016 衝撃と緩和な訪問先
ちょっと胸糞案件です。
事故物件ですねぇ~(;'∀')美月ちゃんは色々気がつきすぎる。
まぁ、そーなる理由はある。
木曜日も、颯太と車は別々で、後輩ちゃんにも絡まれることもなく無事に学校を終えた。まぁ、明日は飲み会に参加するんだけどねぇ~と思いながらも平穏に過ごした夜は大翔の家に家庭教師として行く。
ピンポーン
18時50分。松永家のチャイムを鳴らと、華やいだ声で大翔の母親が出て来た。身なりも綺麗にされており今からお出かけですか?と聞きたくなるほどだ。まさか、自分を迎える為では無いだろうからどこかから帰って来たばかりなのかな?と思っていた。
「あら、いらっしゃい。時間通りね!森さん。じゃあ、よろしくお願いいたします」
そういうと、大翔の母親である松永明日香は、美月とすれ違ってマンションの部屋の門から出て行こうとする。行動の速さにポカンと一瞬なったが、家庭教師事務所の規約を思い出して静止する。
「待ってください。松永さん!何処に行かれるんですか?」
「あら、すぐそこよ」
「ですが、家庭教師契約書の方でも書かれている通り、講師が授業中の際が在宅が必須です!」
「あらぁ~読んでないわぁ~」
「いやっ!口頭説明もあったはずです!」
「主婦って忙しいの。そんなのいちいち覚えられないわよ」
なんか、先週と全く感じが違う明日香に驚く。こんな感じのひとだったっけ?と混乱している美月を置いてけぼりでさっさと松永明日香は自分の言いたい事だけ言う。
「行くところは、上の階よ!同じ敷地内で同じ建物よ。じゃあ、よろしくお願いいたします!」
そう言って足早にエレベーターへ向かった。美月はポカンと口を開けたまま固まるしかできなかった。美月だって確かに成人しているが、まだ学生の身分で自分と背も変わらない中学生のいる母親の行動が自分の周辺の母親から逸脱しすぎていて理解出来ない。呆然と立っていると家の中から大翔が出てきて。
「ミズキ、入んないの?」
大翔の声で我に返り、その大翔声につられて、リビングの方からリクトとマイがひょこりと顔を出す。2人は満面の笑み近寄ってくる。
「ミズキちゃん!ボク、宿題じゅんびしてたよ!」
偉い?と続きそうな顔だった。
「ミー!ミー」
抱っこのポーズで近づくマイ。上の二人が美月のことを話しをしたのだろうか?1歳過ぎの子が1回しか会ったことない大人を呼べる範囲の音で呼んでいる。ぎゅっと胸が苦しい。そして悲しい。なんだこれ・・・涙腺が壊れそうだけど、美月が泣くわけにはいかない。
「なぁ。ミヅキどうした?」
あまりに大翔が対等に喋るので、呆然とした美月は大翔に顔を向けてつい潤んだ瞳で呟いてしまった。彼だって中学1年生なのに。
「君らのお母さん出かけちゃったんだけど・・・」
大翔は一瞬バツの悪そうな顔をしたけど、諦めた慣れている口調で返す。これが、彼らの日常らしい。
「あぁ。いつもの事だよ。成人済みの美月がいるからアレの中で出かけて行っていい事になったんじゃないか?お父さんと約束したのは、『未成年だけを残して外出するな』だから」
「えー」
「ミヅキ、アレいないと入れない?」
「あー。ご近所にいることが分かってるなら・・・大丈夫かなぁ?」
はぁと溜息をつきながら考える。家庭訪問中に保護者がご近所に回覧板を届けてくるわって程度の時間なら特にお咎めは無い。
「ミヅキちゃん帰っちゃう?」
リクトに問われて美月は動きの鈍った頭を動かす。困った時はどうする?と頭にひらめいたのが大人に相談することである。美月はある意味、兄と兄の彼女のお陰で報連相が身についていた。
「んー。君らを置いても帰れない・・・ちょっとまって!所長に電話する!」
所長に連絡すると、所長から松永の母へと連絡してくれることになった。お代は頂いている。楽しみにしていたらしい大翔含むちびっこを置いて、本当に未成年だけにして帰ることを所長も懸念しており同じ建物にいることと緊急事態として許可が降りた。
「ごめんね。ちょっと今迄に無いパターンだったもので・・・授業していいって。リクト、宿題しようか」
「あぁ・・・・。大丈夫?まぁ。リビングな」
ぼんやりとしている美月を大翔が気遣ってくれる。大翔についてリビングへ向かいながら、大翔が気まずそうに気にしないでと言う。
「アレがあーなのは、いつもの事だし、気にしないで」
大翔のいつものことにもガツンとショックを受ける。美月は少しパニック状態になりながら大翔へ向かって危険性を説明する。
「何言ってるの!気になるよ!私が悪い人なら3人誘拐できるんだよ!」
「えぇ~ミヅキ一人では無理でしょ?」
「何言ってるの!今から仲間を呼ぶことだって出来るんだよ!こんな小さい子を、シッターでもない大学生に預けて・・・」
「そこは、まぁ~ミヅキと家庭教師事務所を信じてるとか?」
美月が悲しい顔になるので大翔は焦る。泣くもんかと頑張って涙腺と闘っているが、瞳はしっかり潤んでいる。
「ほらっ!うちはずっとそうだったし!俺は気にしてないから大丈夫!美月が気にする事じゃないし、アノ人、若いだろ?高2で俺生んでるんだよ!」
「え?」
「あービビるよね?まぁ。その時の相手?俺の父親も学生で養う能力が無くて別れたらしくてさ!俺は本当の親父は知らないんだけど!んで、今のお父さん?リクトたちの父親はあの人が働いてるコンビニの社員さんでさ。なんか、苦労しているシングルマザーに見えたんだろうね。コロっと騙されてアノ人口説いて結婚したの。正直、俺はじいちゃんとばあちゃんが育てたようなもんなんだけどさ。アノ人のコンビニのバイト代はお小遣いだったし」
美月がしょんぼりとしているので、励まそうとしたのか饒舌に説明する大翔だが、内容にさらについていけなくなり絶句する。
「・・・・・」
美月の様子の可笑しさに大翔が、弁解じみた家庭の事情をさらに説明を始める。そんなことさせたかったわけじゃないけど、内容も内容すぎて美月は何も口に出せなくなっていた。
「最近、ここにお父さんの仕事の都合で転勤でこの街に来てさ。しかも、栄転?って言うの?なんかここの支店の幹部になったらして忙しくてさー」
「・・・・あまり帰ってこない?」
「あぁ~0時過ぎる前には帰ってくる。アノ人が家にいるか確認してる」
「・・・・・・・・お休みの日は?」
「あぁ。転勤前はいつもどこか連れて行ってくれたりしたけど、最近は忙しすぎて休日出勤もあるし、休みでも午後まで寝て昼食食べて、近所の公園にマイとリクを連れて一緒に行ったりする。お父さんは結構、子煩悩なんだよ。時間に余裕がないだけで」
「ほぅ・・・・」
「なんか、ごめんね。ミヅキ」
「いえいえ、とんでもございません。しっかりしなきゃ!おっし、授業しよう!リクト宿題するぞぉ!マイちゃん抱っこしよう!おいで!」
「あんま飛ばすと、明日アチコチ痛くなんぞ?子供って意外に重いんだぜ」
美月の空元気を察してか、大翔がアドバイスしてくる。これだけで、美月の涙腺はヤバい。前の家では、お父さんも子育てしていただろうが父親には仕事がある。
リクトが産まれた頃は大翔は今のリクトくらいの年だ。その時は祖父母は近くに居たんだろうか・・・。けれど、感傷に浸っている場合では無い!空元気でも自分のやるべきことを全うしなくてはいけない。
「とりあえず、大翔は解いて」
「おぉ。マジでやんのか勉強」
「それをさせにきてるもんで!」
「げっ英語」
「単語帳は覚えた?」
「あぁ~貰った分?」
「マジで!?文法の方は?」
「はぁ?覚えなくてもいいのかよ。それも大体?」
「覚えたほうがいいよ!じゃあ、出来るって!やってみな」
マイを抱っこしながら、リクトの視写を眺める。でも、全く文字は入ってこない。大混乱だ。なんか、自分の胸コンプレックスが恥ずかしくてしょうがない。なんじゃこりゃである。ふと気になってリクトに質問する。
「ねぇ。リクト、御飯は食べた?」
「うん!今日はねぇ~オムライス!お母さんのゴハンおいしいんだよぉ~」
「そっかぁ~いいねぇ~私もオムライス好き!」
「ミヅキちゃんも?美味しいよねぇ~オムライス!」
幸せそうなリクトの笑顔に色んなものが緩む。マイちゃんを抱えてない方の手で、ぷにぷにと頬をつつく。テヘっとした顔をして笑うリクトと同じ顔になってしまう。マイちゃんも抱えられている左側から手を伸ばしてくるのでほっぺをぷにぷにと押す。
ほっぺはふくふくでお腹が満ち足りているのだろうご機嫌である。世話はするけど、関心は無いのか?そんなことを考えていると優海ちゃんと相談したことを思い出してつい声を出す。
「あっ!」
「なにっ?」
美月が急に声を出すので、大翔がビクッと声を上げる。ごめんごめんと言いながら美月はバックから絵本を取り出す。
「マイちゃんに読んであげようかと思って!」
「はぁ?1歳に文字とか物語とかわかんねぇ~だろ?」
「そんなことないよぉ~。優海ちゃんに聞いて、良さそうなの家から持ってきたもん」
「優海ちゃんって誰だよ。1歳から本って興味あんの?」
「優海ちゃんは私の兄の彼女?そろそろ、兄嫁と呼びたい。1歳はねぇ~コーユー色のははっきりした絵で効果音が多いと良いんだよ!『ぽよん』とか『びゅーん』とかね」
「へぇ~読んでみて」
大翔がキラキラした目で、美月を見ている。リクトも宿題を止めて美月を見ている。あれ?と美月は大翔にツッコミを入れる。
「おいっ。大翔はプリントは?」
「終わった!」
「え?」
「先週、美月がくれた物からしか問題出てなかったぞ」
「まぁ。その範囲のプリントだからね」
「だから、読んで!」
「おっおう。なんか、こう注目されると照れるんですけど・・・」
美月は幼児の定番っと言われた、家にあった『だ〇まさんがこ〇んだ』を読んだ。結構なベストセラーと言う事で、リクトも大翔も知っているだろうと思ってたけど何故かこの2人も楽しそうだった。
「マイ。めっちゃ見てるね!」
きらっきらの笑顔で言う大翔が可愛くてしょうがない。もしかして、大翔にはこういう仕事が向いているんじゃないだろうか?保育士とか幼稚園教諭とか小学校の先生とか?
「ホンは、せんせいが読むと思ってた!ミヅキちゃん!じょうず!」
おうっ。純粋なリクトの誉め言葉に家でお母さんが読まないことが発覚した・・・。美月の心が再度萎む。でも、そんなことはお構いなしに今迄になかったほど興奮した大翔が聞いてくる。まぁ2回目の対面だけど。
「この本いくら?絵本って高い?」
「え?図書館とかで借りてもいいんだよ?」
「はぁ、中学校にはさすがに絵本はねえぇよ」
「図書館!市立の!」
「あぁー。遠くねぇ?バスでどれくらいかかるかな・・・」
そうか、大翔はまだ中学生だったことに気がつく。この地区から市立図書館は凄く遠いわけじゃないけど・・・そこそこ遠い。車で行くなら20分くらい。でも、バスの通る道から行くともっと時間かかるかも?バスで行けるかな?返却と合わせて往復を2回したら絵本を買える料金になるのでは?と思った。
「あっこの本あげるよ?私らの時に買ったみたいだけど、必要な人にならあげていいって言聞いてきた!」
「はぁ?兄嫁とかできそうなんだろ?そっちに必要になるんじゃねえの?」
「あぁ優海ちゃん?優海ちゃんは保育士でねぇ~しかも、本好きだから自分でも結構な量の絵本持っているから多分、うちからは持って行かない」
「あぁ。そう。美月は?」
「えー私は予定無いしなぁ~!今、必要なマイちゃんに使うといいよ!」
「予定って、確かに大学生だっけ?でも、彼氏いるんだろ?」
「えぇー」
いないと正直に言うべきか、いると言うべきか悩む。女の子を受け持っていた男の家庭教師の先輩の事を思い出す。何か変なことになったら大変だから溺愛する彼女がいるふりをするらしい。存在しない彼女を溺愛するエピソードを考えるのが意外と精神を抉られると言っていた。美月には無理だと、嘘はつかないことにした。絶対にボロがでる。
「いないなー。理想が高くてね!」
「マジかー理想って?」
おう?何故、そこに食いつく。勉強させなきゃと話を逸らす。
「はいはい。絵本は読んだから、私はそれをチェックします」
「えー。まぁいいか。それ、読んでみていい?」
相変わらず目を煌めかせて聞いてくるので、1回ねと言って、読んだ後にする数学の問題をテーブルに準備して声をかける。美月は英語の回答に手を付けた。
絵本は、大翔が読んであげるなら貸してあげるという事にして今はとりあえず受け取ってもらった。シリーズ3冊。すぐにリクトも読める様な内容なので是非楽しんで貰いたい。
その後、帰る時間まで母親は戻らず。電話をかけてみたが「すぐ戻りますので帰って結構です」という言葉を頂いたが、戻るまで待つという美月に大翔が、『家庭教師帰ったから俺ら3人しかいない』というメッセージをお父さんに送るぞって脅したからすぐ帰ってくると思うと言われたのでしょうがなく帰宅することになった。
それでも、22時近くになってた。駐車料金の領収書でバレるので所長を含めた職員さんとの窓でその旨もくまなくSNSで報告した。なんだかとても疲れた。
読んで頂きありがとうございます!
~登場人物~
森 美月21歳 1浪大学2年生 ITビジネス科 SNS名【森美月】
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