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減速の冒険者  作者: 加ヶ谷優壮
第二章 〝蒼褪めたる月〟

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第14話 〝イドラ『瓶詰の地獄』〟


「リレ、次は――」


 そう言葉を続けようとした時だった。


 異様な視線が

 俺    の

 体を貫いたの

 は。   ま

 るで無数の針

 で    背

 中をぷすぷす

       ¶と、刺されているみたい。

 異質。

       これまで感じた視線の中でも、

群を抜いて異質。

異質 異質

異質。


 ――戦域(ここ)に来るまで、四六時中クシェラさんに見られていたおかげで、俺は最近人の視線を肌で感じられるようになっていた。


 だから、わかる。

 この視線の異様さが……!


「ナギサさん?」


 リレはこの視線に気づいていない。

 当たり前だ。

 周囲をいくら見回しても、俺たちの他に人の姿はないのだから。


 その矛盾。

 そして、この視線の感じ……恐らく魔力が絡んでいる。

 つまるところ、これはイドラ。


 千里眼(クレアヴォイアンス)と同じような――待て、待て、待て/似たようなイドラを持っている奴を、俺は知っていなかったか?


 ――アデル・エドガー。

 ロワボヨンボを倒すために、ニュエラム湿地に訪れた俺たちを急襲した男。

 イドラ〝蒼き千里眼(オメガヴァイアンス)〟を持つSランク冒険者……!


 この視線の異様さは、俺の未来を見られている――と考えれば、納得はつく。

 納得はつくが、断定はできない。

 できない¶できない¶できないけど――、

 ■■■■■■■■■■(俺はあいつを殺したい)。


「ああ、いや悪い。他にも試したいことがあるから、もう一度俺から離れてくれないか? 俺が指示するまで、離れ続けてほしい」


「――? わかりました」


「もういいよ!」


 リレに向かって、声を上げる。

 一応確認してみたが、やはり見られているのは俺らしい。再度、周囲を見回すが人の姿はやはり見えない。


 これからどうする?

 どうすれば――アデルを殺せる?


 ちょうど、そう思った時だった。

 俺の目の前に、藍色の髪をした男――アデル・エドガーが現れたのは。


「――ッ!」


 反射的に魔剣を投げる。

 遅れて、気づいた。

 突如、現れた強烈な魔剣の気配と、アデルの体から発せられる熱気に――


「……え?」


 おかしい。

 何かが、おかしい。


 そう思っている間に、アデルの姿が消滅する。結果、俺が投げた魔剣はリレの体の元へと向かっていた。


 避けろ。

 リレに向かって、そう叫ぼうとしたはずなのに。


「が、あああああぁぁぁぁぁぁああ!!」


 俺の喉は、あまりの痛みに絶叫を上げていた。視界に映る鈍色。それが、俺の左腕を肘先で切断し、勢いそのままに俺の首元へと迫っていた。



 §



 アデルのイドラは、蒼き千里眼(オメガヴァイアンス)ではない。


 彼の本当のイドラは〝瓶詰の地獄《インスタントインフェルノ》〟

 一つの魔術紋に、まったく関連性のない別々の能力を内包した、世にも珍しい複合(キメラ)型のイドラである。


(劇場のイドラも基本的に複数の能力を行使することができるが、こちらは世界を改変する能力が起点となっているため、複合(キメラ)型のイドラではない。


 単独で発動でき、それぞれ独立した能力を二つ以上持っていることが、複合(キメラ)型のイドラの定義である。


 ちなみにこの定義は、後世の魔術学者であるオスカル・カフカが定めた)


 現代ではその存在すら知られていない第五(みち)の系統(タイプ)のイドラであり、ナギサがこれを予見することは不可能。


 故に、アデルの意のままに事が進み、ナギサの敗色が濃厚となる。


 ――前述した通り、瓶詰の地獄《インスタントインフェルノ》は複数の能力を内包している。

 

 第一の瓶〝蒼き千里眼(オメガヴァイアンス)〟

 あらゆる人物の偽の未来を見ることができる能力。発動すると、視界が1159分割され、実際には起こり得ない総数1159の未来を見ることができる。


 見ることのできる未来に、突拍子のないものは含まれず、すべての未来が高純度で現実に即している。そのため、全ての偽の未来を把握することができれば、消去法的に確実性の高い未来予測が可能。


 第二の瓶〝黄昏時の紙殺し(ルナティックブルー)〟

 自らが思い浮かべた風景や人物などの像を、火炎の面に映し出すことができる。


 第三の瓶〝夜越しの希望《ガーディアンエンジェル》〟

 文字を記したモノを、自らが作り出した異空間に封じ込めることができる能力。ただし、異空間は円柱状になっており、その大きさは直径77mm×高さ290mmとなっている。


 そのため、この大きさには入りきらないモノは封じ込めることができない。また、自らの視界外にあるモノも能力の適用外。


 封じ込めたモノは、任意で現世に戻すことができる。しかし、出現先もまた自らの視界内に限られる。


 以上、三つが瓶詰の地獄《インスタントインフェルノ》の能力。

 これらを使い、ナギサへの奇襲を成功させたアデルだったが――


「不彁視の砲弾(ゴーストフィスト)――ッ!」


 想定外の事態が、卒然と彼に牙を剥いた。



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