第41話 [ドロケイ前半]
ホークさんの葬儀から数日後、僕らはPvドームに来ていた。
葬儀から数日経っても、皆が暗いままなのを心配した麦が、Pvドームへ皆を呼びつけたのである。
このゲームでは、PvができるのはGvか一部のPvマップに限られている。それ以外でPvを楽しめるのがここ『Pvドーム』だ。
中では、普通のPvを楽しめる他、『鬼ごっこモード』や『かくれんぼモード』など、通常とは違うモードを選択することもできる。
誰でも入場できるようにも、チームだけで楽しむようにも設定できる。
そんなPvドームへと呼び出されて集まったのは、ロマさん、こころさん、花音さん、伝心さん、マイラーさん、ポポちゃん、えーさん、ヴィンテージさん、そして僕と麦。
あと、麦に「わんわんも誰か誘っちゃいなよ!」と言われたので、わんわんのメンバーにも声を掛けた。
麦が個室の設定を始めると、後ろからロマさんとヴィンテージさんの声が聞こえてきた。
「ヴィンさんがドーム来るなんて、めずらしいな。どういう風の吹き回しだよ?」
「ん~、たまにはね~。僕も幹部らしく、皆のモチベーションを上げるのを手伝おうかなってね~」
その言葉に反応したのは、マイラーさんだった。
「ガハハハ! ヴィンテージが幹部らしくとは! 初めて聞いたぜ!」
マイラーさんは、なんだか嬉しそうにヴィンテージさんの肩へ手を置いて笑った。
部屋の設定が終わった麦が、皆へ声を掛けた。
「ほれほれ! みなさーん! お部屋が整いましてよー!」
麦の言葉を聞いて、皆はそれぞれ部屋へと入っていった。
部屋に入ると、そこは西部劇に出てくるような街並みだった。
「なんや西部にしたんか、ネキ」
ポポちゃんが辺りを見回しながら言うと、麦はポポちゃんの頭をモフモフしながら答えた。
「いや、ランダムにしたから適当だよ!」
「どうせやったら南極がよかったわ。それはそうと、ニキんとこのギルメンはいつ来るん?」
ポポちゃんに聞かれ、僕はギルド情報を確認した。
「もうすぐ着くみたい! ちょっと待っててね!」
まもなく、部屋へ爽真君が入ってきた。
僕は爽真君を呼び、皆へと紹介した。
「僕のギルド、わんわん警備保障の爽真君です!」
「わっ、あっ! 爽真です! よろしくお願いします! うわぁ、メンツがやばいっすねー!」
鷹の面々に驚愕する爽真君の反応を見て、絡み始める麦……と花音さん。
「おやおやおや~? 爽真ちゃんは私と会った時に、そんな反応しなかったではないかな~?」
「私の時もそうでしたね。この対応の違いは、なんでしょう」
「いやっ! 別にそんなつもりじゃないっすよ!」
(かわいそうに爽真君……)
慌てふためく爽真君を見兼ねたロマさんが、ニタニタと絡む麦の頭を軽く小突いた。
――ゴン
「痛っ! ちょっと! ロマさん! 大事に扱って!」
「おまえなぁ、若い子にセクハラするオヤジと同じ目してたぞ」
麦が頭をさすりながら、僕へ訪ねてくる。
「あれ? 一人だけ?」
「あっ、もうちょっと待って!」
すると、すぐに部屋へ入ってきたのはトチギさんだった。
誕生装備をつけて現れたトチギさんを見て、ロマさんが驚く。
「あぁ、誕生の人じゃん! 麦とえーさんが敵わなかった」
その言葉にピクっと反応したえーさんが、ゴソゴソと何かをやりだした。次の瞬間、一発の花火が空へ打ちあがった。
――『Don't cry even if you lose.』――
(かましちゃいなよ花火じゃん……負けても泣くなよって、えーさん……)
花火を見たトチギさんも、コソコソと始める。
――『泣きません』――
トチギさんが打ち上げた花火を見て、ニヤっと笑うえーさん。その笑みに、トチギさんも口角をあげて応えた。
(そこは『負けません』じゃないんだ……)
そして、なぜかもう一発。
――『神奈川県相模原市〇〇〇〇までプレゼント送ってください』――
「えっ! ちょっ! 麦ちゃん! 何してんの!」
「いや、なんか見てたら私も上げなくちゃなって!」
そこへ、マイラーさんが手を叩いて注目を集めた。
「おい! そこらへんにして、そろそろ始めようぜ! 三人とも今日は鷹だからって、遠慮なくやってくれよな!」
「せやで! Gvと違って、アイテムもスキルも制限あらへんからな! 好きにやりぃや!」
マイラーさんとポポちゃんの言葉に、爽真君と僕、それにトチギさんは力強く頷いた。
今日僕らが行おうとしているのは『ドロケイ』だ。地域によってはケイドロとも呼ばれている。
泥棒チームと警察チームに分かれて、警察が泥棒を捕まえていく、集団鬼ごっこみたいなものだ。
警察と泥棒のチーム分けは今回ランダムで決めた。勝手にチームごとのパーティーが組まれ、衣装もランダムで配布される。
『警察チーム』ロマさん、マイラーさん、伝心さん、爽真君、トチギさん、えーさんの六名。
『泥棒チーム』麦、ヴィンテージさん、こころさん、花音さん、ポポちゃん、そして僕の六名。
チームが決まったところで、皆は配置位置に飛ばされた。
警察チームは檻の前の警察陣地に飛ばされ、泥棒チームはマップに各々ランダムで飛ばされる。
僕はどこかの家の中へと、配置された。
(泥棒チームかぁ。不安だなぁ……とりあえず仲間を探すか。しかし、これって……)
僕に配布された衣装はオレンジの囚人服だった。
(泥棒っていうか、すでに捕まってるじゃん……)
家の外に出てマップを確認する。すると、すぐ近くにパーティーメンバーのマークが出ていた。
詳細を確認しようとした時、ポンっと肩を叩かれた。
「文ちゃん! 近くに飛ばされて良かったね!」
僕の前に現れたのは、唐草模様の手ぬぐいを頭に巻き、同じく唐草模様の大きな風呂敷を担いだ、昔ながらの泥棒の恰好をした麦だった。
「麦ちゃん! 良かったー! 僕、ドロケイやったことなくて不安だったんだよ」
「えっ? 子供の時よく一緒にやらなかったっけ? まずね、警察と泥棒に分かれてね」
「違うよ! ドームでやるドロケイだよ!」
麦がドロケイ自体の説明を始めようとしたので、慌てて遮った。
「あー! じゃあ、とりあえず移動しながら教えてあげるよ!」
麦が歩き始めたので、僕はついていった。
「これって、どうやったら捕まるの?」
「うーんとね、動きを止めるかHP0にして倒れたとこを、『ポリ公とお友達手錠』を使って捕まえるんだよ!」
「ポリ公と……って、なんか聞き覚えがあるような?」
僕が口にした瞬間、麦は膝をついて前に倒れた。
「くっ……! 前にイベントで手に入れた、『お友達手錠』の衣装……」
(あっ! そういや、前に図書館でロストしたとか言ってたな……あれか)
倒れている麦を起こし、また歩き出した。
僕はさっき聞いた中で、引っかかったことを尋ねてみた。
「HP0って、攻撃してってことだよね? 支援職不利じゃない?」
「そうでもないよー! ロマさんは得意だよ? この前なんて、ゾンビパウダー投げつけて、ヒールで倒してたし」
「えっ!? ヒールで!? さすが超回復ヒール……」
そこへ、通りかかったバーのスイングドアが、勢いよく開いた。
「俺のこと呼んだのはお前らか? おいおい、こりゃ。真っ黒なドブネズミがいるぜ!」
「バァン!」と開いたドアから出てきたのは、アメリカンポリスの恰好をしたロマさんだった。
「げっ! ロマさん!」
僕と麦は思わず走り出した。それを追ってくるロマさん。
麦の遠投ナイフや毒攻撃は、悉くロマさんによって回復され、僕らは路地に追い込まれた。
ロマさんが警棒を手に、ジリジリと寄ってくる。
「そんなに急いでどうした? お袋さんが産気づいたのか?」
追い込まれた僕たちが震えていると、ロマさんの後ろから笑い声が聞こえてきた。
「ふっふっふ」
笑い声の方を見ると、セクシーなライダースーツを着た、こころさんが壁に寄りかかっていた。
その光景にロマさんは思わず、サングラスを取ってしまう。
こころさんは、見惚れているロマさんに向かって、投げキッスをした。
「ロッマ~ん」
「こっころちゃ~ん!」
そう言って、ロマさんはこころさんに向かって走っていった。
(そこは『逮捕だー!』じゃないんだ……)
セクシーなポーズをしているこころさんに、ロマさんが飛びつく瞬間――
【魅惑】
「しまった……」
ロマさんはチャームに引っかかり、動きを止めた。
「むぎちゃ~ん、今だよぉ~」
こころさんの合図で、麦が目を輝かせ、ロマさんを猛攻撃。ロマさんはHP0になり、姿を消した。
「あれ? ロマさんが消えた……」
「あぁ! 警察はHP0で倒れると強制的に陣地に飛ばされるんだよ!」
「ちゃんとぉ~回復された状態でねぇ~」
「へぇ! そっか、警察は倒されても平気なんだ」
(ロマさん、きっと陣地でうなだれてるだろうな……)
僕らが路地から出て、歩き出そうとすると、行く手を塞ぐ人影。
「この街も変わらねぇな……愛馬の好みと……」
目の前にいたのは馬に乗ったカウボーイ風のマイラーさんだった。
(えっ……馬!? あ、竜か)
投げ縄を横で遊ばせながら近付いてくるマイラーさん。
「目の前の賞金首以外はなっ! タンブルウィードのように転がしてやるぜ!ヒャッハー!」
マイラーさんは、投げ縄を頭上で回しながら馬で駆け寄ってきた。
(さっきから、やけに皆ノリノリだな……)
後ずさりしようとすると、こころさんが僕らの前に立った。
「まかせてぇ~!」
【チャーム】
チャームの範囲ギリギリで避けるマイラーさん。
「おっと、危ないお嬢ちゃんだ。騎士にも遠距離攻撃はあるんだぜ?」
そう言いながら、マイラーさんは僕らの後ろに回り込み、見た目が銃になった剣を構える。
「やばい! 何かくる! みんな気を……」
僕がそこまで口にして振り向くと、麦とこころさんは、すでに猛ダッシュで逃げ出していた。
「え、えぇぇぇ……」
結局、マイラーさんに倒された僕は、手錠をはめられ檻に飛ばされた。
檻へ飛ばされる直前、マイラーさんが笑顔で言った。
「あんま、お袋さん泣かすんじゃねぇぞ!」
――ヒュン
檻に飛ばされるとHPは全回復しており、手錠も外れていた。
(はぁ……一番最初に捕まったのは僕かぁ。まぁ、囚人だしな)
檻の中でため息を吐き、窓の外を眺めるのだった。
――後半へ続く――




