023 大人になるには早くない?
木曜日の家庭教師は大変です。
「あら、森さん。いらっっしゃい。私、上の階にいるから21時までよろしくお願いします」
現在、木曜18時50分。松永家の入っているマンションの7階にエレベーターから降りる瞬間だった。大翔の母親である松永明日香が美月より少しばかり年上の20代後半の男性と腕を組んで入れ違いでエレベーターに乗っていった。
降りた瞬間に声をかけられたので、鞄の中をチェックしていた美月は明日香がエレベーターの中に入ってから気がついた。彼女は、もっと早く気がついていたはずだ。
美月が呆然と立っている間に、エレベーターのドアは閉まり。エレベーターの箱は上へと上がって行った。何階で止まるのか確認するつもりでは無かったけど、呆然とその階が上がる数字を眺めてしまった。
このマンションは12階までだ。エレベーターは10階まで上がり止まった。何が起こったのか分からない美月はその場から動けなくなっていたが19時になる5分前のスマホの予定の通知でハッと我に返る。
明日香が出かけたという事は、家には子供達3人しかいない。念のため、明日香が出かけたことをメッセージで所長と職員の窓へ送り松永家に向かう。チャイムを鳴らすとインターフォンから大翔の声がする。
「あっ!ミヅキ!今、空けるね!」
大翔の明るい声にホッとする。マイとリクトのはしゃぐ声もする。顏が緩むが先ほどの光景は衝撃だった。口調の硬くなる美月に大翔はすぐに気がつく。
「はーい!時間ぴったりだね!今日は何からする?」
「オジャマシマース。今日ハ数学ダヨー」
「ミヅキ?あーもしかして会った?もっと、早く出ればいいのに、もしかして男も一緒だった?」
「エ?何ソレ?」
「まぁーよくあることだから」
「良くないから!」
大翔のへらっとした、言葉に、美月は泣きそうになりながら思ったより大きな声で否定する。
「ミヅキぃ~。あんまりそーゆー顏はしない方がいいと思う」
「え?どうゆう顔?」
「泣きそうな顔!正直そそる!」
「はぁ?九つ上のオバさん相手に何言ってんの!それより、知ってたの?」
「あー気にしてた?アレは辞めさせようとして言っただけで最初から可愛い人だなぁって思ってたよ?オバさんとか言ってごめんなさい。忘れてほしい」
「忘れません!1度口から出た言葉は取り消せません!どんなに謝っても、許したと言われても心には残ります!大翔、喋るときは本当に気を付けて!大事な人まで傷つけることになるから!」
「あっはい。ごめんなさい。えっと・・・もう気を付けます。ミズキ・・・もう、オレの事、許してくれない?」
「許すけど!大翔はまだ12歳だから許すだけで、私は忘れてないから!それだけは、覚えていて!」
「はい・・・・・分かりました」
ショボーンとする大翔だが、これは美月がどうしても教えておきたい事なので取り返しがつかない事になる前に教材があるならきちんと教えたい。人間は、その場で当事者にならないとわからないものだから。
「それで、大翔は知ってたの?あの・・・お母さんの事」
「あぁー。いつもなんだよ。
お父さんと結婚してから・・・リクトが産まれるまでは・・・大人しくしてたんだけど・・・ねぇ。アノ人寂しがり屋?とか言ってまして・・・。で・・・お父さんにバレて離婚するかしないかをねぇ~話してたんだけど、お父さんが俺の親権も持ちたいとか言い始めて、なんかそんな話をしている間に?よくわかんないんだけど、マイをアノ人妊娠してて・・・お父さんも心当たりあるらしく・・・ちょっと、そこらへんは大人ってわかんねぇ~とは思うんだけど、えーと仲直りして、んで今、ここにいる」
大翔は、一生懸命分かることを説明する。お母さんが彼氏を作るのは珍しくないと話す。どうしたもんかとも思うけど・・・なんというか・・・どうにもできないし、理解も出来ない。
「うーん。私もわかんないけど・・・分かった。ごめん、説明させて」
「いやっまぁ~うちの日常?だし!地元から離れたら、そーゆーことしないかと思ったんだけど、今マッチングアプリがねぇ~便利だからねぇ~!」
「うーん」
明るく親の不倫の話をする12歳の男の子に、美月は不甲斐なくも涙腺に涙がたまる。だって、もう大人って、結婚って、恋って何だろうって思う。
「マジ、泣きそうな顔辞めて!オレ、本当にミヅキのこと!タイプだから!警戒して、12歳とか思ってても身長変わらん時点で力で勝てないと思って!ね!泣かないで・・・ね?」
「はぁ~私、9つ下の子に慰められてる・・・情けない・・・大翔・・・ゆっくり大人になってもいいんだよ?」
「ん~でも、割り切らない方がシンドイ・・・かな?」
「そっかぁ~そうだよねぇ~」
美月も情けないが、大翔は大翔なりの処世術らしい。それを、美月がどうこう言うこともできないなと意気消沈していると、奥のリビングのドアが開く。
「ムズカしいお話、おわったぁ?」
2人で、玄関でなんか空気が抜けているとリクトがリビングから出て来た。
「あのねぇ~。マイちゃんが・・・」
リクトの神妙な顏に2人は慌ててリビングへ走る。無き声が聞こえないけど、マイに何かあったのかと思いリビングの扉を空けてると・・・そこはティッシュの海だった。比喩では無い。
3箱ほどのティッシュをマイがシュッシュッと1マイずつ丁寧に空へ向かって投げている。まぁリビングなんで、マイのお座りからの上部なんて、地面から30cmほどの高さなんだけど、マイちゃんは羽の無い扇風機の前でそれをしている。
「うわぁ~豪快!」
「げっリクト!ゴミ袋取ってきて!集めて捨てよう!」
「えぇ!勿体ない!まだ使ってないじゃん!」
「えーでも。マイの涎とか、地面の埃付いてるよ?」
「えーでもぉ~マイちゃんのお尻ふくとか・・・リクトの工作とか?なんか使えない?」
確かに、こんなタワーマンションに住んでいる大翔には何故使うのかわからんか?ん?中学生だからか?美月が貧乏性だからか?と美月が思っていると、リクトの華やいだ声に思考が遮られる。
「工作!?リク、てるてる坊主作りたい!ミヅキちゃん!日曜ね!パパが遊園地連れて行ってくれるの!」
「おぉう。この梅雨時期に?」
「そう、この梅雨時期に・・・」
「まぁ~月末だから梅雨空けてるかも?」
「ははっ希望的観測だな。だから、一応、水族館とか雨の日で遊べるとこもリストアップしてる」
「あはは大翔さすが!ん~でも、とりあえず、てるてる坊主は作りますか!オールティッシュなんて贅沢なてるてる様だから効くかもよ?」
「OK!集める!」
「ちょっと、待ちなさい!君はこのプリント!それは、リクトと私とマイちゃんでやります!」
大翔に裏表に問題のあるプリント3枚を渡してからマイを抱っこしてティッシュを拾う。一応は出したての綺麗なゴミ袋に集めることにしたので、拾ったティッシュを持たせ袋へガサッと入れされる。
何回かして、マイを降ろして競争だよってマイを置いて袋へ美月1人でティッシュを入れると、マイも真似した。まぁ。自分も頭ごと突っ込んでるけど・・・リクトはせっせと集めている。
美月とリクトの真似をしてたまにマイも拾うが大体は散らかしているだけだ。リクトが嫌な気持ちになる前に、ささっと片づけながら美月はリクトに言う。
「散らかしモンスターマーイに負けてはいけない!頑張るんだ!勇者リクト!」
それを聞いたリクトの回収の速さが一段と上がったノリノリで回収を早めて、たまにマーイの妨害にやられるふりをして立ち上がった。松永兄弟優秀だなとクスクスと笑いが漏れる。
回収してからは、マイちゃんにとられないように食卓の上に袋を置いたてから、てるてる坊主を作るための材料を集める。輪ゴム、紐、マジックペン。全部揃うとそれを全部カウンターに並べてリクトに言う。
「はい。勇者リクト。散らかしモンスターマーイは倒しましたが、魔王シュクダーイがあります!それを倒したら、ご褒美のてるてる坊主の工作をします!」
「了解しました!ん?ミズキちゃんはなに?」
「えークエスト出すから、ギルド職員かな?」
「ぎるどショクイン?」
「そう、勇者にお仕事を教える人だよぉ~!はい!宿題は?」
「準備できてる!」
「おぉ!偉い!はい。視写から始めて!大翔は終わった?」
「うん。3枚終わった」
「相変わらず早いな。次は国語ね」
「ゲッ」
「頑張ってぇ~!私は回答する」
「はーい」
「おにいちゃん!リクと競争ね!」
「おぉ。確かにリクもこくごだな。でも、早いだけじゃギルドのお姉さんは合格を出さないから綺麗さも点数にしような!」
「わかった!キレイにハヤク書く!」
「おうっ!」
あはは可愛い小中1年生男子ズ。と思いながら美月も大翔が解いた数学のプリント3枚の裏表を回答していく8割出来てるけど、ケアレスミスが多い。なんて惜しいんでしょう。
その後は、リクトの音読を見守り、てるてる坊主の作り方を教えると、6割しか解けていない国語の解説をする。数学が間違いを渡すだけであーとか言いながら正解を書いていたのでとりあえず今日はパスにする。次は応用を持ってこようと思う。予習もありかもしれない。
リクトを寝かしながら大翔とお喋りをしつつ、待っていたいたがやはり、お母さんは22時にも帰って来ず渋々大翔に言われ帰宅した。1時間の超過は、葵ちゃんの家でもお茶を飲みながらお喋りしたりするので大丈夫だよと言ったがそれ以上はダメでしょっと帰された。
大人すぎる大翔に悲しくなるけど、これ以上美月の出来ることは無い。
読んで頂きありがとうございます!
~登場人物~
森 美月 21歳 1浪大学2年生 ITビジネス科
6/12生 何かと人に相談されがちな事が少し気になる今日この頃 体系にコンプレックスを持っている 男兄弟の真ん中 ブラコン 敢えて鈍感 年下に甘い
松永 大翔12歳 中1
家庭教師の生徒 思春期真っただ中の男の子 6歳と1歳の弟妹がいる
松永 明日香29歳
主婦 神経質 自由人 精神が幼い 夫にはしかられたくない ネグレクト?
松永 リクト 6歳 小1
家庭教師の生徒の弟 凄く素直でお利口さん 美月の1番心配な子 勇者リクト
松永 マイ 1歳
家庭教師の生徒の弟 抱っこ好きなハイハイマスター 捕まりある気が出来る 絵本好きらしい 散らかしモンスターマーイ




