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スイ様の言うとおり!  作者: ゆう都
第一章 暗転、そして出会い
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彼の理由【前篇】

 フィオルナルは、元々学者志望の男だった。

 物ごころついた時にはすでに趣味の魔法研究に生きることを夢見たが、神殿側名家の出身。神殿に近い立場では、何かとしがらみが多かったため、仕方なく、フィオルナルは魔法師団へ士官した。名家とはいえ傍流、兄弟も他に複数いたため、還俗が認められたのは不幸中の幸いだった。

 既に、他国との戦争が絶えない状況にあったヴァルモンドであったが、もともとの生まれから流血から遠ざけられ、幹部候補として余暇の十分にとれる生活を送った。他国との戦争は絶えなかったが、国内の政争は、それを起こすものも、その旗印となるものも、すべて死に絶えた後である。







 フィオルナルは自らが望んだ魔法研究に思い通りの時間を割くことができた。

 魔法陣を描くための魔道語は、元々古の神殿関係者が使用していた神語を語源としており、複雑怪奇でその道によほど通じていなければ理解できるものではない。

 神語、そして魔道語への親和性、それから、信心深いものほど魔法の才が顕著に現れるという伝承から、『神殿』を容易に切り捨てられない、今のヴァルモンドの姿があるのだ。

 当然、神殿側名家の出身であるフィオルナルも、魔道語を容易く解し、それを確かな理論によって組み換えることを得意としていた。加えて、使用魔力量が効率化されていないできたての魔法陣を、自分自身で遠慮なく使用し試行錯誤を繰り返すだけの魔力量、魔法の才も備わっていた。

 結果、元々の才能が遺憾なく発揮され、特に『召喚対象への制約の複数付与』の分野では、その第一人者となった。

 まさかそのために、フィオルナルが将来耐えがたい罪を背負うことになるとは、当時の浮かれた頭では想像もつかなかった。







 基本的に貴族がお飾りに連れるペットなどを召喚する魔法はある程度一般的な知識として広く出回っている。もっといえば、定形化した魔法である。

 そして、どんなものにも裏はあった。穏やかな気性の動物を生み出すことができるのだとすれば、その逆もまた然り。国の中枢というごく限られた場所には、確かに生物兵器としての召喚獣の姿があったのだ。




 ヴァルモンドにおいて、生物兵器としての召喚獣の活用を結果的に推し進めたのは、フィオルナルの研究成果であった。以前は制約付与上限が1であったのに対し、3の制約を付け加えることができるようになったのだ。

 要するに、フィオルナルの研究は、『絶対服従』し、『傷つけることを躊躇わない』『強きもの』の召喚を可能とした。






 研究成果が認められ、フィオルナルが士官後4年で王宮魔法師長の地位を賜ったことは、フィオルナルにとって、もはや皮肉でしかなかった。

 趣味の研究のために士官したフィオルナルは、当然荒事向きの性格ではない。

 何より、彼は神殿の教えを受けた人間である。召喚獣が自らの意思で行うため、という免罪符を振りかざし、神殿の規則を掻い潜って軍事利用されていく異世界の生物。

 それを思い返す度、自らは1度もその魔法で人間を攻撃したことがないにも関わらず、自ら手に血塗られた赤い色を見た。

 あれほど夢みた魔法の研究が、苦痛以外の何物でもなくなった。







 それでも国を守るためだと言い聞かせ、必死で守っていたフィオルナルの心を、完膚なきまでにへし折ったのは、王の命令だった。

『人間の女を召喚しろ』

 理由が戯れだということはすぐに理解できた。覇王として、大国ヴァルモンドの象徴である王は、一時、政敵を根絶やしとしたために壊滅的な人材不足に襲われた王宮をその手腕で回しきったことから、賢君としても名高い。

 そんな王の女性関係は、王として蓄積された鬱憤がすべて向けられているかのように爛れきっていた。今まで側妃として城へ上がった女は数知れず。王の戯れで手を付けられる女中も後を絶たない。







 しかし、その女たちが一度でも王の心を射止めたと勘違いすれば、否、しなくとも、王はすぐにその女に飽き、城の外へ放逐した。放逐など、まだいい方である。

 自らの運命を嘆き、王に慈悲をと食い下がった女たちの中には残酷に切り捨てられたこともある。

今、城に残っている妃は、飽きたという理由では容易に離縁できない、他国の王家出身の姫と、粛清を逃れた公爵家の姫、それから神殿側名家の姫。

 それに、どこまでも影が薄く、問題も起さなかったため、その存在すら王に忘れられたのか、飽いて捨てられることを回避できた、下女あがりの平民の娘が1人だった。

 王に捨てられた女たちの怨念か、庶子を含めて、未だ子はいない。





 そんな王が、城の女中に手をつけるのにも飽き、正式な輿入れができるような名家の娘たちで遊びつくし、そうして、興味を向けたのが『異世界の女』であった。





 人間の召喚に関し、神殿は明確な規則を設けていない。

 しかし、それは人間の召喚を認めているからでは、決してない。

 獣と違い、本能のみで生きておらず、思考があり、意思があり、過去への思いが明確な人間を召喚することは、それそのものが『異世界のもの虐げること』になると考えられているからである。

 規則以上の禁忌。それが、神殿の人間から見た、人間の召喚である。

 否、『神殿』だけではない、俗世に生きる多くの者も、その禁忌を認識している。

 






 しかし、フィオルナルの主は認識していなかった。

 明文化されたルールはない。忌避されるべきことであっても、それは王の弱みとはならない。そのグレーゾーンをついて、王が命じたのだ。

 還俗し、その臣下となったフィオルナルは、その命令に逆らう術を持たなかった。



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