038 大翔の過ちと美月の心
性的な表現が合ったりします。
苦手な方は、気を付けて読んでください。
木曜の夜。月の物は終わりかけで大分元気なので休むことなく松永家に向かう。松永家はなかなかの体力を使うので、体調が悪い時は曜日の移動をお願いしようと思うと大翔と所長には話してある。
今日もマンションの玄関先でチャイムを押すと松永明日香が出て来た。今日は、先週より落ち着いているのかと油断してしまった。だが、明日香は玄関口で話をする。
「こんばんは。お邪魔します」
「森さん、どうも。私はこの家から出て行くから後は好きにどうぞ」
「え?」
「あんた、この間うちの人たちと出かけたんでしょ?はっ。あの後、あの人ずっとグチグチ言ってたのよ」
先々週の日曜日の遊園地のことだろうか?美月はムッとして言い返す。そもそも、明日香が不在で無ければ大翔だって美月に助けを求めていないはずなのだから。
「松永さんがいらっしゃらなかったからですよね?」
「あはは!私は、松永じゃなくなるわ!貴方のお陰でね!今迄、黙認してたくせに。はっ。たかが、家庭教師が時間外に来る必要ないじゃない!」
「その、たかが家庭教師に、子供を丸投げしてる人に言われたくありません!」
「子供も産んだことが無いくせに偉そうに!」
流石の美月もイライラした。何故、美月が責められる必要があるのか?他の人たちに叱られたことは受け止められるが、明日香にだけは責められる要素を感じ無くて言い返すと、訳の分からないことを言い始めた。子供を産めばいいのか?母親とは産んだら母親になるのか?
イトコのところだって、色々な夫婦がいる。全力で夫婦で子育てをしている夫婦だって、母親に育児を丸投げの夫婦だって、母親の方が子供に興味ないのか?って思う夫婦だっていた。
「私は、親の立場で言ってません!子供立場で言ってます!約束したんですよね?遊園地行くって。それを破っていいわけないじゃないですか!私はこの年になってもは嫌ですよ!親に約束破られるなんて!」
「うるさいわね!私だって、大翔産まなきゃ、あんたみたいに大学行ってキラキラした青春送ってたわよ!分かってる?あんたと私8こしか変わらないでしょ?大翔より私の方があんたと年が近いのよ!」
急に何の話をしているのか?母親になったことないくせにと言ったり、今度は美月と年が近いと言ったり何が言いたいのだこの人はと困惑に思わず声が出る。
「はぁ?」
「まぁ。もういいわ。私は行くから。戻ってこないから森さんは21時に帰って。多分、あの人帰ってくると思うわ」
明日香はバタンッと大きな音を立てて門を閉めて出て行った。相変わらずだが、いつもより更に悪そうな状況に呆然とする美月を誰も迎えには来ない。門は閉まっているが玄関は開けっ放しで、やけに家の中が静かだ。
あまりの静けさに我に返った美月がマンションの部屋に入っていくと、大翔がリビングのソファーで足を投げ出した形で背もたれに完全に体を預けていた。頭をソファーの背もたれにのせて、目を瞑っている。
「大翔?」
「ミズキ?あー。今日、家庭教師の日かぁ・・・」
大翔は反応は見せるが、目も開けなければ体を起しもせずソファーに体を預けたまま美月に反応する。
「リクトとマイちゃんは?」
「あー父さんが連れ出してる。オレは母さんと話しろって・・・置いてかれた」
「そう・・・話した?」
美月はソファーの後ろに立って、大翔の頭をおでこから髪に向かって頭を撫でる。先ほどの明日香の態度からあまりいい話合いでは無かったのではと思うから、つい甘やかしてしまう。大翔の顔が一瞬緩んで、ギュッと目をきつくつむると震える声で言う。
「あぁ。いらないって」
「え?」
「アイツ、ここで彼氏のとこ行くからオレ邪魔なんだって。だから、じぃちゃん達のとこ帰るか、お・・・お父さん。父親じゃないのに、お父さんと一緒にいるか決めろって」
「うん・・・」
「でも、さ。無理じゃん。お父さん、オレと血のつながり無いんだよ?」
「・・・うん」
はぁーと泣きそうな溜息をつきながら大翔が涙を堪えている。その選択をしたのは、大翔の両親であるが、美月が松永家の現状を所長へ逐一報告していた。所長が放置する理由が無いことを知っていた。今の状況の一端を美月が招いたと心臓が嫌な痛みを覚える。
大翔に寄り添うことしかできない。頭を撫でる事しかできない無力な自分に泣きたくなる。しかし今、美月が泣くのは違うと思った。ただ、ゆっくり額から頭へ向かって優しく手を動かすことしかできない。でも、やっぱり何か出来ないか?何かしてほしい事は無いかと考えてしまう。
「ねぇ。大翔、私に何か出来る事ある?」
長い長い沈黙が、続くその間も美月は頭を撫で続けた。それしかできないから。すると、大翔が美月の手首をつかんで来た。それは、辞めろと言うわけには払うわけでも無く、縋るというには強く、少し痛い。
大翔は喉を上下させて、そのままの体制で目も開かず言う。いつもよりも低く冷たい温度の声で発せられた。
「じゃあ、ヤラせてよ」
美月は最初、大翔が何を言い始めたのか分からなかった。確かに初対面こそ暴言を吐いた大翔だったけど、次の回ではすでにその態度は軟化しており、多少ぶっきらぼうだったし、時折不審な発言はあったがそれは美月を悲しませない為の冗談だったりもした。
「え?」
「オレ、辛いからさ!ミヅキでヤラせてよ」
「いやっそれは・・・」
「なんだよ?力になるって!嘘じゃん!ミヅキに何ができるんだよ!」
「あっ・・・」
「大人って言っても何も力ないじゃん!ミヅキが俺の彼女にでもなって支えてくれんの?それとも、お父さんと結婚してオレの母親にでもなってくれるのかよ!」
大翔の不安定な心は分かる。けれど、美月にはどちらも了承出来る事じゃない。大翔に、嫌な言葉を使ってほしくないのに、先ほどの言葉は美月の思考を止めるには十分だった。
高校のあの噂の後、何度クラスの男子たちに言われただろうか。上級生の男子だったり、クラス外の人にも通り過ぎ様にも言われた。何もされたことは無い。でも、毎日、毎日。身体の一部を見られ投げかけられたその言葉達は未だに美月の心を蝕んでいる。
あの時より、多少は強くなった。美月を思いやる家族や友人たちがいることに気がつけたから、でも、それでもソレらのフレーズは美月の体と心を凍らせるには十分すぎる言葉だ。
「・・・・」
「だんまりかよ。はっ。大人は都合が悪くなると黙るよな」
「ちがっ!」
「じゃあ、ヤラせて。オレのモノになってよ・・・」
大翔の言葉は、先ほどと変わらず内容は酷いが先ほどの冷たい声色では無く、泣くような縋るような声が胸を締め付ける。でも、美月がそれを差し出すことが出来るわけがない。
「・・・・そっそれは・・・出来ない」
「はっ!マジでなんだよ!おっぱい大きいから、ヤリまくってるんだろ!大学生なんて、とっかえひっかえで遊んでるもんじゃねぇの?その中の一人でもいいよ。させろよ」
「そんなっ・・・こと・・・してないっ・・・」
美月を見る気もない大翔は、手だけは離さない。美月も振り払えない。大翔の力が強いのか、美月が振り払わないのか体が固まってしまっているのかは美月にも分からない。美月は先ほどから血の気を失って顔色は真っ青になっていた。それでも、大翔の言葉は止まらなかった。
「早く、服脱いでよ。あー部屋がいい?ソファーよりベット?リクト達いつ帰ってくるかわかんねぇしな」
「嫌っ。無理」
「はぁ?ミヅキが力になるって言ったんでしょ?だから、ヤラしてって言ってるじゃん?ミヅキのできることでしょ?」
「そっそれと、これとは・・・ちがっ・・・」
「なんだよ!」
大翔は、やっと美月を見る。美月の顔は、表情と血の気の無い人形の様な顏になって見開いた瞳からは一筋の涙が流れていて、大翔はハッとする。
出会って1ヶ月しか経っていないのにも関わらず、タダの家庭教師の美月はすでに大翔に踏み込み過ぎるくらい寄り添っていた。ずっと、関わっていてくれていた。
そんな美月に、母親に捨てられた荒んだ気持ちをかわかってほしくて、でも踏み込んでほしくなくて確実に遠ざける為に、でも甘えたくて、美月がそばにいてくれるならとそれでもいいと思ってぐちゃぐちゃの気持ちを美月に投げた。
しかし、大翔の投げた数々の言葉が美月を傷つけるには的確過ぎた。美月が普通の生活で成長してきたなら、不安定だったからねと笑いは話で流すことが出来たかもしれない。だが、大翔の知らないこととは言え、美月のトラウマを確実に刺激した。
大翔は手を離してソファーの向こう側に立った。美月は離された右手を左手で抱きこんでギュッと握る。顔の表情は無いまま変わらない。眉を下げた泣き顔では無い。無表情に涙が流れているだけの顔は人形の上に水を垂らしたような無機質な泣き顔だった。
「あっ・・・ミヅキ、ごめん」
大翔、謝りながらソファーを回り込もうとすると美月は反射的に後ずさる。顏は無表情のまま涙を流し体は小刻みに震えている。その姿を見て、大翔の動きも止まる。
「ミヅキ?ごめん。オレ・・・あのっ」
大翔が話し始めるたびに、美月の体はビクリと震える。近づけるはずもない。その時玄関から大きな声がした。
「ミヅキちゃ~ん」「ミー!ミー!」
「すまない。美月さん。今日は家庭教師休みの連絡を入れておくべきだった・・・鉢合わせてないかい?・・・・どうした?」
リクトから今日が、木曜日で美月が来ることを聞いた松永翔は2人を連れて戻ってリビングに入って来たが、2人が離れて立っており美月の顔色が尋常じゃない事に気がついて聞く。
リクトも、可哀想な事に人の機微に敏感で足を止める。翔に降ろされたマイだけが嬉しそうに美月に近づき足に抱き着く。ビクッとなった美月だが、マイの温かい体温に気がつきその場にへなへなと座り込む。
すると、マイは嬉しそうに美月の膝によじ登る。そんなマイを美月も両手でギュッと抱き上げる。少し緩んだ美月の顔に大翔もホッとするが、翔が大翔へ近づき状況を確認する。
「大翔。何があった?明日香と美月さんが会ったのか?」
「・・・・・・・」
「大翔?」
「・・・・オレが・・・傷つけた・・・母さんにいらないって言われて、お父さんは俺のお父さんじゃないし・・・むしゃくしゃして、悲しくて、寂しくて・・・」
「なっ。何かしたのか!?」
「してない!でも、嫌な・・・多分、美月が嫌な言葉はたくさん・・・言った」
「くっ・・・すまん。明日香と2人にすべきじゃなかった・・・。美月さん?」
翔の呼びかけに、美月もビクッとするがマイの体温のお陰か幾分かマシになっている顏色で何とか言葉を返すことが出来た。
「はい・・・」
「大丈夫かい?」
「あっ・・・」
「大丈夫じゃないときは、きちんと大丈夫じゃないと言うんだよ?」
「・・・・だ・・・だいじょ・・ぶ、じゃ・・・ないかも・・・しれません」
翔の近づかないでくれて、言われる優しい声と優しい言葉に、美月はボロボロと涙を流し絞り出す声で大丈夫じゃないかもしれませんと力なく言った。リクトも美月に駆け寄って抱きつき大翔を睨む。
「お兄ちゃんが、ミヅキちゃんイジメたの!ミヅキちゃん!オンナノコなんだよ!オトコノコはオンナノコは大事にしなきゃイケナイんだよ!」
「あ・・・うっ」
あまりにも正論すぎるリクトの言い分は大翔が常にリクトに言っていた。マイを守るための言葉だったが、今の大翔には真っすぐと刺さる。顔色をだんだん青くしていた大翔は何も言えなくなる。横から翔が口を開く。
「とりあえず、事務所に連絡します。美月さん、それでいいかい?」
「・・・・・・はい・・・・・・お願い・・・しま・・・す」
「大翔は、そこ、ソファーの奥に座って。美月さんは移動できる?」
「すみません・・・腰が抜けちゃって・・・」
「あっオレが!」
大翔が美月を連れてくると声を上げるが、ビクッと美月の体が跳ねる。美月もこんな反応がしたいわけでは無いけど、もう反射的にそうなるので意識して震えを押さえることしかできなかった。
「大翔。お前は動かないで。美月さん、リクは大丈夫?」
「はい・・・マイちゃんとリクトの体温・・・安心します・・・」
「分かった。リクトは美月ちゃんの傍にいて、背中トントン出来る?」
「できる!ミヅキちゃん!ボクついてるからね!」
小さな紳士に美月の顔も緩む。そわそわとしてる大翔の視界の端にうつる。少しだけ気分がましになった美月では大翔へ声をかけることが出来ない。
それから、翔が所長に連絡して所長が美月の家族へ連絡して美月を迎えに来ることになったと言われた。所長が家族の誰に連絡するかと聞いてきたというので、兄に連絡して下さいとお願いした。両親共に今日は夜勤だ。電話には出られないだろう。
マイちゃんも美月から離れないし、絵本を読めるようになったリクトが持ってきてくれた絵本を読みながら待っていると15分ほどで所長が来て。その後に、数分後に太陽兄と何故か颯太が来た。太陽兄が所長と話をしていると颯太が寄ってくる。
「美月?大丈夫か?ん?家庭教師の子たち?初めましてぇ~」
「はじめまして、お兄ちゃん。ミヅキちゃんのお兄ちゃん?」
「うんにゃ。ミヅキちゃんのお友達。颯太だよ」
「ソータ兄ちゃん?ボクはリクト!」
「そう、リクトは賢いねぇ~」
颯太が、にこにこと微笑みながらリクトの頭を撫でながら美月に引っ付いているリクトと話をする。マイちゃんも興味津々だ。愛想がいい颯太にウケると言うと、サービス業舐めんなと言われた。
「なんで颯太来てるの?」
「車の代行者ですが?」
所長が近づいてもビクッとした美月だったが、太陽はもちろんのこと、颯太が来たのでホッとしていつもの美月に戻って来た。颯太は、太陽兄と会っているときに連絡が来たらしく美月の車を運転するためについてきたと言う。
「なんで、地べた?」
「腰をぬかしまして・・・」
「マジか!はい。手」
颯太が当たり前のように、手を出してくる。その手を借りてそれを掴んで立ち上がる。今度は、足が痺れていた。
「足、痺れてる・・・」
「あはは。ヤバいな」
颯太が腰に手を回すが、何も違和感も無く、不快感もない。ふぅ~と1度息を吐くと大翔を見る。大翔は心配そうに美月を見ていた。美月ももう震えない。ニコッと困った顔で笑って大翔に話しかける。
「ごめん!大翔!授業出来なかった」
「あっだいじょ・・・ぶ。・・・・・ごめんなさい・・・」
「うん」
まだ何か言いたそうな大翔だけど、人も多くなったこともあり何も言えず口を閉じる。美月もこれ以上何を言っていいのか分からないので言葉を交わし終えると、所長が口を挟む。美月は足の痺れも治まり颯太に手を離して貰い所長に向き直る。
「森さん。アプリは起動していた?」
「はい」
「じゃあ、終了して、君は家族と帰りなさい」
「はい。この度は、私が弱いばかりにお手数をお掛けしました・・・」
美月は深々と頭を下げると、所長は困った顔になり頭をかき謝る。それに続く美月の言葉に呆れながらも優しく帰宅と、今週の出勤の事へ言及する。
「いやっ。これは、大人の僕らの不手際だ。すまない」
「いえっ。あの今日は欠勤と言う事で・・・」
「それは、今から松永さんと話して決めます。責任感が強いことは君の素晴らしい所だが、あんまり自分を虐めないであげなさい。今日は帰ってゆっくりして。土曜日も無理はしないで」
「はい・・・。すみません。よろしくお願いします」
所長との話が終わると、颯太が手を出す。ん?と思うと何故か手を繋がれた。もう、足も腰も普通に歩けるのにと思いながらもそのままリクトとマイと大翔にお別れを言って、翔へ退室の挨拶をして部屋を出た。
読んで頂きありがとうございます!
~登場人物~
森 美月 21歳 1浪大学2年生 ITビジネス科
6/12生 何かと人に相談されがちな事が少し気になる今日この頃 体系にコンプレックスを持っている 男兄弟の真ん中 ブラコン 敢えて鈍感 年下に甘い
松永 大翔12歳 中1
家庭教師の生徒 思春期真っただ中の男の子 6歳と1歳の弟妹がいる
松永 翔33歳
優秀なビジネスマン 全国区の会社の支店長を任されている 大翔とは血のつながらない父子 父子仲は良好 自由な明日香の為に大翔に負担をかけているのを申し訳なく思っている 子好き
松永 リクト 6歳 小1
家庭教師の生徒の弟 凄く素直でお利口さん 美月の1番心配な子
松永 マイ 1歳
家庭教師の生徒の弟 抱っこ好きなハイハイマスター 捕まりある気が出来る 絵本好きらしい
松永 明日香29歳
主婦 神経質 自由人 精神が幼い 夫には叱られたくない ネグレクト?
森 太陽25歳 役場勤務
8/15生 優しいお兄ちゃん 大雑把?大らか? バスケ経験者だけど、選手の頃から選手より監督向きだなと思っていた
西村所長 58歳 家庭教師事務所の所長
ふわふわとした雰囲気のオジ様 凄く子供好き 心を病んで辞めていく塾生を何人も見てもっと踏み込んだ教育をしたいと思い家庭教師事務所を立ち上げた。
山崎 颯太20歳 1浪大学2年生 エネルギー制御科 SNS名【Sota.Y】
7/28生 美月の幼馴染 幼小中 高校別なのに同じ1浪して同じ大学で再会した 美月が好き みんなにバレてる 美月にはバレてない




