054 美月と颯太との関係
ジャンル恋愛ですよ!
「美月」
嫌になって居酒屋から出て来た美月は、颯太の車を止めた第二駐車場へ向かう。後ろを追って来た足音が聞こえていたので、足早に逃げていたが、最近ずっと一緒に居る声に美月はフッと強張った体が緩んで立ち止る。
「近づいてもいい?」
美月が立ち止った時と同じに止まった颯太の優しさに、頑張って堰き止めていた涙腺が崩壊しそうになる。コクコクと頭を縦に振ることしか出来なかった美月の返事に足音が美月の前へ回り込み止まる。ごめん。と声をだそうとして視線を上げようとするとそれはかなり低い位置で颯太と目が合う。
「・・・・なんで・・・しゃがんでるの?」
「あーデカいと威圧感があるかなー?って」
「ふふっ」
何という気遣いの男だ。思わず全部を一瞬忘れて笑ってしまった。颯太もにっこりと微笑んでいる。さらに颯太は美月に両手をお手の様に出して聞いてくる。
「美月、手握れる?」
「え?う?・・・うん」
美月も少し大丈夫かな?とは思った。高校生の時は一時期、身体にふれるのは太陽や煌星だって嫌だった。でも、大丈夫な気がして颯太の手に両手をのせた。颯太は軽く握って手の甲を親指でゆっくりと擦る。
「やっぱ冷たいな。もう少し握っても大丈夫?」
「・・・・うん」
美月の顔色を見ながら颯太はゆっくりと包んでいく。その手を見ながら、美月は目の奥と鼻の奥が痛みを覚える。ポタポタと落ちる涙に颯太が動揺して手を離そうとするけど、今度は美月が離れようとする温かさを掴んで引っ張る。
「おいっ」
美月の引っ張った勢いで前のめりになる颯太は立ち上がり、美月と触れるか触れないかの距離に戸惑う。
「美月?」
「颯太・・・」
「なに?」
「我儘を聞いてもらってもいいですか?」
ぐずぐずの涙声で、でもどこか力強く聞く美月に、一瞬驚くが颯太はいつもの様に甘やかす。いいよと優しい言葉に、美月の涙は更にあふれる。ちゃんと礼はするとつけ加えるのを忘れない。
「お返し絶対するから・・・」
「うん。なに?」
「ぎゅってしてくれる?」
余りの予想外の事で颯太が一時停止の上に声が漏れた。美月は咄嗟に手を離して手を振るが、その手はすぐに捕まって何故か力強く反論された。
「・・・・・はぁ?」
「あっ!嫌ならいいよ!」
「いやっ吃驚しただけで嫌なわけでは無い!断じて!」
「ごめんね?」
「だから、嫌じゃないって・・・」
力なく嫌では無いと繰り返す颯太は繋いだ手を離しゆっくりと美月の体に手を回す。今まで映画館で肩に手を回して抱き寄せたのが最も接近した距離だったのが、今は真正面からハグの形だった。
美月が驚かないようになのか、ゆっくりゆっくりと回された手は先ほど井出拓海が触った肩と腰に回される。美月はゆっくりと颯太の胸元に顔を埋めてハッとして上を向く。
「ごめん!服汚しちゃった」
美月の顔は涙でぐずぐずで鼻水まで出てきそうだ。慌てて手は鞄の中を明後日ハンドタオルを探すが上げた顔の先も気になる。
「なんで、颯太顔逸らしてるの?」
「いやっまぁ〜。嫌じゃないか?」
「・・・・・颯太だから・・・嫌じゃないよ。琴音にも抱き締めてもらって少し落ち着いたけど・・・アイツの感触が気持ち悪くて・・・」
「あぁ。だからか・・・」
「うん。颯太は安心する」
顔を化粧を落とさない様にハンドタオルで押すように拭った美月はハンドタオルを顔に当てたまま颯太の胸元にすりすりと顔を寄せる。
「ぐっ」
「なに?なんか痛い所当たった?」
「いえっなんでもないデス」
「なんで、敬語なの?」
「ん~気にしないでぇ・・・・」
「あのさ・・・」
「なに?」
「もっとギュッといい?」
「ん”?・・・・・・・・・分かった」
タオルを顔に当てたまま、美月も両手を颯太の腰の横から颯太の背後に回す。颯太が少し力を入れて抱き寄せられる力に逆らわず、美月も颯太の背中に回した手をぎゅっと抱き着く。颯太の体がビックンと小さく跳ねるので顔を上げる。
「颯太?大丈夫?」
「あー大丈夫か。大丈夫じゃないかというと・・・ダイジョウブじゃないかもしれないけど・・・うん。ちょっとただいま。俺も混乱中なんで少し待ってもらえます?」
「え?離れる?」
美月が体を離そうとすると、それは颯太の腕に阻まれる。腰に回した手をそのままに肩を掴んでいた手を上に動かし美月の頭を下に向けてそのまま撫でる。美月は心地よくて目を瞑る。
「美月は、安心するんだろ?」
「うん」
そのまま頭を撫でられて美月はさらにぎゅっと颯太を抱きしめる。安心して嫌な気持ちから遠ざかると、なんで颯太は大丈夫なのかなとふと思う。撫でられる手も、腰に回されて少しだけギュッと寄せる手も頭の上から降ってくる優しい声も、何もかもが優しくて暖かくて身を委ねてしまう。
「美月・・・」
「ふぇ?」
「寝てた?」
「いえっ。起きてました」
「なんで、ちょっと嘘つく?」
嘘はついていない。断じて!心地よくてまどろんではいたかもしれないが決して寝ていない。人に色々と迷惑をかけて寝るなんて!と美月が反論しようとしていると颯太が話を続ける。
「あのさぁ」
「なに?」
「安心してるとこ悪いんだけど・・・」
「ん?」
「昨日、美月さぁ・・・」
「うん」
「俺に何かしてくれるって言ったじゃん?」
「あぁ。お礼?今その話?」
「あーごめんな。今その話」
「うん・・・離れる?」
「いやっそのまま。でも、美月が嫌なら突き飛ばして。力は入れないようにするから」
「ん?」
「あのさ。美月にできることなら俺の要望聞くんだよな?」
「うん」
「じゃあさ・・・」
「ん?」
「俺を、美月の・・・彼氏にしてくれない?」
「・・・・・・・」
???美月は颯太の言った事の意味をくるくると考えるけど、他の意味が全く思い当たらなくて抱き着いたまま固まる。どれだけそれで止まっていたのかわからないけど、困惑した颯太の声が上からかかる。だって、まだ抱き着いたままだから。
「あの・・・美月さん?」
「あっ!」
美月は思わず上を向いてしまって、真っ赤な顔で颯太と目が合う。美月のその顔を見て颯太が少しだけホッとしたように顔を緩める。その優しい顔にえ?と思うとさらに体中が熱くなった気がする。
誰だよ。『もし好きだと言われたらどうしようかを少しだけ考えてあげて』って偉そうに後輩に言ってた奴は!今、美月の手は颯太に回しているので脳内イマジナリー美月が頭を抱えている。美月は颯太と二人で遊んでおきながら考えたのだろうか?と思考が飛ぶ。
しかも、美月からじゃなくて颯太のおねだりの二人でお出かけだ。いつもの送迎帰りの寄り道みたいに何の違和感もなく出かけた。え?颯太はそういうつもりなの?また私を守るためとかじゃないのか!?あり得る!恥ずかしい!一瞬でも颯太が美月を好いてると思ったことに美月は悶えて颯太に説教を垂れる!
「颯太!駄目だよ!そんなに自分を犠牲にしてまで、友達の私を守らなくても!」
「彼氏にはして貰えないってこと?」
「え?あっ!だって何で?」
「ごめんな。混乱させて・・・でも、俺すげぇ~美月大事なんだよ・・・自分でもびっくりするくらい・・・・」
そう言いながら颯太はぎゅっと美月をさらに抱き込む。先ほどまでの安心感は霧散してしまったが、嫌悪どころか胸がドコドコうるさいくらいで頭はふわふわクルクルと回る。え?酸欠?
「ふぇ?」
「ははっなんだ?その声。なぁ。美月・・・俺にこんなってされて嫌か?」
「え?嫌じゃにゃいよ?」
「ふはっ。めっちゃパニック」
「う”~」
「ごめん。でも、もう無関係で切り捨てられたくない。美月を守りたい。美月に1番に頼りにされたい。美月を守る権利が欲しい。俺の彼女に触るなって言いたい・・・」
颯太の切なそうな甘い声が耳元で紡がれる。美月の瞳には先ほど乾いたはずの涙がまた盛り上がる。この涙は何?大丈夫・・・嫌ではない。楓ちゃんには偉そうにちゃんと考えてあげてって言ったじゃん!
よく考えたら・・・よく考えなくても楓ちゃんの響君と、美月の颯太は同じくらい大事な男友達だ。抱きしめられても嫌じゃない。でも、恋愛は未だよくわからない。でも、この温かさ・・・颯太との時間が無くなるのは?
「やだ・・・」
「ごめん!」
グルグル考えて、楓にした質問を思い出してうっかり漏れた声で颯太がパッと手を離すが、美月の体は颯太から離れない。美月が背中に回した手で抱き着いてるから離れるはずが無い。
「・・・・・美月さん?」
「あのっ・・・付き合うとか・・・彼女とか正直わかんない。でも、颯太と会えなくなったり、一緒に居られなくなるのは嫌だ!・・・・・そんな・・・気持ちでもいいもの?」
颯太は普段は細い目を最大限に開いていたが、珍しい顔なのにその顔は離された両手ですぐに隠されてしまう。
「マジかぁー」
「やっぱダメだよね?」
美月が、おずおずを聞くと顔を隠していた手で両肩を捕まれて訴えられる。
「イイに決まってるでしょ?何でそんな可愛い事言えんの?」
「え?は?可愛い?」
「ずっと思ってますけど?可愛いって!」
「えぇー?」
思わず美月が手を離して離れようとしたら今度は颯太が美月を捕まえて抱き込む。
「俺が前の彼女らとつきあったのとか本当は言いたくないけど、最初俺が言ったって言葉覚えてる?」
「え?『俺はまだ君の事スキじゃないけどいいの?』だっけ?」
「そうそれ。クソだな俺」
「あー。本心を伝えないまま付き合うよりはいいのでは?誠実かも?」
「あはは。美月は肯定してくれるよな。疑問形だけど・・・その切っ掛けでもいいんじゃない?って美月がいったんだろ?ちゃんと付き合って向きあえば」
「・・・うん」
「だから、さっきの美月の言葉はスゲー嬉しい。俺と離れたくないってだけで今は十分ってか十二分。これから、もっと甘やかすから・・・俺の事好きになってくれると嬉しい・・・」
「ひゃっ!」
「さっきから、その可愛い声は何?誘惑してんの?」
「してない!してない!そんな事は断じてしてない!」
「おお!その調子だ!いつもの美月になって来たぞ!」
「颯太が、いつもの私じゃなくしたんでしょ!」
「いいな。それ。俺にしか見せない美月とか・・・最高だけど?」
「いやー!甘い事言う!もう、ギブです!待って!緩やかにお願いします!」
「あはは分かった。たまにやる」
「えーたまにやるのぉ?」
「じゃあ、常にやる?俺、今美月の彼氏になったんだよね?浮れてるからコレを通常運転に出来るよ」
抱き込まれながら颯太は凄い事言うので、美月は頭を抱えるしかできない。でも、離してくれる気配はみじんも感じない。
「マジなのかぁ~颯太こんな甘いやつなの?」
「マジだよー。まぁとりあえず、カレカノよろしくおねがいしまぁーす」
「あっ!はい!不束者ですがよろしくお願いします」
「おぉ。このまま結婚できそうだな?」
「え?」
「その予定でよろしく!」
「はい?マジで?」
「美月は俺の事を好きになってくれたら?」
「あーはー」
「なんだ?その返事・・・」
「なんだろう?」
「・・・」
「え?颯太さん。私まだ混乱中なんでこれ以上は辞めてほしいです」
「だな。あまり追い詰めてもいいこと無さそうだ・・・行くか」
背中をぽんぽんとされて体が離される。颯太は左手で美月の右手を握り、手を引きながら車に向かう。カップルつなぎに動揺している美月をよそに自身の右手でスマホを捜査してうわっと叫ぶ。
「どうしたの?」
「・・・・松本に・・・」
「琴ちゃん?まだ居酒屋?来てないよね?」
「来てたみたい・・・・」
「え?」
「バッチリ見られた」
「えーーーー!!!」
「美月、夜中!静かに!」
「(うわぁ~)」
動揺する美月を颯太は静かに車まで連行した。
読んで頂きありがとうございます!
~登場人物~
森 美月21歳 1浪大学2年生 ITビジネス科 SNS名【森美月】
6/12生 何かと人に相談されがちな事が少し気になる今日この頃 体系にコンプレックスを持っている 男兄弟の真ん中 ブラコン 敢えて鈍感 年下に甘い
山崎 颯太20歳 1浪大学2年生 エネルギー制御科 SNS名【Sota.Y】
7/28生 美月の彼氏 幼小中 高校別なのに同じ1浪して同じ大学で再会した 美月が初恋っぽい




