第3章:深みからの声
囁き:なぜ、ここにいる?……
ウラドとアンドレイは凍りつく。どちらも息をしない。アンドレイの手の中の携帯の光は、彼が肘を脇に押しつけるまで壁の上で跳ね回る。
アンドレイ:ウラド、ラジオだって言ってくれ。
ウラド:ラジオじゃない。黙って聞け。
アンドレイ:じゃあ、パイプだって言え。すきま風だって。しゃべれるようになったネズミだって。何でもいいから言ってくれ、ええい、ちくしょうめ。
ウラド:キリル!……
ウラドは震える声で叫んだ。こだまが階段を下へ消えていく。こだまは三回戻ってくる。そのたびに小さくなる。最後の一回は、最初の二回とは少し違って響く。
ウラド:キリル、俺たちだ! どこにいる?
返事はない。どこか奥深くで地下水が滴る音だけがする。
アンドレイ:聞こえてたなら、なんで返事しないんだ?
ウラド:俺が知るわけないだろ? 俺もお前と同じだ。何一つ分かっちゃいない。
二人は下りていく。最初の踊り場、二つ目の踊り場。段は濡れ、壁を水が伝って踊り場に水たまりを作っている。レンガ積みはコンクリートに、そして剥き出しの岩に変わる。壁には暗い開口部が現れ、そこから隙間風が吹き出す。焦げた匂いは強くなり、そこに何か甘く吐き気を催すものが混じる。傷んだ肉のような。
囁きは二度と繰り返されず、それがかえって悪い。ウラドは、まるで今にも何かを言い出す話し相手のように、静寂に耳を澄ませている自分に気づく。アンドレイは後ろから、ほとんど唇を動かさずにぶつぶつ呟いている。いち、に、さん、三十三。考えないために歩数を数えているのだ。
アンドレイ:もし俺が戻らなかったら、俺の“ペダル”は弟にやってくれ。そう決めたって、あいつに言っといて。
ウラド:“ペダル”って何だよ?
アンドレイ:靴のことだよ、スニーカー! そんなことも知らねえのか、バカ。
ウラド:戻れる。そんなこと考えるな。聞いてるか? 戻るんだ。
アンドレイ:お前、「電池は新しい」って言ったときと同じ自信で言ってるな。
三つ目の踊り場。四つ目。階段は狭い踊り場と、低い天井の短い廊下で終わる。床は濡れていて、薄い水と灰色の埃の層に覆われている。
ウラドの光線は床を滑り、止まる。泥の中に足跡がある。右はスニーカー、左は素足。右はスニーカー、左は素足。均等に、急ぐことなく。
ウラド:あいつはここを歩いた。左のスニーカーなしで。
アンドレイ:歩幅が一定だ。足を引きずってもいないし、走ってもいない。なくしたことにすら気づいてない。
ウラド:それとも?
アンドレイ:それとも、どうでもよかったか。泥酔してたのかもな。
ウラド:あいつはそんなことしないだろ……まあ、頭の中で何が起きてたかなんて誰にも分からないが。よし、おしゃべりは終わりだ。足元を見ろ。
ウラドはしゃがみ、素足の足跡の縁に触れる。その中の水はまだ引いていない。足跡は新しい。キリルがここを通ったのは三日前ではない。
ウラドは思い出す。「失うものなんてない」。彼はスニーカーを手の中で握りしめ、それからリュックにしまう。
足跡は廊下の突き当たりにある、二つ目のドアへ続いている。低く、錆びて、縁がいびつなドア。
アンドレイはドアの縁に光線を這わせる。溶接の跡も、切断の跡も、バーナーの痕跡もない。上階のあのドアとは違う。
アンドレイ:今夜二つ目のドアだ。上の鋼鉄のやつは溶接されてて、誰かが切った。こっちは溶接すらされてない。
ウラド:ってことは、内側から開くんだ。
金属は記号に覆われている。階段の壁にあったのと同じもので、ただしもっと大きく、深い。中央には顔のない人の形が刻まれている。滑らかな楕円が光り、そこに光線が映るが、ウラドとアンドレイ自身は映らない。
アンドレイ:これ、どこに通じてると思う?
ウラド:足跡は中に入ってる。
アンドレイ:ウラド、楕円を見ろ。何もない。俺たちも、懐中電灯も、何も、全然。
ウラド:そっちを見るな。目は道に向けろ。
ウラドが取っ手に手を伸ばす。アンドレイが彼の手首をつかむ。
アンドレイ:待てよ。お前、今マジか? やめとこうぜ、首を突っ込むべきじゃないって。
ウラド:俺たちは答えを求めて来たんだ。引き返すには遅すぎる。
アンドレイはゆっくりと指をほどく。
ウラドは突然気づく。手の下の金属が温かい。この寒さの中のドアにしては温かすぎる。まるで、ついさっきまで誰かが背中をもたせて立っていたかのように。
ウラドの手のひらが金属に載ると、ドアが震える。唸り。前回来なかったあの唸りだ。それは鉄を通り、手のひらを通り、肋骨を通り抜け、一瞬ウラドの目の前が暗くなる。
アンドレイ:おい、固まってどうした? 大丈夫か?
アンドレイ:ウラド、おい、くそっ、生きてんのか!?
ウラド:生きてる。ただ……五十二秒。唸りが遅れた。
アンドレイ:あいつのスケジュールが狂ったのか?
アンドレイ:まあいい、忘れよう。
ドアは鈍い軋みとともに、ひとりでに内側へ開く。
その向こうは暖かい。それが一番奇妙だった。階段の寒さのあとで、まるで開いた窯のように、暖かさが顔を打つ。紅茶と機械油の匂いがする。
ドアの向こうからトンネルが始まる。アーチ状の天井と壁はコンクリートで覆われ、ところどころ崩れて、穴から剥き出しの岩が突き出ている。天井にはパイプとケーブルが這っている。トンネルは闇の奥へ続き、ドアのすぐ脇の壁際には、誰かが住まいを作っていた。床には書き込みのある紙が散らばっている。壁際にはマットレスがあり、丸めたままぞんざいに放り出された毛布がかかっている。
木箱で作った手製のテーブルの上には、金属製の魔法瓶、缶詰が二つ、本の山。反対の壁際には、ボンベにつながったホース付きの溶接バーナーが置かれている。
アンドレイ:ここ、誰か住んでるっぽいな。
ウラドはテーブルに近づき、魔法瓶を手に取る。温かい。
ウラド:二時間前くらいだ、それ以上じゃない。
魔法瓶の中の水が震えている。小さな輪が水面に広がり、消える。ウラドは待つ。三十五秒目に、輪はまた現れる。
アンドレイ:「あいつ」って誰だ? キリルは紅茶なんて淹れたことない、エナジードリンクしか飲まないだろ。つまり俺たちは誰かの家に押しかけたってことだ。
ウラド:ってことは、ここには他にも誰かいたんだ。
ウラドは光線を本の山に移す。地質学の教科書、鉱山業の手引き、擦り切れた地図帳。いちばん上には、ビニールレザー表紙のノートがある。彼はそれを開く。ページはすべて根元から破り取られ、製本部分に紙の舌だけが残っている。
アンドレイ:これって、学校の地下の鋼鉄のドアを切ったバーナーだろ。ってことは、あいつはこれを持ってここへ下りてきて、そのまま居ついたんだ。ここに住んでて、俺たちは間抜け二人みたいに家に押しかけたんだ。
ウラド:黙って聞け。
二人とも口をつぐんで耳を澄ます。静寂。どこか遠くで水が滴る。
魔法瓶の下には鍵がある。錆びて、重く、頭の部分にはドアと同じ記号が刻まれている。ウラドはわずか一秒考えただけで、それを手に取りポケットにしまう。
アンドレイ:マジかよ。地下室に溶接機を置いてる奴の物を持っていったのか?
ウラド:黙れって言ってるだろ。
アンドレイの携帯の光がマットレスのそばの壁で止まり、動かなくなる。壁全体が短い線で傷だらけだ。列、列、列。何百も。それは五本ずつにまとめられている。映画の囚人のように。
アンドレイ:あいつ、日数を数えてたのか?
ウラド:それか、唸りを。
アンドレイは光を壁から外し、もうそちらを見ない。
ウラド:見ろ、床に書類がある。
ウラドは古い厚紙のファイルを拾い上げる。縁はぼろぼろで、表紙には色褪せたスタンプと手書きの文字がある。「プロジェクト『空の廊下の鳴動』」。
ウラド:プロジェクト「空の廊下の鳴動」。聞いたことあるか?
アンドレイ:鳴動……ウラド、これって……。
ウラド:ああ。
彼はファイルを裏返す。裏にはほとんど消えかけた赤いスタンプ。「機密指定」。
ウラド:こりゃ、クソやばいことになったな。
アンドレイ:何だ? キリルの光熱費の請求書か?
アンドレイが肩越しにのぞき込んだ。
ウラド:もっと悪い。ここに隠されてるものに首を突っ込めば、制服の連中が俺たちを迎えに来る。頭を使えよ、アンドレイ。こんな秘密を知ったら、俺たちは丸ごとゼロにされる。
アンドレイ:なあ、制服の連中が俺たちをここから新鮮な空気のところへ連れ出してくれるなら、俺は直接礼を言うぞ。いいから早くめくれよ、他に何が書いてある?
ウラドはめくる。タイプ打ちのページは黄ばみ、印とグラフと数字の列がある。日付はほとんど完全に色褪せ、最初の数字だけが見える。19と4。彼は一行を読み込み、凍りつく。
ウラド:「パルスの周期:三十五秒。発生源は停止されず。観測は中止」。
アンドレイ:三十五。俺たちが聞いてる唸りのことだ、ウラド。
ウラド:あの唸りのことだ。しかも日付はいつか分からないくらい昔だ。
彼はさらにめくる。最後のページには、本文の代わりに空白の枠と、鉛筆の書き込みがある。「中央ホールの図面。情報喪失。以降の複写禁止」。
アンドレイ:「中央ホール」って何だ?
アンドレイは緊張して鼻を鳴らした。
アンドレイ:俺たち、学校の地下にいるんだぞ。
ウラド:分からない。だが、たぶんすぐ近くにある。
書類の下には、折り目で貼り合わされた一枚の紙がある。ウラドはそれをテーブルの上に広げる。地図だ。トンネルは町の下を蜘蛛の巣のように十数方向へ広がっている。学校は下の方。赤い丸が閉鎖区域を示している。
アンドレイ:うおっ、マジかよ、何だこれ、鉱山か? 町全体がこれに入ってる。俺たち知りもしなかった。
ウラド:うちには鉱山はない。前に古い本で町のことを調べたんだ。秘密のトンネルがあるって噂はあったけど、俺はずっとおとぎ話だと思ってた。
ウラド:これは一部だけだ。何かがおかしい。この印……閉鎖区画か崩落箇所みたいだ。
ウラドの指は最も長い線をなぞる。それは町の境界を越えて西へ伸び、つるはしの記号と「ベリョゾフスカヤ鉱山」という書き込みで途切れている。
ウラドはその名前を読み、胸の中で何かがちぎれる。
アンドレイ:何だ?
ウラド:ベリョゾフスカヤか。隣の州の鉱山だ。春にそこで崩落があった。地質学者のグループが行った場所だ。
アンドレイ:それで、何が言いたいんだ?
ウラド:キリルの父さんも、その中にいた。
アンドレイは黙る。
アンドレイ:ウラド、偶然かもしれないぞ。鉱山のトンネルは何百キロもあるんだ。
ウラド:あいつは隠れに来たんじゃない、アンドレイ。捜しに来たんだ。それなのに俺は「俺がそばにいるから、な?」って言って、授業に行った。
アンドレイ:ウラド……。
ウラド:あいつはこれを一人で抱えたまま取り残された。
ウラドは地図を畳み、リュックにしまう。彼の手はわずかに震えている。
天井から埃が落ちてくる。外の、廊下の遠くから、足音が聞こえ、それから悲鳴。
それから静寂。
アンドレイ:今の、トンネルのあっちの方からじゃないか。
ウラド:何かがこっちに来る。急げ、目につくものを全部かき集めて、出るぞ!
二人は慌てて書類をかき集め始める。唸りが壁を伝う。廊下には静寂。それからまた足音、さっきより近い。
アンドレイ:待て。あいつは唸りの合間にしか歩かない。唸りのときは止まる。
ウラド:つまり、そいつは数えてる。俺たちと同じに。
アンドレイ:どうでもいい! ウラド、あのクソみたいなバケモノは、俺たちと同じトンネルにいるんだぞ。
ウラドは床から擦り切れた表紙のノートをつかみ、書類と一緒にリュックに突っ込む。
ウラド:唸りに合わせて走る。止まってる間、俺たちが音を立てれば、あいつには聞こえない。
唸り。二人は廊下へ飛び出し、階段へ突進する。唸りが静まると、二人は壁に張りつき、袖に息を押し込んで凍りつく。足音。もう一つ。すぐ近く、五歩ほどの距離。何も通り過ぎないのに、隣の空気が冷える。また唸り、そしてまた走る。
二人は踊り場ごとに上っていく。唸りに合わせて前へ飛び出し、合間に固まる。背後には湿った足音。いち、に、さん、そしてまた唸り。何かが後をついてくる。ちょうど一つ下の階段のところで。
三つ目の踊り場で、アンドレイがつまずく。携帯が手から飛び、段にぶつかって消える。闇。アンドレイは四つん這いで錆びた鉄の上を手探りし、その瞬間、唸りが終わる。
足音。すぐそば、一段下に。アンドレイは息を止める。指が携帯に触れ、彼はボタンを押し込む。光が彼を救うのか、暴くのかも分からないまま。
白い円が点く。目の前の段は空だ。濡れた鉄の上で、素足の足跡がゆっくりと乾いていく。
アンドレイ:ここに来るなって言ったのに、お前はいつも通り頑固だな。
アンドレイは最後の踊り場を走りながら、そう吐き出す。
二人は切断された鋼鉄のドアを抜け、地下室を抜け、二階分の階段を上がり、学校の廊下を通って、こじ開けられたドアの横を過ぎ、冷たい草の上に息を切らして倒れ込む。背後には誰もいない。ただ学校があるだけ、黒く静かに。
アンドレイ:俺、寿命が五年は縮んだ気がする。最低でも。
彼は短く、神経質に笑い、自分で笑いを断ち切る。
アンドレイ:足跡、見たか? 濡れてた。俺のすぐ後ろに。
ウラド:見た。
アンドレイ:それでもお前は、あそこに戻りたいのか?
ウラドは答えない。自分の手を見つめ、リュックの中のスニーカーのことを考える。
ウラド:俺はひと月、あいつの父さんのことで黙ってた。踏み込まないで、時間をやろうと思った。でもあいつはその間ずっと、この唸りを一人で聞いてたんだ。
アンドレイ:お前は唸りのことは知らなかった。
ウラド:知らなかった。でも、あいつが辛いのは分かってた。
アンドレイ:それで俺を責めるなよ、ウラド。
アンドレイは顔をそむけ、つま先で地面をほじる。風が秋の落ち葉と湿気の匂いを運んでくる。学校からは何も聞こえない。
ウラドは震える手でノートを開く。最初のページには、急いだ筆跡で数行が書かれている。
ウラド:「門。それらは地下に隠されている。鍵を見つけた者は、二度と戻らない」。
ウラドはポケットに手を当てる。中の鍵が重くなる。
アンドレイ:何の地下だ、何の門だ? ここに書かれてるのは何の狂気なんだ?
ウラドはノートを閉じ、長い間学校を見つめる。二階の窓の暗い四角が、一瞬だけほかより濃く見える。ウラドがまばたきすると、何もない。
ウラド:戻らなきゃならない。
アンドレイ:嫌だ。
ウラド:アンドレイ。聞いてくれ。
アンドレイ:嫌だ、ウラド。あそこで何が起きてるか見ただろ? あそこでは誰かが夜な夜な素足で歩いてて、唸りが時間を数えてて、俺たちには紙切れと、勝手に消える懐中電灯しかない。俺はもう行かない。
アンドレイ:お前と一緒にあそこに入ろうなんて、正気の沙汰じゃなかった。
ウラドは黙ってリュックのファスナーを開け、スニーカーを取り出す。左の。靴ひもが二重結びの。それを二人の間の草の上に置く。
アンドレイはそれをとても長い間見つめる。
アンドレイ:ずるいぞ。
ウラド:分かってる。
スニーカーは草の上に、濡れて小さく立っている。ウラドは思う。明日、学校には空っぽの机があって、明後日もそうで、一週間後にはみんなそれに慣れてしまう。家でもう口にされなくなった父親の名前に慣れたように。彼は、キリルに慣れてほしくない。
二人は黙って建物の入口を見つめる。夜がふたたび彼らを包む。どこか地下の底から、かすかに唸りが届く。ウラドは心の中で数える。三十五。




