009 美月の弱点と傷
お題通り、美月の傷が出ます。
思春期の出来事は些末であっても結構な傷になる気がします。
1限が終わり空き時間の2限を校内のカフェテリアで過ごそうと珈琲を買って席を探していた美月はここ数日見なかった男の後頭部を見つけてずんずんと近づき後頭部を鷲掴みする。
「わぁ~!!!」
「うるさいな。大輝」
「おっお前!本当に声でかいな!」
「え?俺が悪いの?」
後頭部を掴んだ美月に怒られて、その美月が近づいてくる事を結構前から見ていた大輝の向かいに座る颯太が苦情を出すので混乱する大輝の隣に美月は座り半身を寄せる。
「ねぇ。中村さん、金曜に挨拶されたんだけど!しかも、大和さんの目の前で2人で秘密の約束ありますぅ~って感じで話されたんですが?!」
「あぁーだから、大和さん機嫌悪かったんだ。金曜集まったんだけど、なぁ~んか、珍しく機嫌が悪くてさぁ~」
「ふ~ん。大和さんって内緒話、目の前でされるの相当嫌いなんだね」
「・・・・・・」
「そうだねぇ~俺は気にしないって言うかすぐ忘れちゃうけど・・・頭のいい人は気になるんじゃないかなぁ?仲間外れ感?」
「・・・・・・」
「まぁいいじゃないそのことは!で、私さぁ。中村さんの相談2人で聞かなきゃダメ?大輝とか颯太一緒じゃダメなんかね?」
「あぁ。オレが一緒に聞こうか?って聞いたら、森さんがいいの一転張りでさぁ。恥ずかしいから一人でお願いしたいって」
「えぇーなにそれ。ちょっと気持ち悪い。ふーん。よしっ校内で話して終わろう!」
「その方がいいな」
「美月に気持ち悪いとか言われてる!やべぇ~雄大なにしたん?」
今迄黙っていた颯太が美月に同意する。大輝はそれを聞いて爆笑してるがなんと無責任かと思いアイアンクローを仕掛ける。手の幅がちょっと足りない。
「ぐわっ美月!小指、目に刺さったぞ!」
「あぁごめん。やっぱ女子の手じゃ無理かぁ~。すまんね。蟀谷つかめなくて」
「謝るとこ違くない?」
「ん?颯太サン、私マチガッテル?」
「あ?ソウデモナダロ?」
「ほんっと、君らソックリネ!」
「いやぁ~それほどでもぉ~颯太みたいにモテないよぉ~」
「そこじゃねぇ~ってか、美月もモテるから!最近、服変えたでしょ?昨日から?なんか、噂してたよ?」
今までケラケラ笑ってた美月の顏が一気に青ざめる。それに、大輝が気がつき慌てて情報を付け足す。
「悪い意味じゃないよ!『今の服に合いますね』って響が言ってた!響だぞ!」
「なんで、響が言ってたらいいんだよ」
「そう。響君がねぇ~だったら誉め言葉かな〜?良かった」
颯太は響ならの意味を突っ込むが、美月はホッと力を抜く。しかし、顔色はそう簡単には戻らない。そこに、陽菜と七海がやってきて声をかけてきた。
「あぁ~!美月ちゃん可愛い!いつもと雰囲気違うけど、そーゆー服に合うねぇ~ノースリーブハイネックニットにハイウエストのワインカラーのワイドパンツかぁ!大人カッコイイ!」
「本当!胸の形も綺麗だねぇ~!大きさも形も完璧!」
「七ちゃん。胸の話はいいでしょ!」
陽菜ちゃんが七海に口を押えるが、七海の言葉に美月の顔はますます青くなる。陽菜の手を払ってまで、柔らかいだの、手にフィットするだの胸の話を七海は止めない。
オロオロする大輝を見ながら、颯太がドルマンスリーブのシャツを美月に投げながら言う。
「美月、その恰好は冷房で寒いんだろ?これ貸してやる」
「おっおう!ありがとう!借りとく」
美月は青ざめながらもありがたく、さっと颯太のシャツを羽織るときっちり上までボタンを止める。ホッと一息着くと帰りに返すねと席を立って空き教室を探してITビジネス科棟へ向かった。
◇◇◇◇
全部の講義が終わり廊下に出ると案の定スパダリ男が立っていた。美月の言葉を無視して、美月の顔色を見る。
「颯太、車で待てばいいのに」
「顔色戻ってるな。上着は必須だっただろ?」
「颯太は寒くなかったの?」
「あぁー。大輝の上着奪った」
「あはは大輝、寒いでしょ?カワイソー」
そこからは2人黙って車に向かう。気まずいなと思いながら車に乗り込むと、エンジンをかけた颯太が意を決して話しかけてくる。
「なぁ。さっきのなんか理由があるよな?聞いてもいいか?」
「あー。えー。さっきの?」
「言いたくないか?」
「大輝に聞かなかったの?」
「聞いたけど、オレからは言えないって言われた」
「そっかー。ソーユーコトは、イワナイノカー」
「言いたくない?」
「あー、そうね」
「でも、知ってたら助けられるが?」
「知ってなくても、助けたが?」
美月が颯太に借りた上着を手でつまんで見せる。あははと笑ってない笑顔を向ける美月に颯太は、ふーと溜息をついて車を走らせた。
「俺は聞きたいけど?」
「ん~そうだねぇ~。どっかいかない?」
「今日暇なのか?」
「私はバイト無い。あっ颯太はバイトあったね」
「でも、20時出勤」
「あぁそうか。近場の海とか?どーでしょ?」
「コーヒー買うか?」
「飲みたい!」
「んじゃ、ス⚪︎バでドライブスルー?」
「いいねぇ~ありがとう!」
無駄にテンションを上げる美月に溜息をつきつつコーヒーショップをドライブスルーで購入する。美月ホットカフェラテを買って、颯太はアイスカフェモカを買っていた。顔に似合わず甘党だなと思いながら、漁港の端で車を止めて話す。
「あのさー」
「うん」
「中学の卒業式に告られたんだよね。私」
「あぁ」
「知ってた?」
「あぁ。まぁね」
「まぁーアレだけ大きな声で罵倒すればね」
「アレは無いな」
「無いね。アレが、まぁね・・・。」
「あぁ・・・」
「告っといて『牛みたい乳のなお前に誰が本気で告るかよ!罰ゲームだよ!』ですしね」
中3の卒業式に仲のいい男友達の井出拓海に美月は高校も一緒だし付き合わない?と軽い感じで告白された。けど、まだまだお子ちゃまだった美月は友達のままでいいでしょ?と軽く返した。その後の返答が先ほどの『牛みたい乳のなお前に誰が本気で告るかよ!罰ゲームだよ!』だった。
「あぁ。それがか?」
「あーそれだけだと嫌な奴で終われたんですが・・・残念なことにですね」
「ん?」
「そいつ、高校も一緒で1年の時クラスも一緒だったんですよ。そして、告った事を知ってらっしゃる輩もいらっしゃる」
「なんだ、その最悪フルコンボ」
「それで、なんかね気がついたら、私が胸で迫った?けど振ったみたいな話が回り出しまして・・・」
「はぁ?」
「男子には、『おれとはどう?』とか言われますし、女子には軽蔑されますよね。あいつ、外面って言うか友達多かったじゃん?見た目もいいらしいのよ。だから、女子人気あったらしくてさ・・・私は分からんけど。それで、ちょーっと学校行くのも辛くなり、1年の時は保健室登校で出席日数を稼いでまして・・・」
「マジか・・・」
「2年から理文に別れて、奴は文系で、私は理系だったのでクラス別れたんだけど・・・なかなか教室に行けなくて・・・ですね。琴ちゃんは1年の時から保健室来てくれて。そんな琴ちゃんと仲良くなった真央が保健室に来るようになって・・・」
「3人でお昼一緒に食べたり、休み時間も来たりして、そのうち、彩花ちゃんと大輝も参加して、クラスの子たちがいい子でさ!代わる代わる来るようになっちゃって!養護の先生に人数制限されたりもしまして・・・・
彩花ちゃんと大輝が大分クラスの人に説明したみたい。琴ちゃんの『噂はアイツの嘘だよ』って説明がやっとみんな聞くようになって・・・段々・・・教室にも行けるようになりまして・・・本当にみんなに迷惑かけた・・・」
「かけてねぇ~よ」
「ん?」
「迷惑ではないだろ?」
「松本たちがやりたいからやったんだろ?」
「そうかな?」
「だな」
「そうだといいな・・・」
ふにゃっと美月が笑うと、颯太がホッとしたように溜息をつく。
「まぁ、そんなこんなで・・・」
「端折ったな」
「端折るよ」
「3人とは親友になって、私は体系を隠す服を着るようになりました」
「うん・・・・・でも、その服も似合ってるぞ?」
「ありがとー。太陽兄がさぁ~。時々くれるんだよね。着れるようになったらでいいからって」
「あぁ」
「興味が無いわけでは無いのよ。お洒落したいお年頃ですし?」
「まぁ~そーゆーオトシゴロですね」
「なので、先週琴ちゃんたちと飲みの時に、太陽兄が今年くれた服を着たら2人ともよろこんでさー。行きつけのお店の人にまで褒めてもらいまして!調子に乗りました」
「・・・・・・なー。調子に乗っていいぞ?似合うって」
「でも、胸の事言われるのは嫌みたい・・・」
美月の声が震えて、視界がユラッと揺れる。水分が多くなる目を見開き乾かそうとするが失敗する。ポタっと落ちた雫はワインカラーのボトムが血が落ちたように色を濃くする。
「ん~嫌なもんはさ・・・・。嫌でいいけど・・・・、美月が、好きな格好を辞める必要は、無いと・・・・俺は思う」
「ヴーン」
完全に崩壊した涙腺から溢れる涙を、止める為に鞄から取り出したタオルに顔をうずめる。あまり効果はない。友達がみんな優しくて気にしてる自分が馬鹿みたいになる。
けれど、気にせずにはいられない。高1の時の孤独感と嫌な視線が蘇る。しかし、今の話では無い事は美月も知っている。そして、自己嫌悪に陥る。中3のあの日から繰り返すソレをどうにかしたいのにどうにもできなくてもどかしい。
「あーごめんねぇ~こうなるから喋りたくなかったんだ」
颯太は、手を伸ばしタオルにうずまる美月の頭をポンポンと撫でながらいう。
「泣け!そして、嫌な気持ちも垂れ流せ!」
「あはは垂れながすの?」
「そう。そしてワスレロ!」
「いいな。ワスレタイ。あーしかし、あの人を好きな人の相談に乗るのかぁ~私」
「キャンセルすれば?」
「いやっ気まずい」
「大輝の為?」
「うんにゃ。既に、私が顔を合わせたから!来週も新歓出るし」
「あぁ、そうか」
「まぁ、話をその日だけ聞いて終わらせる!」
「それしかないか?」
「穏便にはね。そもそも七ちゃんの事。私、そんなに知らないし・・・使えんなって思ってもらおう!」
「なんかそれも癪に障るけど?」
「えーずっと相談されるよりは良くない?」
「確かに」
「・・・・・・・・・」
「少しましになったか?」
「えぇ。結構すっきりしました。垂れ流したので!」
「そりゃよかった」
あははと笑い家まで送ってもらう。明日は車出すと美月が言って家に帰った。
読んで頂きありがとうございます!
~登場人物~
森 美月 21歳 1浪大学2年生 ITビジネス科
6/12生 何かと人に相談されがちな事が少し気になる今日この頃
体系にコンプレックスを持っている 男兄弟の真ん中
山崎 颯太 20歳 1浪大学2年生 エネルギー制御科
7/28生 美月の幼馴染 幼小中 高校別なのに同じ1浪して同じ大学で再会した
吉田 大輝 20歳 1浪大学2年生 エネルギー制御科
11/25生 美月の高校からの友達 押しに弱い男
松尾 陽菜 20歳 大学2年生 エネルギー制御科
6/13生 生颯太と大輝と同じ科で仲良くなった子 見た目は可愛い系だが少年の様な天然
山下 七海 19歳 大学2年生 インテリアデザイン科
3/21生 他科の知人 陽菜の幼馴染 メンヘラ気味の自称サバ女 無神経




