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第36話 [火蓋]


――K1ポータル前


 俺たちは準備を整え、開始の合図を待っていた。


「鐘が鳴ったら突入する! 順次速やかに城内へ! 各自、持ち場を意識して動け!」


 ホークさんの号令に、鷹のメンバーの表情が引き締まる。


 俺の隣では、麦が鼻息を荒くしていた。


「おぉぉぉ! やっちゃるぜぇぇぇ! ロマさん遅れるなよ!」


「おまえなぁ、先走って死ぬなよ」


 K1には四つの入口がある。


 だが、魔石部屋への入口は一つだけだ。


 きっと戦士の連中は、魔石部屋前で待ち構えている。


 俺たちは一団となって進軍するが、城内では小グループに分かれて行動する。


 そうすることで、各所の戦況を把握しやすくし、援護にも向かいやすくなる。


 俺はホークさんとヴィンさんの指示で、麦とペアを組み、前線の状況に応じて動く役目を任されていた。


――ゴーン、ゴーン


 Gv開始の鐘の音だ。


 ホークさんを先頭に、順に城内へと入っていく。


 城内に入ると静かで、奴らが魔石部屋前で待機していることを物語っていた。


 俺らは陣形を整え、トラップを回避しつつ、魔石部屋を目指した。


 その間、吹き抜けのある中庭を通った時、上の廊下で戦士の斥候の慌てた声が響いた。


「なっ! おいおい、本当に鷹が来てるぜ……。しかも、あれってエロリーナじゃん!」


 斥候の慌てた声を聞いたリナが、斥候に向かって笑顔で手を振り、その横で伝心が斥候に向かって矢を放った。


 矢を避けた斥候は慌てて、魔石部屋の方へ駆けていった。


 リナは伝心の肩に手を置く。


「伝心よぉ、そこは当てとけ!」


「さすがに当たらなかったですね! 次は当てます!」


 魔石部屋が近づくにつれ、スキルの重なる音が響いてきた。


 俺らも支援を切らさず、各々で自身を強化するスキルも使い、いつでも戦闘に入れる状態で進んでいった。


 廊下を抜けると、魔石部屋の入口がある大広間に辿り着いた。


 目の前には、大勢の戦士たち。


「いくぞ」


 ホークさんの一言を合図に、俺たちは一斉に攻撃を開始した。


 大きな盾を構えるクルセイダー。その後ろにはプリースト。重なるペアダンスの効果。


 こっちの攻撃は効きもしない。お互いに近づけないよう大魔法は飛び交い、一進一退の攻防が続いていた。


 麦がイライラし始める。


「ちょぉぉぉい! 行けないじゃん! 進めないじゃん! ディサピアーで隠れて、ちょちょいって行ってくる!」


「待て待て。今、行ったって、魔法で一瞬蒸発なの分かってんだろ。耐えろ。崩れる時を待て」


「待ては犬にするものであって、人間にはしないんだよ? ってことで行ってく……」


――ゴン


 話を聞かない麦の頭を杖で叩き、首根っこを摑まえた。


「おまえはいつから犬より偉くなった。待てが出来るようになってから、人間らしいこと言え」


 俺と麦が騒いでる後ろで、リナが伝心へ小さく声を飛ばした。


「おい、伝心」


「なんですか? 先生」


「お前、あそこ見てみろ」


 リナが顎で示した方を伝心が見ると。


「あっ! 隙間ありますね」


 伝心が見た先には、重なる支援や防御魔法の僅かな隙間があった。


「私があの隙間、狙ってやるよ。だからお前は……」


「前を狙うんですね!」


「ほぉ! 分かってんじゃん!」


 二人の会話が終わると、伝心はこれ見よがしにクルセイダーに向けて、高速の矢を連射した。


 矢を受けているクルセイダーは、それを鼻で笑う。


「ふん! そんなんじゃ死なねぇっての。……地味に痛てぇな。回復切らすなよー」


 クルセイダーと周辺にいた支援が、伝心の矢に意識を誘われた瞬間。


 その後ろでソーサラーの身体が石化する。


(おっ!)


 リナが撃った【リコシェアロー】だ。


 壁を反射した矢は、背後のスキルの隙間を縫って、大魔法を放っていたソーサラーに命中した。


(石化矢か! リナのやつ、ずいぶん賭けにでたな!)


 一部、大魔法が消えたのを花音は見逃さなかった。


 少し前へ出て得意の高速詠唱で、石化したソーサラーの近辺に瞬時に魔法を放つ。


 伝心の矢に意識を奪われていた支援が、石化解除にまごついて遅れを取ると、花音の魔法を食らう。


「デスさん!」


 花音がデスの方を向くと、すでに詠唱を終え大魔法を放とうとしているデスが笑った。


「ははははははははは! 食らえええええ! カスどもおおおおお!」


 乱れ始めた敵陣へ、デスさんの重い大魔法が直撃した。


 魔法耐性を張っていてもHPの低いやつ、魔法耐性が低いやつらは、デスさんの一撃で沈んだ。


 それを見た花音は、少し誇らしげな顔をしていた。


「デスさん……さすがです!」


 一部の陣形の崩れを見たホークさんが、突撃指示を出した。


「突っ込め!」


「ひゃっほぉぉぉ! やっとかい! やっとなのかい!」


 麦は一番に飛び出していった。


「あの、アホ……」


 戦況はあっという間に乱戦状態へ、もつれこんだ。


 俺は麦を庇いつつも、乱戦状況をすり抜け、魔石部屋の入口に向かった。



――その頃、文月たちは……。


 僕たちはJ5を駆け抜けていた。


 わんわんだけじゃない。同じ赤チームの強豪レーサーたちと一緒に走れることが、とても心強かった。


 一緒に城を周っているのは、わんわんのメンバーとだが、会場ごとで同じ赤チームに出会う度にお互いに目を合わせ協力し合う。


 この普段とは違う紅白戦で、僕は更にレースを好きになっていた。


「あっ……!」


 気づけばセーブポイントに戻され、『Jack5 castle Wildcat tail』とアナウンスが流れていた。


 今、J5を割ったキレマスさんも、赤チームのセーブポイントに戻ってきていた。


「よっしゃー! 次いくよー!」


 赤チームのたまり場は、大勢が割っては戻ってきて、すぐにまた割りに行くという世話しない状況だった。


 セーブポイントに戻された僕と犬彦さん、皐月さんも、すぐに城へ向かって走り出す。


 初めてのレースだろう皐月さんに声を掛ける。


「皐月さん大丈夫ですか? 疲れてません?」


「平気ですよぉ。こういった経験も楽しいですねぇ」


 穏やかに笑う皐月さんを見て、犬彦さんが微笑んだ。


「皐月さん、妨害も出来るし、支援もしてくれるから、かなり助かるよ」


「いえいえ。まだまだ動きに無駄があるので、改善していきますねぇ」


 僕たちは、三人で動くことに慣れてきたところだった。


 またJ5の城を狙って走っていると、城の手前で正宗さんと出会った。


 正宗さんは僕に気付くなり、走りながら近寄ってきた。


「おい、犬。今日はあいつ、いねぇのか?」


 正宗さんは僕を一瞥(いちべつ)すると、すぐに視線を前へ戻した。


「あいつって……麦ちゃんのことですか?」


「そんな名前だったかもな。別んとこ走ってんのか?」


「いえ。麦ちゃんは今日、鷹の方に行っています」


 僕の言葉に正宗さんは鼻で笑った。


「ふん! だろうと思ったぜ! 結局あいつレースから逃げたか」


 胸の奥が、少しだけ熱くなった。


 何も知らないくせに。そう思った時には、勝手に口が動いていた。


「麦ちゃんは逃げてませんよ! 出たかったけど事情があって……」


 言葉を言い切る前に、正宗さんの姿は遠くになってしまっていた。


 僕は、なんとも言えない気持ちを抱えたまま、走り続けた。


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