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第35話 [重なる想い]

 夏イベントが終わり、次の週の日曜日。ついに、レーサー紅白戦がやってきた。


 僕は数時間後に迫る紅白戦を前に、鷹の皆の様子が気になり、鷹のたまり場に来ていた。


 ホークさん引退の呼びかけに休止していたメンバーまで参戦するらしく、懐かしいメンバーとの再会に喜びの声があがっていた。


 麦を見つけて近づくと、横には知らない女性が立っていた。


 オレンジのポニーテールが印象的な、はつらつとした雰囲気のアーチャーだ。


「あっ! 文ちゃん!」


「やぁ、少しだけ様子を見にきたよ。そちらの方は?」


「これはリナちゃん! これは文ちゃん!」


 麦はアーチャーの女性と僕を交互に指差すと、簡単に紹介した。


(すごい簡単だな……)


「初めまして、文月です」


 紹介を始めると、リナさんは顔をグッと近づけ、豪快に笑った。


「おう! 話は聞いたぜ! あんたが麦の旦那だってな! あんたも苦労すんね! 今日しかいないけど、よろしくな!」


「今日だけですか?」


「そっ! 私、休止中なんだよ! んでも、ホークさんから連絡あってさ。引退するってんじゃん! 来ないわけいかないよなー!」


 気さくなリナさんに、僕は自然と好印象を抱いた。同時に、ホークさんのために休止中にもかかわらず駆けつける人が、他にもいるのだと知り、その人望の厚さを改めて実感した。


(この前のGvより、人多いなぁ)


 辺りを見回していると、僕らの方へ駆け寄ってくる足音がした。


「エロリーナ先生!」


 声の方を向くと、伝心さんが手を振りながら笑顔で走ってきた。


「えっ、エロ……? え?」


 耳を疑って聞き返したら、リナさんは大きく笑い、僕の背中を叩いてきた。


「はははっ! その反応、久しぶり! 私の名前、本当は『エロリーナ・ゲロリーナ』だからさ! 長いから略されてんだよ!」


(更にひどい……)


 伝心さんがリナさんの前まで来ると、早速二人は話し始めた。


「先生お久しぶりです! 来るかもとは聞いてたけど、本当に来てくれたんですね!」


「おう! 伝心、久しぶりだな! 少しは強くなったかー? あと先生はもうやめろ!」


「僕にとっては、ずっと先生ですから! まだまだですけど、頑張ってますよ!」


 二人をニコニコ見つめていた麦が、突然叫びだす。


「あっ! 文ちゃん! もう二時間前じゃん! 行かないの?」


「まだ二時間もあるから、もうちょ……」


 そう言いかけると、麦は僕の肩を掴んだ。


「何言ってんの! 二時間前から、きっちりちゃっかりちゃんと準備しないと! ほら、もう行きんしゃい!」


(ロマさんとかの様子も見たかったんだけどな……まぁ皆忙しそうだし行くか)


 ワープポータルへ歩き出した僕の背中に、麦が声を掛けてきた。


「文ちゃーん! 楽しむんじゃよ!」


「うん!……じゃよ?」


 僕は普段Gvで集まっている場所とは別で、紅白戦出場チームが集まる場所へと向かった。


 僕ら赤チームの集まる場所へと着くと、犬彦さんの姿があった。


 犬彦さんの近くに行き、挨拶をする。


「犬彦さん! こんにちは! もう結構集まってる人いるんですね」


「おぅ、文か。赤チームのギルド同士、同盟組んだりしなきゃだからな」


「あっ、そっか。わんわんは他に誰か来てますか?」


「トチギさんと爽真があっちで準備してるぜ。文も準備してこい。いつもと流れが違うから、直前は慌ただしくなるぞ」


 犬彦さんにそう言われ、僕も「準備しないと」と倉庫へと向かった。


 倉庫前で準備をしていると、後ろから声を掛けられた。


「あー! いたいた。探したぜ、七さん!」


 声に振り向くと、そこにはイチさんと皐月さんが立っていた。


「あれ? なんで二人がここに……?」


 僕は首を傾げた。


「麦飯さんからお願いされて来たのですがぁ」


「えっ! 麦ちゃん?」


「そう、皐月さんがお願いされたみたいで、俺らにも連絡きたんだ」


(さっき会った時はそんなこと一言も言ってなかったぞ……もう……)


 驚く僕を見て、二人は顔を見合わせていた。


「七さん、まさか聞いてなかったのか」


「ふふ。麦飯さんらしいですねぇ。文月さんを助けてほしいと、必死にお願いされてましたよぉ」


 自分が鷹のGvに参加することになったのを気にしていたのか、麦は皐月さんに自分の代わりに僕たちを手伝うようお願いしていたらしい。


「でも皐月さんも自分のギルドで出ないといけないんじゃ?」


「今回は私たちが守るK4は、K1が激しく動くみたいで、特に動きそうもないのでぇ。マスターからも許可をいただいたので大丈夫ですよぉ」


(K1が激しく動くって、麦ちゃんたちのことか……!)


「麦ちゃんが言ってたんですか? K1を攻めるって」


「私は別の方からお話を伺いましたが、そういった話は簡単に他のギルドに漏らさない方がいいですよぉ」


 皐月さんは口に人差し指をあて、静かに僕に教えてくれた。


(そっか。麦ちゃんにお願いされたからって、つい麦ちゃんが話したんだと思ってしまった……これからは気を付けよう)


 皐月さんとイチさんが手伝ってくれることを犬彦さん達に伝えると、わんわんの皆はとても喜んでいた。


 そんな中、ミストさんがトチギさんに詰め寄っていた。


「ねぇねぇ! トチギさん、いいかげん教えてよ!」


「…………」


 トチギさんは黙ったまま、ミストさんに揺さぶられていた。僕がミストさんの止めに入り、事情を聞く。


「ミストさん、そんなにトチギさん揺らしてどうしたんですか?」


「もう! トチギさんったら、麦さんから何もらったのか全っ然! 教えてくれないのよ!」


「えっ! 麦ちゃん?」


(ここでも麦ちゃんの見えざる力が働いてる……)


 話を聞くと、どうやら数日前にわんわんのたまり場に麦が突然来たらしく、トチギさんに何かを渡していたらしい。


 それを目撃したミストさんが何を貰ったのか聞いたけど、答えてくれなくてモヤモヤしていたみたいだ。


「麦さんがね、トチギさんにいざとなったら使えーって」


「いざとなったら?」


(一体、何を渡したんだろう……というか、なんで何も言ってくれないんだ?)


 意外なところから麦の話がいくつも出てきて驚いたが、僕らは紅白戦に向けて準備を整えるのであった。



――同時刻、鷹のたまり場。


 皆が準備を進めている中、俺はホークさんとヴィンテージさん、マイラーさんと話していた。


「よし! トラップの場所も把握したし、あとは行ってみてだな!」


「う~ん。ロマ君さ~、お願いがあるんだ~」


「なんだよ、ヴィンさん? 改まって」


「麦飯ちゃんのこと~、見張っててね~」


 なんで俺が?と口まで出かかったが、ヴィンさんのことだ、何か考えがあるのだろうと、特に追及はしなかった。


「わかった。じゃあ俺はなるべく前線出て、麦の側いるよ」


 俺が頷くと、マイラーさんがニヤついて、こっちを見てきた。


「ロマはヴィンテージの言葉なら素直に聞くよな!」


「マイラーさんの言うことだって、ちゃんと聞くぜ?」


「ガハハッ! 幹部の中じゃ、ロマは割と素直だったな! あー、麦の言うことだけは聞いてなかったな!」


「そりゃそうだ。あいつの言うことなんて聞いてたら、命がいくつあっても足りねぇからな」


 俺たちが笑い合っていると、ホークさんが横で立ち上がった。


「さぁ、最後の準備をして、ポータル前へ行こう」


「そうだね~。そろそろ時間だしね~」


 マイラーさんが鷹の皆に集合をかけた。皆はホークさんの前に集まり、静かにホークさんを見つめた。


「皆、今日は私の我儘でK2奪還ではなく、K1へ行くことになってしまい、すまない……だが。首位に居座り続ける『戦士』に目にものをみせてやろう! その椅子を奪うのは我々だと! 我々、鷹が頂点に立つ時がきた! さぁ行こう!」


 ホークさんの演説が終わると、皆の雄叫びが一斉に響き渡った。


 皆が一斉に動き出すと、ホークさんは俺ら幹部を引き止めた。


「皆、ありがとう」


「ありがとう……って、言うのは早いぜホークさん!」


 俺の言葉に、麦が続けるように口を開いた。


「そうそう! ぱーっと城かっさらってから、お礼でも謝礼でも受け取るよ!」


 幹部の皆が力強く頷くと、ホークさんもまた応えるように頷いた。


 俺らは、最後の準備を終えて、K1へと続くポータル前へ歩き出した。



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