049 大翔の最後の家庭教師
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今日の大翔の許可は、昨日の水曜の夜に連絡が来た。松永さん、翔さんが是非という返事の上で、所長が大翔にも話を聞いたらしい。
大翔は、凄く落ち込んでいて許されなくてもいいから美月に謝りたいと言ったと所長へ話をしたという。きっと、そうだとは思っていた。大翔はいい子過ぎるのだ。
正直、色んな事を話したい気持ちのせいで朝から勉強関係は何もできなかった。母は、父が家にいるときは同じ週末に休みを取るので出張中は平日に休みを取る。なので、昨日は買い出しに出たらしく食材が買い置きされてたのでひたすらに鶏肉を切ったり、肉を1食分づつにわけたり、親子丼の鶏肉や、タレ焼きや、生姜焼きの味を付けとく肉はタレを作って袋に小分けにして仕込んで冷凍庫を整理して入れた。
今日は感情がどうなるか分からないし、先に帰ってもらうとかも無いので颯太のお迎えの申し出を有難く受けて颯太のシルビアでお迎えしてもらって向かう。
明日香さんが出て行った松永家の駐車場は空いているので止めて下さいと連絡があった。そもそも、美月が家庭訪問の時間は翔さんの駐車スペースが空いていたので美月が止めることが出来たがその辺りの親切心を明日香さんが持ち合わせていなかったような話をふわっと所長からされた。
車を降りると、颯太が手を差し出してくる。ん?と言う顔で颯太の顔を見るとスンッと顔をしてたなんなんだ?
「美月。車内で15分無言だったの気がついてる?」
「え?だった?」
「何を喋ったよ?」
「何も喋ってません」
「だろ?とりあえず、部屋前まで手を繋ごう。落ち着くかは俺もわらんけど・・・」
「あはは・・・ありがとう・・・・いつもごめんね。ありがとう」
「俺がやりたくしてやってるからいい。やりたくねぇ事はしねぇ~」
「ふふっありがとう!昨日も楓ちゃんたち喜んでたよ!夜は女子窓でメッセージ盛り上がった!4人が4人バラバラなのも参考になったかも!」
「ははっランチタイムのみじゃ、喋り足らんのか?」
「だねぇ~」
少し気を逸らした話をしながらエレベーターを待って部屋に向かう。明日は楓とデートなんだぁとか、明後日は中学校の飲み会だねぇとか明日以降の予定の話をした。土曜日は葵ちゃんの家庭教師があるから飲み会は21時スタートらしいけど美月はバイトだから、琴音と美月を拾って颯太も向かうから3人で遅れると連絡してある。
アプリを起動させると、緊張しながらチャイムを押す。松永家のチャイムはいつも緊張しながら押してた事を思い出して笑えて来る。勢いよく玄関の扉が開き、大翔と翔さんが出て来た。
「ミヅキ!」
「コラッ!まずミヅキ先生だ!」
「あっミヅキ先生!ありがと!来てくれて!」
「うん。私も最後の授業までしっかり大翔と向き合いたかった」
「最後・・・」
「あっ翔さん!今日、同行してくれる山崎颯太くんです。幼馴染で友人です」
「部外者が申し訳ないのですが、心配なので着いてきました。お邪魔します」
「いいえ。ありがとう。君が同行してくれなければ、大翔がミヅキさんに会う機会を得られなかったでしょうから。本当にありがたいです。2度目だけど、挨拶は初めてだね。松永翔です。大翔たちの父です」
翔さんが父ですと名乗ると大翔の体が一瞬ビクンと揺れる。顔は俯いているが耳や頬は少し赤い気がする。いい方向で話は進んでいるんだと思った。血がつながっていても母親になり切れない明日香さん。血のつながりが無くても堂々と親子ですと言える翔さん。彼らの何が違うんだろうか?人間性か?生い立ちか?ぐるぐると思考してしまいそうな頭を切り替えて真っすぐに大翔を見る。
「大翔。話をしよう」
リビングに通された美月たちは食卓に対面する。様子を伺うように見ているリクトと、久々のミヅキと遊びたくてバタバタしているマイちゃんは翔さんと子供部屋に待機することになった。
颯太は、美月の隣がいいと言うが威圧感を感じたら大翔と話せないと同じ空間内のソファーに座る。大翔の後ろなので、颯太が美月たちをみているのが美月には見えるが、大翔には見えないので少しは圧を感じないとイイと思う。
「あの・・・まずはオレ謝ってもいいですか?」
「うん。どうぞ」
「あっありがとう。あのっ・・・ミヅキ・・・先生」
「ん~2人で話すときはとりあえず、ミヅキでもいいけどもう他の先生を呼び捨てにしないでくれるかな?」
「あっもちろん!えっと、ミズキさんでもいい?」
「いいね。呼び捨てはアレだけど先生は仰々しいもんね」
「ありがとう・・・それでね。先週は、本当にごめんなさい」
美月にさん付けの許可を得た大翔は少し緩んで笑顔で礼を言い本題に入る。その顔は途端に強張り顔色を失う。泣きそうだけど泣いてはいけない事を知っていて痛ましい。
「うん」
「オレ、母さんに捨てられて・・・父さんともこの後どうなるのかわかんなくて・・・ミヅキっさんが優しいから。甘えてた。でも、甘え方がおかしすぎた・・・。なんで、子供を捨てる親を目のあたりにしたのにミヅキさんとオレに間に子供でも出来たらミヅキさんは離れないと思ったのか・・・1番オレがわかんねぇ・・・けど、ミヅキさんは子供を置いて行くような人じゃないって思ってて・・・ミヅキさんの頭を撫でる手が優しくて・・・嬉しくて・・・ミヅキさんにお母さんを重ねたかもしれないけど・・・お母さんはオレを置いていくから、恋人に奥さんにしたら長くいるのかな?って思った・・・・・父さんと母さん別れるのにね。オレ変だよね。頭ん中ぐちゃぐちゃで変なコト言った」
「うん。そうだね」
「ごめんなさい」
「はい」
「許してくれるの?」
先ほどまで美月の方は見ているものの、美月の組んでいる両手へ視線を落としていた大翔がバッと顔を上げて美月の顔を覗き込む。美月は真剣な顔で大翔の顔を見つめて言葉を噤む。話したかったことだ。
「許しません」
「あっ」
「大翔。以前に『1度口から出た言葉は取り消せません』って言ったの覚えてる?」
「覚えてる・・・オバさんの話でしょ?」
「そう。あの時は、大翔が12歳の事を考慮して貴方の言葉で私が傷ついたこと、言ったことは『忘れない』けど『許す』と言いました」
「うん・・・」
「だけど、今回は『許しません』。でも、意地悪で許さないと言ってるんじゃないの。何故なのかきいてほしい」
美月の真剣な顔と緊張したように震える声に、大翔も動揺したが1度目をつむり美月を見返すと頷いてくれる。本当に大人になるのが早すぎて悲しくなる。そうさせている、美月が憤るのは違うなと思い直し話を続ける。
「私ね。先週、大翔に言われた事を高校の1年生の時に日常のように言われたの」
「え?」
「はぁ?」
大翔のポカンとした声と同時に、低い声がソファーから聞こえた。颯太は私は大翔に何を言われたのか知らないはずだけれど美月の態度でトラウマを刺激することを言われた事は察していた。つい声を出してしまった颯太は気まずそうに口に手をあてて謝る。
「そうだね。颯太も色々わからないもんね。全部話すね。一緒に聞いてほしい」
美月は中3の卒業式から始まった、高1の虐めの話をする。告白されたこと、断ったら罵倒されたこと、高校になったら同じクラスだったこと、それから・・・ふしだらな女だと噂を立てられたこと、モテるアイツのせいでクラス全員が敵だったこと、傍観者もいたけど見てるだけでなにも助けにならない人は敵だと気がついたこと。
全部話をした。夏休み明けにアイツを見ただけで急に動悸が激しくなって、呼吸も浅くなって、大量の汗が吹きだして悪寒が走ってめまいで倒れた事を話す。
「心因性障害と病院で診断された。その最たる原因が、日常的に言われた『ヤラせて』『俺とどう?」『誰とでもするんでしょ?』等のなんというか・・・性に関する事で・・・私はレイプには合っていない。何もされてない。体は傷つけられてない。けど、潔白な・・・むしろそういう事に疎すぎた女子高生には言葉だけでもキツくて・・・」
「あっ・・・うっ・・・」
「・・・・・」
「だから、大翔から出て来たあの言葉は『許しません』でも、勘違いはしないでほしい。私は大翔を苦しめに来たわけじゃない。話をして、今後絶対に不幸になってほしくないから・・・大翔には幸せになってほしいから来た。話をしたかった。顔を見たかった・・・会いたかった」
大翔は、両腕で目元をを覆い、唇を食いしばる。しばらくそのまま動かなくなるが美月は待つ。その時間は長いのか短いのかは分からないが、シンとしたリビングに何かを食いしばるような大翔の吐息だけが漏れる。やっと、腕を降ろした時には少し潤んでいるが涙を流してはいけない様な顔の大翔の顔がある。
「あの言葉は、言っちゃいけない事は分かる?」
「う”ん」
「でもね。他の言葉も色々あるかもしれない。どうしても、私には体から血の気が引くほど恐怖を覚える言葉だけど、私の友人なら女子でも『はぁ?』ってキレて説教する人や、『ハイハイ』って流してくれる人もいると思う」
「・・・・・」
「でも、私がもっと酷いそういう被害を克服して生活してる人だったら?もっとパニックになる可能性もある」
「あっ・・・あぁ」
「誰も傷つけない生活なんて難しいと思う。何で人が傷つくかなんて私にも分かんないし・・・でも、言葉を発するときは相手の為の言葉を選んでほしいし・・・ネガティブな言葉を使うことはしないでほしい・・・大翔の大切な人たちの為にも!今の同級生にもだよ?」
「・・・うん」
「もしさ、マイちゃんが高校生くらいになってそんな事、同級生に言われたら大翔はどう思う?」
「あっ・・・」
大翔は正直、顔がいい部類に入ると思う。だから、関東から転校してきた顔のいい寡黙な男子はモテるだろう。もしかしたら、初日の様な言葉を同級生に投げかけているのではないかという事も美月は薄々思っていた。
顔のいい男は、何を言ってもいいと思ってる節を美月は体験してきたから大翔が奴みたいになってほしくない。だって、大翔はいい子だから。家庭環境が落ち着かなかっただけだから。
モテるやつだって良い奴もいる。響君はその最たる見本になると思う。良い奴だし、優しいし、面倒見がいいし、一途だ。颯太だって、不誠実な事を少しはした気がするが・・・アレは相手もなんだかなぁ~な子たちだったから喧嘩両成敗?な感じはある。
大翔にはそんな人になってほしい。自分を大事に、人を大事にして好かれてほしい。顔がいいからとか表面だけの大翔を見るのではなく、一緒に居て楽しいからと人が集まる人間に近づいてほしい。
ぐるぐる考えている時にこの思考になった時、母親かよ!と自分で自分につっこんでしまったこともあるけど、美月は家庭教師のお姉さんとして真剣にそう思っている。
「私の言いたい事・・・わかった?」
「え?あっうん。・・・・・・オレ・・・・タダのバイト先の生徒なのに・・・めちゃくちゃミヅキに大事にされてる・・・そんなミヅキを傷つけて・・・本当に・・・・。ごめんなさい。オレ、まだ自分の事を大事にするとかわかんないけど・・・父さんと暮らすことになったんだ!オレ、リクトとマイのお兄ちゃんでいられるだ。だから、カッコいいお兄ちゃんになりたい」
「いいね」
「うん。ありがとうミヅキ!オレ『許されてない』事を忘れない!ずっと覚えて頑張る!」
「だね!前向きに!『許されてない』事を戒めに!人を大事にして」
「わかった!」
美月は大翔の目の周りをぐじゅぐじゅさせているが、少しスッキリ見える顔にホッとする。美月の言いたい事も言えたし、大翔も顔が晴れやかになった気もする。フッと力を抜いて颯太のいる方向を見ると、颯太は頭を抱えて項垂れている。
高校の話はふわっとしたけど、ここまで詳しくしたのは初めてだった。予告なしで話をしてしまった・・・衝撃的だったかなと反省するが今は颯太を慰めている場合じゃない。
大翔に、リクトとマイに今日が最後な事とお別れを話したいとお願いして呼びに行ってもらう。大翔との話は、とぎれとぎれもあったりして1時間を超えていた。
待ちくたびれた様子の二人に抱きしめられるのはしょうがない事だろう。その後1時間は、翔さんと大翔が二人で話がしたいという事でリクトとマイと4人で遊んだ。気を使ってもらったんだろうなと思っていたら最後に二人で話をさせてくれてありがとうと翔さんにお礼を言われた。
嬉しそうにまたお礼と謝罪をする大翔と、彼の背中を支えるように添えてある翔さんの腕をみて嬉しくなる。彼らは今からさらに家族になっていくんだなと思うと美月の心も軽くなる。颯太と二人で別れの礼をして松永家を後にした。
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~登場人物~
森 美月 21歳 1浪大学2年生 ITビジネス科
6/12生 何かと人に相談されがちな事が少し気になる今日この頃 体系にコンプレックスを持っている 男兄弟の真ん中 ブラコン 敢えて鈍感 年下に甘い
山崎 颯太21歳 1浪大学2年生 エネルギー制御科 SNS名【Sota.Y】
7/28生 美月の幼馴染 幼小中 高校別なのに同じ1浪して同じ大学で再会した 美月が好き みんなにバレてる 美月にはバレてない
松永 大翔12歳 中1
家庭教師の生徒 思春期真っただ中の男の子 6歳と1歳の弟妹がいる
松永 翔33歳
優秀なビジネスマン 全国区の会社の支店長を任されている 大翔とは血のつながらない父子 父子仲は良好 自由な明日香の為に大翔に負担をかけているのを申し訳なく思っている 子好き
松永 リクト 6歳 小1
家庭教師の生徒の弟 凄く素直でお利口さん 美月の1番心配な子
松永 マイ 1歳
家庭教師の生徒の弟 抱っこ好きなハイハイマスター 捕まりある気が出来る 絵本好きらしい




