第42話 [ドロケイ後半]
マイラーさんによって、一番最初に捕まった僕は、警察陣地にある檻の中にいた。
(ドロケイって確か、仲間にタッチされたら復活できたよな? ってことは、これも同じルールなのか? でも、この状況は……)
檻の前には、槍を持ち、王国近衛兵のような恰好で、微動だにしないトチギさんが佇んでいた。
檻の中からトチギさんに近づき、話しかけてみる。
「あのぉ~、トチギさん? 見張りしてるんですか?」
トチギさんは目だけをこっちに一瞬向け、黙ったままだった。
(……なりきってる)
僕は話すのを諦め、パーティー情報を確認した。
(あれ? 近くに二人? 一人こっちに近づいてきてる)
泥棒チームの誰かが近くに来たと思っていると、トチギさんの前にスッと現れたのは麦だった。
トチギさんが静かに麦に槍を向ける。だが、麦は余裕そうな笑みを浮かべていた。
「ふっ。あっしに刃を向けるなんざ、命知らずな、あんちゃんだ!」
「…………」
(おぉ! さっきまで、あんなにビクビク逃げ回っていた麦ちゃんが! 同じアサシン相手なら勝てるのか!?)
トチギさんが一歩、麦へ近寄ると、麦は手の平を出して待ったをかけた。
「おっと、待ちな! 手荒なマネはしたくねぇ。そこの坊主を逃がすのを見逃してくれりゃ、あんたにこれをやるよ」
麦がそう言って、背中から取り出したのは巨大なピコピコハンマーだった。
(ピコピコハンマー? なんで……)
ピコピコハンマーを見た瞬間、トチギさんが目を見開いた。その反応を見逃さない麦。
「やっぱりね……こいつを持ってないとみた。こいつはファーストアニバーサリーの時に抽選で当たったピコピコハンマー! そう! 選ばれし者の証!」
トチギさんの喉が、ごくりと動いた。僕は飽きれながら麦に声をかける。
「麦ちゃん、あげちゃっていいの? そういうの好きじゃん」
「ふふふ……あっしはなんと! 二個持ってるんでやんす! 前にデスさんがいらないからと! あっしにくれたでやんす!」
(やんす? キャラ崩壊はじまったな)
麦はピコピコハンマーを持つと、ハンマー投げの選手のようにその場で勢いよく回転しだした。
「ア゙ア゙アァァァァァァッ!」
そして、遠くへピコピコハンマーを放り投げる。
それを見たトチギさんがハンマーの方へ、猛スピードで駆けていった。
麦は急いで檻に近づき、鍵マークのところにタッチ。すると、僕は檻の外へと転送された。
「ありがとう麦ちゃん……あれ、なんだったの……?」
「ほら! 今の内に逃げるよ! 早く早く!」
麦と一緒に走って逃げ、家の中へと入った。
「ふぅー。ここまで逃げれば当分は平気かなぁ?」
家の中へ駆け込むと、椅子に腰を下ろし、僕は話しかけた。
麦は人差し指を口にあて、険しい目でこちらを見てきた。
「しっ! どこにサツが潜んでるか分からないんだから静かに!」
「う、うん……ところで、これって泥棒はどう勝つの?」
「制限時間までに半数以上が逃げ切れば、泥棒の勝ちだよ!」
麦と話していると、家の奥でゴソゴソと音がした。
物音に反応して隠れる麦。指を立て、僕に対しGOサインを出す。
(えっ!? なんで僕!?)
必死に抵抗を見せるが、無言で圧力をかけてくる麦に負けて、僕は部屋の奥へと向かった。
部屋の奥をそっと覗くと、大きな金庫の中を漁る背中が見えた。
ドルマークの麻袋を背負った人物が、こちらに気付き振り返った。
「おぉ! ニキやん! 何しとん?」
目出し帽をかぶった、銀行強盗ルックのポポちゃんだ。
「ポポちゃんこそ、何してるの? 金庫あさってた……?」
「なんや、この格好しとると、ついな!」
(つい……ね……)
ポポちゃんは、苦笑いする僕のお腹をぽんぽんと叩くと、笑顔で答えた。
僕らの会話を聞いた麦が顔を出した。
「あれ! ポポちゃんじゃん! ずいぶんオシャレな恰好してんじゃん!」
「ネキもおったんか! 会ったばっかやけど、ここ長居せん方がええで」
ポポちゃんの言葉に首をかしげると、説明を続けてくれた。
「あんなぁ、さっきからロマさんが建物ん中を、しらみつぶしに探し回ってるんよ! うちも金庫ん中見たし、もう出よう思っとってん」
「なるほど! じゃあ、もう出よう! ついでに入口に毒トラップ置いてこう」
家を出ると、足元に人影が落ちていることに気付き、思わず立ち止まった。
(何の影だ……?)
視線を上へ向けると、屋根の上に人が立っていた。
僕が見上げたことに気付いた麦とポポちゃんも、同時に屋根へ視線を向ける。
屋根の上には十手を持った岡っ引き姿のえーさんが、こちらを背に腕を組んで立っていた。
えーさんはこちらを振り返ると、胸元へ勢いよく手をかけ、見栄を切るように腕を広げた。
「この桜吹雪が目に入らねぇか!」
(いや、見えないけど……てか、普通に喋れたのか)
えーさんが普通に喋ったことに驚いていると、隣では麦が驚いて腰を抜かしていた。
「ば、馬鹿な! あの夜桜の彫り物は本物…!? ははぁぁぁ!」
そして、なぜかえーさんに土下座する麦。
「なぁ、今の内に逃げへん?」
「そうだね……」
二人を残して、ポポちゃんと立ち去ろうとすると、えーさんが《縮地》で僕らの前へ立ちふさがった。
そして十手を高らかに掲げ、「御用だ!」と、追いかけてきた。
ポポちゃんは瞬時に《四足獣》を使って距離を取ったが、えーさんが狙ったのはポポちゃんだった。《縮地》で一気に追い上げ、そのまま二人は走り去っていった。
今さら顔をあげて「あれ?」と言ってる麦を引っ張り、二人とは反対方向へと逃げた。
逃げた先で、麦が食べ物屋に気を取られて転んだ瞬間。
――ヒュン
麦の頭を何かが掠めた。
飛んできた方を振り向くと、屋根の上にはスナイパーライフルを構えたSWAT隊員がいた。
「ちょ! えっ!? SWAT来ちゃってるよ!」
麦が慌てる中、よくよく見ると銃を構えていたのは伝心さんだった。
伝心さんがトランシーバーみたいなものに何かを喋ると、今度は僕らの前の建物から別のSWAT隊員が登場した。
「手を挙げたまま、うつ伏せになれ! さもないと撃つっすよ!」
銃を僕らに向けて登場したのは爽真君だった。
(な、なるほど……弓が銃になってるのか……)
両手を挙げる僕と麦に、爽真君が近寄ってくると、突然僕らの前に大きな氷の壁が現れた。
ふわっとマントを翻し、僕らの前に現れたのは、ドミノマスクをつけた怪盗姿の花音さんだった。
「さぁ! 私が銃を防いでる間に早く!」
花音さんが出した氷の壁が、伝心さんと爽真君の銃撃を防いでいた。
身をかがめながら、花音さんにお礼を言った。
「花音さんありがとう!」
すると、花音さんはクルリと背中を向けた。
「違います。私は謎の怪盗……怪盗淑女です! はーはははは!」
そう言って、SWAT隊員二人を相手に怪盗淑女は闘うのであった。
僕は淑女に支援だけかけて、麦と静かにその場を立ち去ろうとすると、バンっと横のドアが開いた。
横を向くと、そこには鬼の形相のロマさんが立っていた。
「ひっ!」
「ぎゃあ! ロマさん!」
「おまえだろ! いたる所に毒トラップかけてったの!」
そこからは、とても早かった。
鬼の形相をしたロマさんに追われ、マイラーさんと角で出会い、僕と麦はまんまと檻へ送られた。
檻へ送られると、横の檻ではロビンフッド風の衣装で、優雅にソファーに座るヴィンテージさんがいた。
「ちょっ! ボンさん、いつの間に捕まってたの!?」
(檻の中でソファーに座ってる……あれ?)
ヴィンテージさんはゆっくり微笑んだ。
「ん~。結構前に捕まっちゃったねぇ~」
麦は檻にしがみつき、トチギさんへ絡みだした。
「ちょっとトチギさん! ねぇねぇ! 今度また何かあげるから、ここから出してよ!」
「…………」
トチギさんは目だけ向けると、黙ったままだった。しかし、槍の代わりにピコピコハンマーを握りしめていた。
その後、檻には次々に泥棒チームが送られてきた。
そして、最後の一人だったポポちゃんが送られてくると、ちょうど制限時間となり、ゲームは終了になった。
檻の前にも皆が戻ってきていて、それぞれの画面に結果が表示された。
――『結果 収監者5人 逃走者1人 警察チーム勝利』――
結果を見て、皆が不思議な顔をする。そこへ一人、勝手に檻から出てくる人物がいた。
「やっと終わったねぇ~」
「えっ!? ヴィンさん!? なんで出てこれんだよ!?」
ヴィンテージさんの姿に驚くロマさん。
「あの横の檻~僕が作ったやつだからね~よく見てごらん~」
どうやらヴィンテージさんは、檻の近くで隠れてずっと様子を見ていたらしい。
トチギさんがピコピコハンマーを取りに走った隙を狙って、檻を設置して中で終わるのを待っていたらしい。
「ガハハハ! 普通に誰も気づかなかったな!」
笑うマイラーさんの横で、ショックを受けて膝をつくトチギさん。
(やっぱり。また檻に送られた時に感じた違和感って……何はともあれ)
「皆と遊べて楽しかったな!」
僕は、ひと時の楽しみを満喫したのであった。




