第40話 [飛び立つ想い]
第40話 [飛び立つ想い]
ホークさんにリアルで会いに来てほしいと頼まれた麦の代わりに、会いに来た僕は一人の少年と出会っていた。
鷹の皆や麦の話を聞くうちに、頭の中には実行してはいけない考えが何度もよぎっていた。
僕が悩んでいると、膝の上に置いた手に、そっと手が添えられた。
顔をあげると、真剣な眼差しがこちらを向いていた。
「麦に伝えてほしい。今まで君に何度も救われた。ありがとう、と」
僕はその言葉を聞いて、胸の中で何かがスッとほどけた。
「自分で伝えるといいよ」
「えっ? 電話とかで?」
「いや、ゲームの中で」
僕はホークさんに全てを打ち明けた。事故にあって死んだこと。ゲームの中で生きていること。
ホークさんは最初こそ半信半疑だったが、話が進むにつれ、真剣な表情で頷いていた。
「そうだったのか……」
「だから君も、もしかしたら麦ちゃんみたいに……」
そこまで言いかけて、僕は言葉を飲み込んだ。
ホークさんは俯く僕を見て、優しく声を掛けた。
「それもいいかもね……でも僕はずっと、自由に自分の目で外の世界を見たかった」
そう言うと、ホークさんは窓の外へ目を向けた。
「……転生するなら鳥になりたいな」
外を見つめるホークさんは、この日一番の笑顔だった。
その後、ホークさんのパソコンを借りて麦に連絡を取り、二人はゲームの中で会うことになった。
僕は二人の会話を聞いてはいけないなと思い、病室の外で待っていることにした。
食堂などで時間を潰し、三十分ほど経ったところで病室へと戻った。
静かにドアを開けると、ちょうど話が終わるところで、ホークさんは麦に別れを告げていた。
VRを外しながら、ホークさんはぽつりと呟いた。
「あれは……本当に……?」
僕に気付いたホークさんがVRを机に置いた。
「文月さん、ありがとう」
そこには、また少し少年の顔に戻ったホークさんがいた。
「良かったら、また話を聞きに来てもいいかな?」
ホークさんは静かに頷いた。
「もちろん」
僕はそれから、何度かホークさんの病室へ足を運んだ。行く度に昔の話など聞かせてくれて、優しい顔を向けてくれた。
だけど、最後に見た姿は動かなくなったホークさんだった。
(分かってはいたことだけど……)
ふと、窓の外に視線がいく。
病室の窓から見えた風景は、青々とした空に、山のような白い入道雲が並ぶ、まさに絵に描いたような綺麗な夏空だった。
(飛び立つには、気持ちがよさそうだな……)
そう思いながら、僕は頬を伝う涙をぬぐうのであった。
――数日後
皆には病気のことやリアルのことは、話さないでほしいと頼まれていた。
だけど、勘づいているメンバーもいれば、引退という言葉だけでは納得できていないメンバーもいた。
悩んだ末、僕は幹部の皆にだけ事情を話すことにした。
「……というわけなんです。黙っていて、すみません」
「おまえが謝ることじゃねぇよ。それがホークさんの願いだったんだから」
ロマさんは僕の肩にそっと手を置いた。
「なんとなくは気付いてたけどね~。そっか……」
ヴィンテージさんは少し悲しそうに微笑んだ。
「あいつは最後まで、ホークのままだったな。……しかしよぉ、他のやつらはどうする? 納得いってないやつらからは不満も出てるぞ」
マイラーさんは頭を搔きながら、悩んでいた。
そこにデスさんが手を挙げる。
「……ゲーム内で葬儀をあげるのは、いかがでしょう?」
デスさんの発言に食いついたのは麦だった。
「それいいね! やろう! パーッと皆で送り出してあげようよ! そんぐらいじゃホークさんも怒らないよ!」
麦に向かってため息をつくロマさん。
「おまえなぁ、怒るかもしんねぇだろ。怒って化けて出たら全部おまえのせいにすんぞ」
「もう化けて出るなら、化けて出るでウエルカムだよ! 皆だって、ちゃんとサヨナラしたいはずだよ!」
麦の言葉に、その場にいた皆は顔を見合わせ、頷いた。
鷹のメンバーに事情を話し、後日、たまり場で葬儀が行われることになった。
葬儀の日。鷹のたまり場にはヴィンテージさんが作ったホークさんの像が静かに佇んでいた。
ホークさんの像の前には、ホークさんに敬意を示し、髪を赤色に変えた鷹のメンバーが揃った。
花屋で売られている花を一人一本ずつ手に取り、誰からともなく像の前へ歩き出す。
一輪、また一輪と花が供えられ、その度に静かな祈りが積み重なっていった。
ギルドメンバーだけのはずが、気付けば他のギルドの人たちも参加していた。
置いたら九十秒後には消えてしまう花だが、ホークさんの前にはたくさんの花が積みあがった。
(ホークさん……こんなに大勢の人が、あなたのことを想ってますよ)
病室から笑って外を眺める少年も、たくさんの花に囲まれるホークさんも、僕はきっと忘れないだろう。
これにて第三章は終了です。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
次回からは第四章です。




