第14話 〝イドラ『瓶詰の地獄』〟
「リレ、次は――」
そう言葉を続けようとした時だった。
異様な視線が
俺 の
体を貫いたの
は。 ま
るで無数の針
で 背
中をぷすぷす
¶と、刺されているみたい。
異質。
これまで感じた視線の中でも、
群を抜いて異質。
異質 異質
異質。
――戦域に来るまで、四六時中クシェラさんに見られていたおかげで、俺は最近人の視線を肌で感じられるようになっていた。
だから、わかる。
この視線の異様さが……!
「ナギサさん?」
リレはこの視線に気づいていない。
当たり前だ。
周囲をいくら見回しても、俺たちの他に人の姿はないのだから。
その矛盾。
そして、この視線の感じ……恐らく魔力が絡んでいる。
つまるところ、これはイドラ。
千里眼と同じような――待て、待て、待て/似たようなイドラを持っている奴を、俺は知っていなかったか?
――アデル・エドガー。
ロワボヨンボを倒すために、ニュエラム湿地に訪れた俺たちを急襲した男。
イドラ〝蒼き千里眼〟を持つSランク冒険者……!
この視線の異様さは、俺の未来を見られている――と考えれば、納得はつく。
納得はつくが、断定はできない。
できない¶できない¶できないけど――、
■■■■■■■■■■。
「ああ、いや悪い。他にも試したいことがあるから、もう一度俺から離れてくれないか? 俺が指示するまで、離れ続けてほしい」
「――? わかりました」
「もういいよ!」
リレに向かって、声を上げる。
一応確認してみたが、やはり見られているのは俺らしい。再度、周囲を見回すが人の姿はやはり見えない。
これからどうする?
どうすれば――アデルを殺せる?
ちょうど、そう思った時だった。
俺の目の前に、藍色の髪をした男――アデル・エドガーが現れたのは。
「――ッ!」
反射的に魔剣を投げる。
遅れて、気づいた。
突如、現れた強烈な魔剣の気配と、アデルの体から発せられる熱気に――
「……え?」
おかしい。
何かが、おかしい。
そう思っている間に、アデルの姿が消滅する。結果、俺が投げた魔剣はリレの体の元へと向かっていた。
避けろ。
リレに向かって、そう叫ぼうとしたはずなのに。
「が、あああああぁぁぁぁぁぁああ!!」
俺の喉は、あまりの痛みに絶叫を上げていた。視界に映る鈍色。それが、俺の左腕を肘先で切断し、勢いそのままに俺の首元へと迫っていた。
§
アデルのイドラは、蒼き千里眼ではない。
彼の本当のイドラは〝瓶詰の地獄〟
一つの魔術紋に、まったく関連性のない別々の能力を内包した、世にも珍しい複合型のイドラである。
(劇場のイドラも基本的に複数の能力を行使することができるが、こちらは世界を改変する能力が起点となっているため、複合型のイドラではない。
単独で発動でき、それぞれ独立した能力を二つ以上持っていることが、複合型のイドラの定義である。
ちなみにこの定義は、後世の魔術学者であるオスカル・カフカが定めた)
現代ではその存在すら知られていない第五の系統のイドラであり、ナギサがこれを予見することは不可能。
故に、アデルの意のままに事が進み、ナギサの敗色が濃厚となる。
――前述した通り、瓶詰の地獄は複数の能力を内包している。
第一の瓶〝蒼き千里眼〟
あらゆる人物の偽の未来を見ることができる能力。発動すると、視界が1159分割され、実際には起こり得ない総数1159の未来を見ることができる。
見ることのできる未来に、突拍子のないものは含まれず、すべての未来が高純度で現実に即している。そのため、全ての偽の未来を把握することができれば、消去法的に確実性の高い未来予測が可能。
第二の瓶〝黄昏時の紙殺し〟
自らが思い浮かべた風景や人物などの像を、火炎の面に映し出すことができる。
第三の瓶〝夜越しの希望〟
文字を記したモノを、自らが作り出した異空間に封じ込めることができる能力。ただし、異空間は円柱状になっており、その大きさは直径77mm×高さ290mmとなっている。
そのため、この大きさには入りきらないモノは封じ込めることができない。また、自らの視界外にあるモノも能力の適用外。
封じ込めたモノは、任意で現世に戻すことができる。しかし、出現先もまた自らの視界内に限られる。
以上、三つが瓶詰の地獄の能力。
これらを使い、ナギサへの奇襲を成功させたアデルだったが――
「不彁視の砲弾――ッ!」
想定外の事態が、卒然と彼に牙を剥いた。




