45.
「夢での反応から緋乃ちゃんが嘘をついてるとは思えないし……。おそらく未来のシローを救いたいってのは本当だと思う」
「そうだな……そこは俺も同感だ」
「私の思考を読む魔法は同じ空間にいることが条件なのですが、残念ながら夢のなか範囲外だったようなので使えませんでした。なので確証はないですが緋乃さんは迷っていたのではないですか?」
「迷っていた?」
「ええ、宗方くんを殺すことを。もちろん最初はそのつもりで過去へ来たが、離しているうちに決心が鈍ってしまった……というわけです」
「それで緋乃さんは夢のなかで魔女にアプローチをかけられ、俺を殺すことにしたってわけですか……」
それなら辻褄が合うがどうにも俺には納得が出来なかった。もし本当に迷っていたというのなら、あんなに思いっきり俺を殺しにきただろうか。あの動きは……何というか、迷っていない、覚悟した者の動きだったように感じる。
「そのことなんだが、星野さんは危なくなったら俺が二人を起こすことがわかっていたはずだ。事前に魔法の説明をしたときに確かに俺はその旨を伝えたはずだしな」
「そういえば言っていたわね。夢ではいろいろ必死すぎて失念していたけど……」
「待てくれ。それだと緋乃さんは俺たちを逃がすためにわざと殺そうとしたってことにならないか……?」
「それは本人にしかわかりませんね。どうでしょう? 彼女を起こして実際に話を聞いてみるというのは?」
「でも校長先生、星野さんを起こすのはいささか危険では?」
「ええ。ですから当事者のお二人に決めていただきたいのです。このまま緋乃さんを警察に突き出すのか、それとも話を聞くのか。もしも警察にまかせるというのなら、今後お二人には絶対に危害が加わらないようにすると約束しましょう」
校長先生にそう提案され、思わず沙紀と顔を見合わせる。正直なところ、俺には緋乃さんの考えていることがわからない。もし俺を殺しに未来から来たというのなら、すぐにでも殺してしまえばよかったのだ。
「俺は……緋乃さんから話を聞いていたい、と思う。このまま本人から何も聞かずにってのは納得できないんだ。緋乃さんの行動には矛盾がありすぎる。だから、ちゃんと全部、本当のことを知りたいんだ」
それが俺の正直な気持ちだった。
「シローがそう言うなら私もそれでいいわ。私自身、やっぱり納得できないもの」
「決まりですね」
そこで校長先生がパンッと両手を合わせる。
「でも話しをすると言っても具体的にはどうするんですか?」
「そうですね、まずは緋乃さんを三林くんの魔法で起こしてもらいます。そのままここで話していただければ私もいますし、もし何かあってもすぐに対応できるでしょう」
「わかりました、お願いします」
「じゃあ話がまとまったところでいくぞ。夢視」!
ああ、起こすときもちゃんと魔法をもう一度発動しないといけないのか――なんてのんきなことを考えていると、その魔法に反応したかのように緋乃さんがゆっくりと眼を開いた。




