよく分かってねぇのか。なら、この優しいお兄さんが教えてやろう!」
ロマさんの説明では、僕らが向かうユグドラシルの樹があるマップは、Pvマップを通らなければ行けないみたいで、用心のためにロマさんが来てくれたらしい。
「あとな、おまえの『?ブロック』も気になるしな。アトラクトの派生なんだろ? 使えるスキルかどうか確認しとかないとな」
(そっちが本音か……ロマさんらしいや)
僕らはフィヨルヴァを出て、マップを進み始めた。難易度が高めのマップだったが、二人のおかげで特に困ることなく、進むことができた。
次のマップへ移る手前で、ロマさんに呼び止められた。
ロマさんは、僕らに何重にも支援をかけた。そんなロマさんに僕は不思議に思い尋ねた。
「なんでこんなに支援かけるんですか? Pvマップ少し抜けるだけですよね? Pvマップって、そんなに盛んな場所じゃなかったような……」
Pvマップで、仕掛けてくる人というのはほんの一部で、大半は出会ったら警戒しながら通り過ぎるだけだった。
「あぁ、昔はな。今は違う。今ここは『狼』の狩り場だ」
「狼?」
聞き返した僕に、麦は困った顔で答えてくれた。
「急に現れたノーマナーギルドだよ!」
『Schwarzer Wolf』、通称『狼』。彼らは、半年ほど前から、一気に頭角を現し、大手ギルドと肩を並べる存在となった。
狼のメンバーは通常マップでも、マナーを守らず、ルールぎりぎりの行為を繰り返しているらしい。このPvマップは、今や彼らの縄張りとなっていた。
「でも、なんでPvマップに張り付いてるんですか? そんなに人通らないのに……」
「Pvで倒した方が経験値うまいしな。それに、倒した相手の装備以外、持ってるアイテム全部もらえるのもあるからなー」
「げっ……そんなでしたっけ……恐ろしい」
怖がっている僕の肩に、ロマさんは手を置いた。
「大体4~5人以上で、奴らは襲ってくる。今の人数じゃ、さすがに分が悪い。でも、相手せずにPvマップ出ちまえば、奴らも追ってはこねぇよ」
そう言って、マップを移動しようとしたロマさんが「あっ」と振り返った。
「文月、もしやられて倒れたら、すぐセーブポイント戻れよ」
「どうしてですか?」
「すぐ戻らねぇと、また起こされて倒されてって続くぜ?」
「な、なるほど……こわっ」
麦が後ろから、笑顔で背中を叩いてきた。
「大丈夫だよ! 文ちゃん! ロマさんが盾になってる間に、逃げちゃえば平気!」
僕らがPvマップへと足を踏み入れると、想像とは違い誰もいなかった。
(良かった……誰もいない。今はいない時間帯だったのかな?)
僕が安心していると、ロマさんが叫んだ。
「おい! 走るぞ!」
ロマさんに言われ、僕らは走って次のマップへ向かった。
すると、どこからか歌が聴こえてきた。
「――Der Himmel bis zum Morgen Viel Tränen niedergoß~。狼の子らよ、狩りの時間だ」
声の方へ顔を向けると、崖の上にアサシンが立っていた。その瞬間、一斉に周囲から人影が現れた。
「おぉ、鷹のプリだぜぇ! やりぃ!」
「また城奪いに行っちゃおうかなぁ~?」
「おーい、逃げんなよー! ……って、なんだあれ……アサシンか?」
狼の人たちの言葉にロマさんは眉をひそめ、僕らに叫んだ。
「五人か、これなら抜けれる。おい! ぼやっとしてねぇで走れ!」
ロマさんの叫びとともに、僕の方へ矢が飛んできたが、ロマさんが僕の前に飛び出し、矢を防いだ。
ロマさんが後方を抑えている間に、麦が前方の相手へ毒針を飛ばす。相手が少し後ろに下がった瞬間を見逃さず、麦は僕を引っ張り、相手の横を抜けた。
敵の攻撃を一身に受けながらも、ロマさんは走り続け、僕らはマップを出ることができた。
Pvマップを抜けると、ロマさんの言う通り、彼らは追ってこなかった。
「さすがロマさん! いい盾っぷりだったよ!」
麦がロマさんに向け、親指を立てると、ロマさんはその手を叩いた。
「おまっ! 全然手助けしねぇじゃねぇか! さっさと逃げやがって!」
麦とロマさんが言い合いをしてる中、僕は先ほど聞いた言葉で気になったことを尋ねた。
「さっき狼の人が、また城奪いにって言ってたけど……」
その言葉に二人は僕の方を向き、少し黙った後、口を開いた。
「あぁ、そうだよ。俺らは一度、あいつらにずっと守ってたK2を奪われた」
「くぅぅぅ! よりによって私がいない時を狙ってくるなんて!」
「いや、そこは別に狙ってねぇだろ」
(やっぱり、あの時にK2を取った相手だったのか……)
ずっと守っていた城を、ノーマナーと呼ばれている人たちに、取られてしまったホークさんの気持ちを考えると、胸が苦しくなった。
無言が少し続くと、沈黙を遮るように麦が手を叩いた。
「ほれほれ! こんなとこで、ぼっとしない! もう近いんだから、さっさと行こう!」
僕とロマさんは目を見合わせて微笑むと、気を取り直し、ユグドラシルの樹へと向かった。
到着すると、目の前には、天をも貫くような巨大な樹がそびえ立っていた。幹は何人で囲んでも足りないほど太く、見上げても枝葉の先は空へと溶け込み、その全貌を見ることはできなかった。
僕らはむき出しになった根の周りを探していると、大きな根の隙間に洞窟の入口を見つけた。
入口には「ノルンの洞窟」と書かれた、小さな石碑が立っていた。
中へ足を踏み入れると、辺りは薄暗く、たまに出る敵を倒しながら、先へと進んでいく。
やがて最奥へたどり着くと、そこは日の光が差し込む、ひらけた場所になっていた。岩肌には青々としたツタが這い、壁の隙間から湧き出た水が小さなせせらぎとなって静かに流れている。
その場所に佇む、三体の石像。
石像に近づくと、辺りに声が響いた。
『選べ。三人の中からお前が進む道を――』
僕が立ち止まると、後ろから麦とロマさんの話声が聞こえてきた。
「おぉ、選択次第で取れるスキルが変わるやつっぽいな」
「当たりは一つ、外れは二つ! 選べ! 少年!」
(外れがあるのか……? 選べと言われても……)
右の像は、下に『ウルズ』と書かれ、何かを包み込むように手を下に向けて座っている。
(この像は、なんだか温かい雰囲気だな)
真ん中の像は『ヴェルザンディ』と書かれ、片手を前に突き出し、堂々と立っていた。
(これはなんか……勇ましい感じ……かな?)
最後、左にあった像は『スクルド』と書かれていて、片手を上に向け、片膝を立てて座っていた。
(うーん。なんだか、不安そうに見える……)
僕は温かい雰囲気に惹かれ、右にあったウルズの像へ歩みを進めた。
ウルズの像の前に立ち、触れようとした、その時。
「文ちゃん!」
後ろから、麦に声をかけられ、振り返った。
麦は満面の笑みで、僕に親指を立てていた。
僕はそれを見て、なぜか、すぐに決めてはいけない気がした。
(もう一度、よく考えてみよう)
もう一度、順に三体の像をじっくり見比べた。
左側の『スクルド』をもう一度じっくり見つめると、先ほどとは少し違う印象を受けた。
(さっきは不安そうに感じたけど……不思議だ。何を見ているんだろう……光?)
一見、不安そうに感じた像は、よく見ると、天井から漏れる光を見つめていて、その表情は少し希望を抱いているように感じた。
僕は、自然とスクルドの像に触れていた。
すると、白い光が辺りを包み、僕らは外へ転送させられたのだった。
外へ出ると、僕はすぐにスキルを確認した。
『?ブロック』は解放され、新たに『レゾナンス』を取得していた。
ロマさんが待ちきれない様子で、僕の横へきた。
「おう! どんなスキルだった?」
「これです!」
僕は自分のスキルツリーをロマさんと麦に公開した。
「ほうほう! いいじゃん! 文ちゃんやったね!」
「自分のステータスを半分相手に付与か……強いっちゃ強いけど、その間、自分が弱体化するのかー。範囲もあんまないしな。使いどころが難しいな。まぁ、とりあえずは、お疲れさん!」
ロマさんと麦は笑顔で僕の肩に手を置くと、僕らはその場を後にした。
(無事に新スキルが取れて良かった! でも、色々と想いが残る一日だったな)
僕は、胸につっかかる何かを感じながら、デルンへと戻るのであった。




