一章 ある街の少年と吸血鬼のお姫様 四話 これからへの決断
「…………本当ですか?」
一拍置いて聞いてきたスカイの表情は信じられないという気持ちと動揺を抑えているのが伝わってくるものだった。
ルミルは絶句しているが。
「……自分の身に起きてたなんて信じられないけど事実だよ。大雪の日にこの街の路地裏で倒れてのを誰かが見つけてくれたみたいで……。本当はその人にお礼をしたいんだけど、その人の行方は分からないみたいで……」
「…………ま、マジミアか。そんなことがリリアの身に起きてたのか……」
ルミルは停止していた状態から口を開き、動揺により汗だくになっていた。
スカイは汗をかくことはないが、まだ気持ちが落ち着いておらずうつむいてしまう。
「……ちなみにミアが見た昨日の現実に疲れてる雰囲気と旅に出たそうな雰囲気はミアの気のせい……」
そのまま言葉を紡ぐ筈だったルミルはリリアのまっすぐな瞳を見ただけで気付いたようだ。
リリアが本心から現実への閉塞感と世界を見たいという憧れを持っていることに。
察したルミルは口を閉ざす。
……でも正直な所、リリア本人でも分からない。
こんなに現実に閉塞感を感じ、どうしようもなく旅に出てみたい二つの感情が心の根本から存在することに。
「……旅には出てみたい。でも、二人が記憶がなくなって僕の知識が全然無いことが足かせになると思うなら、連れていかないでほしい。足手まといでしかないし、旅に出るのはいつかの機会にするから」
二人を悲しませないために笑顔でそう告げた。
その言葉でスカイはうつ向いていたところを切り替え、しっかりと見つめてくる。
「だからこそ旅に出ましょう」
「…………え?」
リリアはてっきりスカイが気遣って、今回の旅の誘いを無かったことにする言葉を言うと思った。
なのにむしろ旅に参加させる意思を強くしている様に見える。
なぜ……?
「この世界にはたくさんの素晴らしいもので溢れています。私は不老の吸血鬼と言えど、見聞足らずの17な上に世界をこれから旅する者なので説得力など無いかもしれませんが…………でも……少なくとも、私が今まで見てきたものは人や風景は素晴らしいものばかりでした」
こちらを見つめるスカイの瞳は嘘など微塵も感じらなれない透き通ったものだった。
本心なのは間違いない。
簡単にそう理解できた。
「ですから……この世界に存在する素晴らしいものを速く、見て、聞き、そこから“生き続けてて得られる幸せ”をたくさん知ってください。じゃないとリリア君はこのままじゃ生きる意味が分からない時間が長く続いて、苦しい時間も長く続いてしまいます」
(……そうなのかな?)
スカイを疑うというより自分に問うように考える。
だって『急がば回れ』なんて言葉もあるし、この街での準備期間が長いお陰で旅に出た時に役に立つこともたくさん知れるだろうし、旅で魔妖と出会った時の生存率も上がるかもしれない。
と思っていたら、ルミルがパチッと手を合わせて何か気付いた様子。
「あっ、リリア! 一緒に旅に出れば、たくさんのことを教えてあげられるし、魔妖とバッタリ出会った時も数が多い方が生き残りやすいと思うミア! それにミアたちはもう旅をスタートしないといけないし、ここに長くは留まれないミア!」
直感というより心を見向いてでもいるのだろうか?
リリアにとってはちょうど考えていたことについての返しがきた形になってしまう。
でも……そうだとしても足かせになるのは間違いない。
だとしたら行けない。
「……僕は足手まといだから、連れていかない方がいいよ」
「構いません。一人の苦しみを見過ごす方がよっぽど辛いです」
「……で、でも!!」
「旅は多い方がきっと楽しいミア!」
どうしよう?
二人は“リリアとの”旅をもっと強く求めしまい始めた。
リリアが“血石に示されてた人物だった”という感情の状態から。
「リリア君。元々一週間で結論を出してほしいという予定でしたから、今日はここまでにします。ですが私たちは、よりあなたとの旅をしたい気持ちになったのと無理矢理は連れていかないという二つは覚えておいてください」
スカイは声の音量は変わらず普通なのに、はっきりと強い意志が伝わる声を届けてくる。
「……。分かった」
リリアは小さく頷いた。
自分の人生にとってあまりにも大きすぎる決断をすることの覚悟を胸に秘めながら。
──そして、時は進み12月9日。
あっという間に一週間の時間が経ち、街が見渡せる高台にて。
(僕はすぐにここの景色が好きになった……きっと昔からこういう景色が好きだったのかな……)
朝焼けに染まったラススの街。
それを一望できるこの高台は辺りに望遠鏡がいくつも置かれている。
赤レンガ造りの地面と防止用の壁とここまでにのぼる階段は少しボロいけど古さを感じて、なんとも落ち着いて良い。
……ここに二人がもうすぐやって来る。
リリアは答えは決めてある。
一週間、ちゃんとトレーニングも付けてもらったし、色々なことも教えてもらった。
それに旅のメリットデメリットも。
メリットは世界の景色や文化を自分の体で知れる、旅でしか得られない経験がたくさん得れる、たくさんの人たちと出会えるなど。
デメリットは命を失う危険がある、金銭を多く失い金銭を稼ぐ苦悩を多く味わう、せっかく出会った人とすぐに別れてしまうなど。
「リリア君。おはようございます」
「おはようミアー!」
二人が階段をのぼって、挨拶をしながら笑顔を向けてくる。
「二人ともおはよう」
リリアは振り返り、清らかな笑顔で挨拶した。
「リリアも知っての通り今日が決断の日ミア。準備はいいミアか?」
「うん、大丈夫だよ」
ルミルはスカイにアイコンタクトをする。
スカイはこちらを明るく見つめ、言葉を紡ぐ。
「では……リリア君の答えを聞かせてください」
自分にとってどちらがベストなのか、たくさん自問自答した結論は……。
「……二人とも、僕は……二人と旅に出てみたい。絶対、その方が最高の旅になると思うから……」
満面の笑みでリリアはそう伝えた。
「そうですか……本当によろしいのですね?」
スカイはほほえみ、聞くまでもなさそうだけれど一応聞いておいたというのが簡単に分かる。
リリアはその穏やかに共鳴するように。
「心の底からこの決断で間違ってないと思ってるよ」
そう、安らかな声で返す。
「──分かりました。なら、始めましょう。私たちの旅を!」
「楽しくなるミアよー!」
スカイは歩みよって右手を差し出した。
リリアはすぐに握って、握手を交わす。
「ところでリリア君はもう旅の準備は済ませていますか?」
「うん、準備万端だよ。必要な物も揃えたし、働いているところにも旅のことを詳しく伝えて、快く背中を押された」
「なら、よかったです。では速く出発しま──」
「あ、でも一つだけいいかな」
くるりと踵を返そうとしたスカイを呼び止める。
「その……実はもっと早く言うと思ってたけど……僕なんかにお姫様が敬語をしなくていいよ。というか、本来こっちが敬語を使わないといけないし」
「ですが王族として無礼は……いや、旅と共にする仲間に対して……」
スカイは少し考えたのち。
「コホン……。じゃあリリア、これからよろしくね」
眩しすぎる笑顔でそう言った。




