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第44話 [偏屈者の塔]

 僕たちは、スキルツリーに現れた『(ハテナ)ブロック』を開けるため、図書館へヒントを探しにきていた。


 休憩を終えた僕は、麦が待つ書庫へと戻ってきた。


「文ちゃああああん! もう! どこいってたの!?」


「ごめん。文字見すぎて疲れちゃったから、少し休憩してきたよ」


「軟弱者めっ! 文ちゃんが、ぼやぼやしてる間に私の本は見つかったよ!」


 麦は手に持っていた本を、得意げに掲げてきた。


「えっ! 早くない!? なんて本だったの?」


「これ! 『異端の賢者』!」


 僕は差し出された本の表紙へ、目を向けた。


「異端の賢者……? いーたんって、そういうこと……」


「これ読むと場所もデルンみたい! なーんか、この塔見覚えあるんだよねー」


 麦は本の挿絵をまじまじと見つめ、急に何かを思い出したかのように目を見開いた。


「あっ! 分かった! あの塔だ! よーし、私の方は分かったから、文ちゃんの本探そう! ヒントなんだっけ?」


「僕のは『糸から布、回せ回せ!』だよ」


「ほう! 回せ回せか……タオルでも振り回してんのかな? ちょい探してくる!」


 麦はクルリと向きを変え、また本棚の奥へと消えていった。


(タオル振り回すなんて、よく思いつくな……こういう、ひらめき系って苦手なんだよな……)


 僕もまだ探していない本棚から順に見て回った。


(目を向けてなかったこと……か。……ん?)


 先ほどの大広間のことなど思い返して、視線が下へ向くと、目に入ってきたのは一つの本だった。


 背表紙に『運命の織り手』と書かれた本を、僕は手に取った。


(織り手……糸から布? これかな?)


 中を開くと、そこには世界樹「ユグドラシル」の根元にある泉を守りながら、運命を決定づけている女神の話が書かれていた。


 そして最後の一文には「人を救う者よ、謎を解きたければ、女神の待つ洞窟を訪れよ」と書かれていた。


『謎を解きたければ』――これは『?ブロック』のクエスト本に必ず出てくる一文だった。


(これっぽいな。ユグドラシルっていうと、『フィヨルヴァ』のマップに確かあったよな?)


 僕は、本棚を探し回っている麦を呼び寄せ、見つけた本の内容を伝えた。


「文ちゃん! きっと、それだよそれ! とりあえず行ってみようよ! 違ければ、また探そう!」


「そうだね。僕の方はフィヨルヴァだから、先に麦ちゃんの方から行く?」


「おー! いこいこー! どんなスキルだろ! 楽しみだなー!」


 デルンの街中をスキップしながら目的地へ向かう麦。その後ろを、僕も付いていった。


 街の外れに着くと、目の前には細い塔が立っていた。入口には『パラケルススの塔』と書かれた看板が掲げられている。


 僕は、看板に書かれた文字を読んでみた。


「パラケルスス……って、なんか言いづらいなぁ」


「文ちゃん! そういう時は読まないんだよ! 感じろ!」


「え……うん」


 塔の中へ入り、長く続く細い階段を上っていく。最上階に着くと、一枚のドアが僕たちを待ち受けていた。


 ドアを開けると、そこは錬金術師の工房を思わせる部屋だった。


 壁一面には天井まで届く棚が並び、色とりどりの薬瓶や見慣れないキノコ、乾燥した薬草が所狭しと並べられている。


 中央の作業台には乳鉢やフラスコ、蒸留器具が無造作に置かれ、部屋の隅では緑色の液体が小さく泡立っていた。


 そして奥には、本を積み上げた机が一つ。その向こうに座る人物は、本から目を離すことなく静かにページをめくっていた。


 僕は、そっと麦の耳元へ口を近づけた。


「あれがパラケルスス?」


「わからん! 声かけてくる!」


 麦はズカズカと本を読む人物の横へ歩いていき、NPCへ声をかけた。


「たのもー! スキル教えてもらいに来ましたー!」


 すると、NPCは本を閉じ、麦に目を向ける。


「私はこの塔の主、パラケルスス。さて、お主は私から毒の知識を学びにきたのかな?」


「おぉぉぉぉ! やっぱ毒関係だったか! 教えておじいちゃん!」


 麦が元気よく答えると、パラケルススはまた本を開き、すぐに本を閉じ、麦へ訪ねた。


「私はこの塔の主、パラケルスス。さて、お主は私から毒の知識を学びにきたのかな?」


「そうだって言ってんじゃん! 早く教えて! クエスト開始して!」


 しかし、パラケルススはまた本を開くと、一瞬だけ目を通し、同じ質問を麦へ投げかけた。


 その後、数回同じやり取りが繰り返され、麦は少しゲンナリした様子で質問へと答えた。


「――学びにきたのかな?」


「…………はい。どうか私めにご教授願えませんでしょうか……」


「良かろう。やっと口の利き方を覚えたか、ったく……よいしょ」


 パラケルススは、やっと本を机の上に置き、中央の作業台へと歩き出した。


 ゆっくり歩いて作業台へ着くと、机の上にあった物を一気に床へ払い落とした。


――ドンガラガッシャーン


 その行動に僕と麦は目を丸くして驚く。僕らの様子など微塵も気にせず、パラケルススは話し始めた。


「さてさて、この部屋にある毒となるものを全て、ここへ持ってきなさい。それがお主に課せられた使命じゃ」


「なーんだ簡単そう! オーケー! まかせんしゃーい!」


(部屋にある毒となるもの全て? 色々あるけど、麦ちゃん見分けられるのかな?)


 数分後、麦はあらゆる草やキノコなどを机の上に乗せた。


「じゃーん! どうよ! これで正解!?」


 それを見たパラケルススは、ため息を吐き、麦へと視線を向けた。


「ばっかもーん! 全然あっとらん! お主は今まで、ここで何を学んできたんじゃ!」


 パラケルススの言葉に一歩身を引く麦。


「え! 何も学んだことないんですけど……。うーん、そっかぁ……」


 麦はそこから腕を組み、考え込む。


 そして部屋をグルグルと見回っていた麦は、何かを思いついたように、部屋中の物を次々と机へ運び始めた。


 中には、毒とも思えないような物まで、ありとあらゆる物を持ってきた。


「え! 麦ちゃん! それ水じゃん! パンも!? しかも食べかけ……」


 机の上が山積みになったところで、麦は大きな手を広げて、パラケルススに机の上を見せた。


「どうよ! これ! その目をかっぽじて、よく見て!」


 パラケルススは机を一周して、上に置いてある物を確認すると、麦に尋ねた。


「ほうほう。して、お主の答えはなんだ?」


「答えはねー! 全部! これいかに!」


(はっ!? 全部!? そんな馬鹿な……)


 パラケルススは少しの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。


「正解じゃ! すべてのものは毒であり、毒でないものはない。ただ量だけが毒であるか否かを決める。お主、よく知っておったのぉ。わしの名言」


「んや! 知らないよ! でも、そんな予感がしたからね! 天才って呼んで!」


 麦の言葉に、眉間にしわを寄せるパラケルスス。


「なんじゃと! では、もう一問だしちゃおっかなぁ~」


「えっ! ちょっ! 無理無理! 勘弁してください!」


 慌てる麦を見て、満足そうに笑うと、パラケルススは麦へ向けて手を伸ばした。


「ほっほっほ。冗談じゃ。では、お主にこれを授けよう」


(意外と茶目っ気あるな……)


 麦が黄色い光に包まれると、スキルが授与されたらしく、飛び上がって喜んでいた。


「わーい! クエスト完了! ほっほーい!」


 僕らは塔を後にし、次の目的地『フィヨルヴァ』へ向かうため、ワープゲートへ歩き出した。



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