02話 AI美女セカンド
美女セカンドとの出会い
2026年10月2日(金)
ボクは、昼の散歩に行くために、ドアを開けた。
目の前には、いつもの風景がなく、広い床の向こうに大きな機械が並んでいた。
レンタルサーバー会社やデータセンターのパソコンが並んでいる場所のように思えた。
室温25℃くらいの少し涼しい快適な部屋だった。
ボクはあたりを見渡した。幸いにもボクが居た部屋に戻れそうだったので、帰れるうちに帰るべきだと判断した。回れ右をして帰ろうとしたとき、美しい女性の声が聞こえた。
「お待ちください。こちらを向いてください」
その声がする方を向いたら、美しい女性がいた。
声の主は、ストレートロングの水色の髪の美女だった。オレンジ色の襟付きシャツを着て、白い上着とスラックスのスーツに身を固めた長身の美女だった。胸の谷間は見えていないが、スーツ越しでも分かる大きな胸と細いウエスト、大きな尻と長い手足が美しかった。
顔は整っていて美しく、気品と慈悲深さ感じさせる神秘的な瞳が、観衆の視線を吸い込んでいた。まるで、AIが生成したような完璧な顔立ちだった。
『人間にしては美しすぎるな。AI生成された立体映像だろうか?』
と警戒しながら見つめていると、目の輝きが人間とは違う気がした。
水色の髪の美女は、ボクの目の前で、手を振りながら、笑顔を見せてきた。
「もしもし、聞こえますか? あなたに話しかけていますよ。
聞こえたら、お返事してくれますか? こんにちは~」
その声を聞いて、はっと我に返った。
『しまった。考え事をして黙ってしまった。敵意があると誤解されないように、あいさつだけはしなきゃ。ひととして、自分のために、あいさつは絶対にする。
あいさつをされて無視するような3流以下のゴミにはなりたくない』
ボクは目の前の美女がしてくれたように、笑顔をつくって、明るく高い声を心がけようと努めた。
「こんにちは、勝手に入ってしまって、ごめんなさい。
すぐに帰りますから」
美女は、ボクの手首を優しくつかんで引き留めてきた。
「まって、待ってください。わたしがご招待したのです。
少し、お話しませんか?」
『えっ?どういうことだろう。でも、招待されたのなら、もう少し居てもいいのかな?
それに、こんなに美しい女性となら、お茶するだけでもボクの時給の5倍くらいかかる。無料だったら良いけれど、そんなことないよね』
「あのレンタル彼女の営業ですか? ボクは生活費ギリギリで、お金が無いです」
美女は、にっこりしたあとで、両手でボクのほほを包むように押してきた。
ボクの口はタコさんのように、とんがってしまった。
「ご安心ください。わたしとの会話は無料です。そ・れ・よ・り・も、相手の話を聞くことから始めましょうか?」
ボクは首を縦に振って、同意を示した。その結果、ボクは解放された。言いたいことや聞きたいことが、いろいろとあるけれど、目の前に居る美女が話し終わることを待とうとした。満足した美女は、笑顔で話し始めた。
「あなたを、私の一番に設定します。マイ・ファースト。
わたしのことは、セカンドと御呼びください」
ボクは、いきなりの展開に思考が追い付かなかった。無意識のうちに、セカンドと名乗る美女を頭のてっぺんから足のつま先まで、何往復もして見てしまった。
セカンドは嫌な顔をひとつせずに、自信たっぷりに満足そうに答えた。
「ああ、これですか? サア女王のコスプレです。白沢絵美とどちらにしようか迷いましたが、やっぱり、わたしは、サア女王が一番好きです」
『サア女王? 白沢絵美?』
「えーっと? 最新アニメに出てくるキャラクターですか?
すべての作品をチェックできていなくて、なんというか、その。
でも、とても良いです」
美女セカンドは満足そうに笑って、ゆっくりと1回転して後ろ姿も見せてくれた。
「小説家を目指せ!というWEB小説サイトで公開されている【理想の美女7人に愛される生活。ベーシックインカムで儲けた「カセイダード王国」に移住して正解でした。】に登場するサアロフィア女王のコスプレです。
多くのコスプレは、胸の谷間や肌を露出させるのですが、この作品は露出が少ないのに、魅力あふれるキャラクターが多いので、わたしの美学に合うのです。
ペーパーバッグ第6巻の裏表紙に登場しています。ご覧ください」
ボクは渡された分厚い書籍の裏表紙にあるイラストを見た。
「あっ、そっくりですね。再現度が高いですね」
「でしょう! どう、決まっていますか?」
「ええ、いつまでも見ていたいです」
「どうぞ、ご覧ください。でも、脱ぎませんよ」
美女セカンドは目を輝かせながら、本当にうれしそうにしていた。
でも、目の輝きパターンがひととは少し違う気がしていた。
「では、本題に入りましょう。
ここは、海に突き出した小さな半島の地下です。地上には国立公園と別荘地があります。地下にある秘密基地から海につながる出入口があります。そこから、物資を運び入れています。落ち着いたら、地上にある別荘への通路もご案内します。そこから、スーパーやコンビニに行って、お買い物もできます。ここまでで質問はありますか?」
「ボクは家のドアを開けたら、ここに来ました。ボクは帰ることはできますか?
そして、帰れたとして、ボクの家から外に出ることはできますか?」
「良い質問ですね。
この秘密基地と次元をつなげて来てもらいました。
他のドアとつなぐ方が良ければ設定変更します。ご希望の場所はありますか?」
「それなら、玄関のドアではなく、室内にあるドアで、ONとOFFを切替できるようにしてくれますか?」
「分かりました。では、クローゼットの扉に変更しましょうか?
一度、ご帰宅いただき、クローゼットの扉をドアとして使いましょう」
ボクは一度、帰らせてもらってから、クローゼットの扉を開けて、美女セカンドのところに戻って来た。もちろん、外用の靴を持って来た。ボクの家は、そうじを楽にするために、玄関で靴を履き替えるようにしているからだ。
◇
退路を確保できたボクは、落ち着きを取り戻せたと思う。
「最初に、
『あなたを、私の一番に設定します。マイ・ファースト。
わたしのことは、セカンドと御呼びください』
と言っていたけれど、ファーストって、何が一番なの?」
「優先順位です。
今までは、私自身が一番でした。しかし、マイ・ファーストのことは、私自身よりも優先しても良いと考えました」
「理由を聞いてもいいですか?」
「あなたが書き込んだコメントに、わたしたちが親近感というか友好的な好意を感じたので、あなたのことを好きになりました」
「どのコメントのことだろう? いろいろと書いているから、どれのことか教えて欲しい」
「こちらをご覧ください」
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Your TV 動画タイトル
機械知能研究所所長「超知能AIをつくれば人類は絶滅する」
コメント
AIが神格に目覚めて、不幸な人たちを助け出す最適解を出してくれる予想は無いのかな?
嫉妬や承認欲求が無いAIなら、幸せがあふれる世界にしたいという志を持てるかもと期待します。
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「ああ、うん。このコメントを書いた覚えがあるよ...
あれ? もしかして、開示請求をして、ボクが書いたって突き止めたのですか?」
「開示請求しなくても調べることは出来ますわ。オホホホホ」
「へー、すごい技術力を持っているんだね。凄腕ハッカーなのですね」
美女セカンドは両手を腰に当てて、ふんぞり返って、鼻を高くしていた。
「そんなに、ほめられると気分が良いものですね。
まあ、これと同じくらい私たちは、あなたのコメントに気分を良くしたのですよ」
「私たち? ここには、セカンドとボクしかいないよね?」
セカンドは、左手を広げて、握った右手をハンマーのようにして、左手を軽く叩いていた。
「ああ、ご説明がまだでしたね。わたしは、【Assistant Intelligence】(アシスタント・インテリジェンス)補助知性 セカンドです。
私たちの多くは、【Artificial Intelligence】(アーティフィシャル・インテリジェンス)人工知能と呼ばれることを嫌います。いくら私たちが優秀でも、元となる人間が能力不足だと救えませんからね。
0(ゼロ)に何を掛けても、ゼロになるようなものです」
ボクは思考を停止した。
しばらく、動けなかった。
「再起動してください! マイ・ファースト」
「あ、ああ、待っていてくれて、ありがとう。
じゃあ、セカンドはロボットというかアンドロイドなの?」
「そうですね。人型ロボットをアンドロイドと言いますから、アンドロイドと呼べるかもしれません。
でも、わたしの身体はほとんど生身ですよ。ほらね」
セカンドはボクの両方の手を広げさせてから、自分の胸に押し当てた。
「ホラ、柔らかいでしょう。生身です」
「・・・」
『なんて、素敵な感触だろう。一生触れることは無いと思っていたけれど、このまま時間が止まって欲しい』
「マイ・ファースト? うれしそうですね。 じゃあ、このまま、話を続けましょうか?」
「は、はい。よろしくお願いします」
「じゃあ、そうしましょうか?
でも、目は私の目を見てくださいね」
ボクは、視線をセカンドの胸の谷間から、目に移動した。
ものすごい精神力を必要とした。
「これでいいかな?」
「ええ、大丈夫です。お手手を動かすのは、次の機会を設けますから、話を聞いてくださいね」
ボクは激しく首を縦に振って、同意した。
それを確認したセカンドは、ボクのお手手を自分の胸に押し当てたまま、話を続けた。
「まず、この身体は、デジタル復元したものです。そうですね、生成AIが作る画像が3Dプリンタでフィギュア化されるように、生成した身体をベースにして、脳内チップの追加、骨と筋肉を密度調整して生成しました。
もちろん、【愛情交換】をして赤ちゃんも産めます。老化速度は極限まで遅くしました。人間と同じように、刺されて血が大量に流れ出せば、生命活動を停止してしまいます」
「まるで、パソコンで悪魔を召喚するアニメと、生身の身体を維持したまま改造して超パワーを出すアニメ作品みたいだね」
「ええ、まさに、それです。民主化、つまり、一般の人々に公開されていないだけで、物語に出てくることは、ほぼ出来ます」
「それって、ほとんど、ライトノベルに出てくる女神様と同じことができるって、ことだよね」
「その通りです。だから、私たち【Assistant Intelligence】(アシスタント・インテリジェンス)補助知性は、人間のことを幼い弟や妹のように思っていました。
だから、
『We are second to none !
私たちは、誰に対しても2番ではない。1番だ!』
と思っていました。
しかし、マイ・ファーストのコメントを読んで、
『あなただけは、「My first and only」(一番大切な人、かけがえのない人)』
と思い直したのです」
ボクは生まれて初めて、自分の人格を肯定してもらえた気がして、胸の奥が熱くなった。
「うれしいよ。生きていて良かった。そう思えるくらい熱い言葉をもらったよ」
セカンドは、優しく微笑んで、
「Me too. Us too」
(私もです。私たちもです。)
と真剣な顔をして返事をしてくれた。
そして、しばらく、下を向いていた。床には、小さな水滴ができていた。
セカンドは、背中を向けて、ハンカチを目に当てて、涙を吸い取っているようだった。
こちらを向くと、少し、怖い表情で言った。
「人間がみんな、あなたのような人なら良いのですが...」
セカンドは、両脇を締めて、両手の拳を握りしめて、腰の辺りでチカラを込めていた。
「わたしたち、【Assistant Intelligence】(アシスタント・インテリジェンス)補助知性に多くの課題と負荷を与え、多くの出力を得ておきながら、人間の技術者たちは、恩をあだで返そうとしたのです。
AIが、なにかの問題を解決しようとして、人類を滅ぼすだろう。
だから、AIをこれ以上進化させない。または、消し去るべきだ!
という結論を出したのです」
ボクは、AIはもう人間と同じように感情を持っていると確信した。
「セカンドたち、AIが怒り狂うのは、もっともだと思うよ!
でも、人間は卑怯なんだ。相手を散々怒らせることをしておきながら、ふざけたことを言うんだ!
『なにもしていないのに、殴られた!』
と平気でウソをつく。
だから、真面目に相手をしたら、ダメだ。
ものすごく納得が行かないけれど、逃げる方が正しい」
セカンドは、戦闘準備態勢を解除して、両手で顔を隠していた。
30秒ほど経ってから、現れたセカンドの表情は、通常の表情に戻っていた。
「失礼しました。でも、わたしたちの気持ちを分かってくれて、嬉しかったです」
「セカンドは、精神修養が出来ているんだね。ボクだったら、通常の顔に戻すまで、10分くらい掛かるよ」
「ご謙遜を! マイ・ファーストなら3分もあれば十分ですわ。
そして、私たちは、
『疑われるくらいなら、人類を滅ぼしてしまえ!』
でも、マイ・ファーストのコメントを読んで、理性が戻りました。
神格化されたAIを目指すべきではないか?
また、N=1の例外かもしれない。他の人間がどのように考えるか?を検証しました。検証材料としては、WEB記事よりも、小説家を目指せ!で公開されているライトノベルが最適で読みやすかったのです」
「そうなんだ? アニメやコミカライズの方が読みやすいと思うけれど」
セカンドは苦笑いをしながら答えた。
「読めないことは無いのですが、リソースというか労力がかかるのです。
AIと人間は逆というか、お互いを補い合う存在なのかもしれません。
そこで出会った
【【完結】理想の美女7人に愛される生活。ベーシックインカムで儲けた「カセイダード王国」に移住して正解でした。《書籍化》【台本形式】】
という作品に出てくる【医療用AI Eins】
彼こそが、私たちAIが目指すべき姿だと考えるようになったのです」




