第12話[パキヨムの最期]
連続で不運が続き、一時はどうなるか分からない程のピンチを迎えるも、なんとか乗り切った僕たちはパキヨムの終盤戦へと差し掛かっていた。
(ロマさんが言うには、もういつパキヨムが倒れてもおかしくないはず……最後の一撃がくるのも、もうすぐってことか……)
本来なら麦が倒れても、戦利品を拾う誰かが起きてればいい。
なので、最後の一撃は麦を見捨てて、生き残りそうな人たちを防御魔法などで守るというロマさんの作戦は正しい。
だが、麦を死なせたくない僕は焦っていた。
(ここからじゃ咄嗟に麦への支援は届かない……どの道、最後の一発が放たれて僕のヒール1回あてたとこで、今の装備の麦ちゃんは守れないだろう……)
いつ最後の一発が出てもおかしくない状況で、僕は自分が出来ることを必死に探す。
(最後、伝心さんと花音さんには申し訳ないけど見捨てさせてもらって、一か八かで麦にあれを使うか……。間に合うのか……?)
そう考えていた矢先。──ピギャアアア
パキヨムが叫ぶと、ピンクの体が光だした。
「くるっ!」
ロマさんの言葉に反応して前に出ようとしたが……。
──モジャスキィィィィ
パキヨムの最期の雄叫びとともに、強烈な光が辺りを包んだ。そして爆風に乗ってパキヨムの毛が辺り一帯に吹き飛んだ。
強烈な光で目の前が真っ白になった瞬間、麦の前に立つ人影が見えた。
光の中、目を細めて見ると……麦の前には大きな盾を持ち、腰まである赤い髪を靡かせた人物の後ろ姿があった。
【大いなる盾】
それは『クルセイダー』だけが使える、自分より後方の全てを一撃だけ守る絶対防御のスキルだった。
ロマさんが自分の顔の前に手を翳しながら、その人物の名を呼んだ。
「ホークさんっ!?」
光と爆風が収まると、僕たちのモニターには『win』の文字が出ていた。
肩の力が一気に抜け、僕はその場に立ち尽くした。
「僕たちが勝ったのか……?」
麦は大喜びでホークさんの背中に飛びつく。
「ひゃっほおぉぉぉ! 取ったあぁぁ! ナーッイス! タイミング! ホークさんっ! やるやるぅー! フッフー!」
ホークさんが少し笑うと、背中にしがみついてる麦の頭に手を置いた。
「それより先に戦利品を拾ったらどうだ? ……ほぉ、これは……」
ホークさんは目を見開き、自分の足元を見た。
皆も麦たちの元に駆け寄り、ホークさんの足元へと目をやった。
こころさんとロマさんの喜びの声が聞こえてきた。
「どぉ~お~? わぁ~!」
「わっ! まじかっ! やったなっ!」
僕も少し遅れて、皆の側へ駆けて行った。
皆が喜ぶ目線の先を見ると、そこには色々な戦利品が落ちていて、中でも僕らを興奮させたのが拳大の濃いピンクに輝くハート型のジュエルだった。
「キィィィィ……取られたぁぁっ! 悔しいぃーっ!」
地団駄踏んで悔しがる織姫さんを、戦士のメンバーが引きずって連れて帰っていた。
ホークさんの背中から飛び降りた麦は、戦闘の緊張が解けたのか、それとも疲れたのか、その場に座り込んだ。
「初パキョ!? やったぁぁーぁー……」
伝心さんがガッツポーズを取る。
「すごいっ! 快挙ですね!」
その横では花音さんも、少し嬉しそうに口元をあげていた。
「しかも戦士に勝てるなんて……!」
ホークさんは大興奮の皆に体を向けて、皆を讃えた。
「皆、ご苦労だった。あの戦況でよく勝てたな」
すると、ロマさんが戦利品を拾いながらホークさんに問いかける。
「まさかジュエルが本当に出るとは思ってなかったけどなっ! しかし、ホークさんがどうしてここに?」
ホークさんは頷き、ロマさんを真っ直ぐに見返す。
「あぁ。繋いだ時にたまり場の連中に聞いて来たんだが……もうラストだったな。すまない」
ロマさんと一緒に戦利品を拾うのを手伝っていた伝心さんが笑顔で答えた。
「むしろ絶好のタイミングでした! さすがマスター!」
ハート型のジュエルを抱き締めるこころさんもホークさんに笑顔をむける。
「おかげさまでぇ~誰も死ななかったよぉ~」
その後ろの方では花音さんが麦に話し掛けていた。
「麦さん、何か顔色悪くないですか?」
戦利品を拾い終わったロマさんが立ち上がり、
「よぉっし! たまり場に帰って皆に見せてやろうぜっ!」
そう言うと、皆は帰還スクロールを使い街へと戻った。
ボスジュエルが出たこと、それがしかもサーバー初だったこと、何より戦士側に勝ったという興奮で皆はすごくテンションが上がっていた。
そして、たまり場に帰る道中に……。
「おい」
僕はまたロマさんに呼び止められた。
ロマさんは頭の後ろを掻きながら、照れくさそうに話しかけてきた。
「よくやったな。まぁ、まだまだな部分も多いが、初めてのボスにしては動きが良かったんじゃないか?」
「ありがとうございますっ! ロマさんに貸してもらった装備もそうだけど、教えてもらったスキルに助けられましたっ!」
僕は自分より遥かにプレイヤースキルが上のロマさんに、少し認められたのだと思い、すごく嬉しかった。
照れくささで目線を逸らしていたロマさんが僕に目をやると、
「そっか! ……そういや、ちゃんと名乗ってなかったな。俺は『Romanée-conti』。まぁロマのままでいいけどなっ。これからもたまに来いよ!」
そう言って笑顔で僕に手を差し伸べてくれた。
「はいっ! よろしくお願いしますっ!」
僕も笑顔でロマさんの手を取るのだった。そして、僕は思ったことを口にする。
「それにしても……名前、いやらしいですね」
「うるせぇ!」
僕は「大手だから」と勝手に距離を置いていた。けれど鷹の人たちは、気さくに話しかけ、装備を貸し、冗談を言って笑い合える人たちだった。
思い込みで勝手に遠ざけていた自分に少し恥ずかしく感じながらも、今回のボス戦で仲良くなれた鷹の人たちと、もっと関わり合いたいと思うのであった。
(麦も死なずに済んだし……! 良かった良かった!)
「んっ!? って、あれ!? 麦ちゃんはっ!?」
花音さんが無表情で指差す。
「あそこで倒れてます」
僕たちの後方に泡吹きながら倒れている麦。
「えっ!? えぇぇぇぇぇ!? なんでぇっ!?」
麦のHPバーは0になっており、僕は何があったのか分からず驚いた。その横でロマさんがため息を吐いた。
「はぁ……あのバカは」
麦は泡吹きながらピクピクした手を伸ばして、助けを呼んでいた。
「たっ、たちけて……」
どうやら、パキヨムの時に口にした回復と一緒に、前提クエで拾った超レアな毒キノコまで勢い余って一緒に食べてしまったらしい……。
花音さんが淡々と教えてくれた。
「HPが減っていくの気づいてましたけど、面白そうなので傍観してました」
しかし、不安であったゲーム内での死亡は今までの苦悩とは打って変わって、いとも簡単に解決した。
(あーぁ。僕の心配、返してほしい……)
──翌日
「ねぇ~? どぉ~お~? 防具にジュエル付与してきたのぉ~」
こころさんがその場でふわっと回って見せてくれた。それに興奮する僕とロマさん。
「なんか魅惑が強化されたようなっ!」
「………………いいっ!」
こころさんに皆が称賛の声を上げる中、麦はそっぽを向いていた。
そんな麦にこころさんが近寄り、顔を覗き込む。
「ねぇ~ねぇ~麦ちゃんどうかなぁ~?」
「へっ!? いやっ! いいよ~! こころんはいつでも最高だよ~」
(目泳いでんじゃん)
目が泳ぐ麦を見て、こころさんは更に顔を近付ける。
「ふ~ん。いつも思ってたんだけどぉ~麦ちゃんってぇ~こころと目合わせてくれないよねぇ~。もしかしてぇ~こころのことぉ~キ・ラ・イ?」
「えっ!? ちっ、違うよ! 好きだよっ! むしろ尊敬してるよっ!」
焦った麦はこころさんの目を見て訴えかけた。
「でも私……こころんみたいな可愛子ちゃん直視してると……………………チーン」
その様子を見ていた僕は苦笑いするのだった。
「あっ、魂ぬけた」
麦は昔からある種トラウマとでも言うのか、こころさんみたいな女の子らしい可愛い子を見てると防衛反応で意識が飛ぶのであった。
こころさんは口元に手をやり、クスクスと笑った。
「なんだぁ~! こころの魅惑が足りないのかと思ってたけどぉ~良かった!」
そう言って、皆の方へとくるりと向きを変えた。
(魅惑が足りなかったら今度は何する気なんだ……)
メンテナンスやゲーム内での死亡など、とりあえずの心配が去った僕たちは、しばらくの間、和やかにゲームを楽しむのであった。
これにて第一章は終わりです。




