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スイ様の言うとおり!  作者: ゆう都
第三章 からまる糸
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王宮いちの魔法師

 そこからの解決は早かった。さすが、元間者である。城に潜り込んでいた邪教徒を、ジナオラは全て把握していた。間者に城の邪教徒を把握されているのもどうかと思うが、とりあえず、今回の事件では助かったということにしておこう。アーガルになった以上、過去のスパイ行為はなかったことになっているのだから。

 そして、疑わしい人間が誰か分かれば、情報を引き出す手段は数多あった。魔法の使える国なのだから、尚更である。相手が邪教徒だというだけあって、さながら魔女狩りのように、情報が引き出されていったに違いない。





 結局のところ、トゥジェノとそのアーガルたちは目撃してしまったのだ。何が理由かは分からないが、ただの散歩か、もしかすると、それこそ翠への嫌がらせのためにか、夜に外に出ていた4人は、翠が確認した箇所とは別で改変された結界を通って侵入してこようとした人間を見てしまった。……そして、口封じに殺された。





 あとは予想どおりである。トゥジェノの部屋の衛士を昏倒させ、4人の躯を運び込み、犯行現場の血痕を消す。その過程で、捜査を撹乱させるため、そして、あわよくばその罪を押しつけるため、立場の弱いリーリアを的にして、その衛士に魔法をかけた。

 翠にとっては、いい迷惑である。

 ちなみに躯を運んだ方法は、直接魔法を使ったのではなく、物を格納する魔道具を使ったらしい。死体だから、その魔道具に詰め込めたのだろう。魔法の他に魔道具まであるのか、と翠は溜息をつかった。もはや想像でおいつく範囲外である。





 邪教徒らの狙いは、王城内部から起こすクーデターであった。人数が少ない上、大勢の人間を邪教に染め上げるには時間的なコストと再び大粛清の憂き目にあうリスクを負うハメになるので、そういう無茶な手段に出ようとしていたようだ。

 トゥジェノたちに見られたのは、件の物を運ぶ魔道具で、武器を運び込んでいるところだったらしい。





 王が不在のままではあるが、近衛と魔法師が手を組んで、王宮に潜んでいた者も、外から武器を運び込んでいた者も、王宮の結界を書き換えられるだけの力を持った魔法師も。国に巣食っていた邪教徒たちは、根絶やしにされたという。

 邪教徒の討伐にあたった人間の中で、1番ブチ切れていたのは、漸く軟禁を解かれた翠のアーガルであった。自分の書いた結界を改変されたあげく、自分や自分の主まで犯人と疑われるような細工をされたとあって、半ば暴走に近い勢いで敵を殲滅したらしい。





 近衛隊長は、もはや魔法師長を止めるためについていったようなものだったと、こっそり様子を見て来たジナオラが教えてくれた。

 情報源がいなくなるのは困るが、今回の事件には、殺して揉めるような大貴族は絡んでいなかったとあって、相手は間違えて殺したところでゴメンで済んでしまうような人間ばかりだったのだろう。きっと、どこかの近衛隊長も、本気で止めなかったに違いない。

 当然、翠には知らされないような手段で情報収集と殲滅がされた結果、僅か1週間でクーデターまで準備していた邪教集団は壊滅した。





 公には、ことの功労者は、自らの結界の異変に気付いたことになった(・・・・・・)フィオルナルであり、次いで、武力でもって邪教集団を壊滅へ追い込んだ近衛隊長となった。

 だがしかし、翠は忘れていなかった。功労者としては名前の挙がらない4人の犠牲がなければ、邪教徒の不穏に気付いたのはもっと後だったに違いないと。

 執着はしないことと、誰かの犠牲を、居なくなってしまった者を、忘れてしまうこととは同じではない。ため息をついて首筋に手をやる。ルーカリアナの刃で負った傷が、瘡蓋となって残っていた。





 さすがに下位とはいえ、翠が自分で身を引いたとはいえ、疑わしいだけの側妃に刃をつき付け、実際に怪我をさせたことがバレれば、ルーカリアナの首は社会的にか、物理的にか、とりあえず飛ぶことは間違いない。

 だが幸いにも王は不在であるし、フィオルナルは軟禁が解かれた直後に駆けこんできた他は、邪教徒の殲滅や事後処理やらに追われている。唯一、ことの終始を知っているジナオラも、翠も、誰かに言う気はなかった。





「どうして、あの人は、あんなにキミのことが好きなんだろうね」

 翠の前にお茶を差し出しながらジナオラがからかう様に笑う。

 実際に現場を覗き見た彼が、そう言いたくなるほど、件の魔法師長は大暴れしたのだろうか。

 それは、翠だってそう思う。





 あの男が翠のアーガルに、と望んだのは、彼自身の贖罪の為である。

 翠自身に命は懸けられても、それは、翠を想いやることとはまた別である。

 今回、確かに翠は窮屈さを感じはしたが、命の危険は感じなかった。

 容疑者と疑われてはいたが、事情をしったギルバートも、その部下に無茶を命じはしなかったし、その状況は、多分、彼が城へ帰って来てからも変わらなかったに違いない。





 翠が、無茶な尋問を受けて、その命を危険にさらされることもなかったはずだ。

 色のない日の祭典でも、王が侍女や女官をつけないと言った時も、彼は翠に、抗議をさせてくれと望んでいた。それは、確かに、翠が軽んじられたことへの怒りだった。



 なぜ、彼はそこまで翠を想うのだろう。



 最初に彼が見せた謝罪の気持ちは、確かに今も見てとれる。

 だが、その他に、新たに彼に宿った気持ちがあるというのだろうか。

 それは、翠にとって、良いものなのか、悪いものなのか。





「さぁ、どうしてでしょうね?」

 いっそ、知らないままでいいかもしれない。翠はジナオラに答えながら、きっと件の男にとっては残酷だろう思いを飲みこんだ。



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