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減速の冒険者  作者: 加ヶ谷優壮
第二章 〝蒼褪めたる月〟

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第10話 〝リレ:ランデヴー〟


 リレと二人きりで街を歩く。


「ナギサさん。朝食って摂りましたか?」


「いいや、まだ。食べに行こうか」


「はいっ」


 そんな言葉を交わして、適当な店に入る。

 リレと向き合う形で二人席に腰掛け、料理を頼んだ。


「ナギサさん、この都市には亜人の生き残りがいるってウワサ知ってますか?」


 亜人。

 人に近い姿形をしながら、人とは異なる特徴を持つ知的生命体。大昔に人類種と敵対し、根絶やしにされたらしい。


「いや、初めて聞いたけど……なんでそんなウワサが?」


「夜間透明都市に身を隠しやすいイメージがあるからじゃないですか? それに、この辺りで入手しやすい透過の魔剣を使えば、亜人種が人間の振りをすることも可能かもしれませんし」


 まあ、巨人族は無理でしょうけど、とリレが言葉を付け足す。


「リレはそのウワサを信じてるのか?」


「いえ、夜間透明都市にはいないと思います。もしいるとしたら――閉鎖都市じゃないですか?」


「閉鎖都市……か」


 閉鎖都市。

 この国――エルリル王国が厳重に管理している〝原初の魔剣〟の影響下にある都市。閉鎖都市という名前の通りに、その地への立ち入りは固く禁じられている。


 様々な憶測が立てられているが、はっきりとしたことは何もわからない謎だらけの都市だ。そもそも都市と言っているけど、中に人はいるのだろうか。


「あ、料理が来ました」


 パンとポタージュ、そして厚切りのハムがテーブルに運ばれてくる。

 どうやら運ばれてきたのは、一人前だけらしい。


「先に食べていいよ、リレ」


「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」


 いただきますと言い、リレがご飯を食べ始める。

 ……うう、眠い。

 あくびを噛み殺す。


「ここのポタージュ……美味しいです!」


「そう言われると、俺も楽しみになってくるな」


 しばらくすると、俺の分の飯が運ばれてきた。店員さんにお礼を言い、俺もリレと同様に食べ始める。


「クルトンが来るとん」


「――――」


「確かに美味いな……濃厚な味がする」


「で、ですよね」


 会話を楽しみながら、リレと朝食を摂った。



 §



 朝食を食べ終わった俺たちは、街を見て回ることにした。


「透過の魔剣……売ってますね」


 一振りの剣が、露店にでかでかと置かれていた。値段を見る。


「……高いな」


 完全に足元を見られている。


『現地調達をしようと思ってる』


 ヴァルターはああ言っていたが、俺は買うという選択肢もアリだと思っている。突如リレの体に現れた謎の紋章に、イヴァンの奇行……今後、魔剣の捜索を以前と同じようにできるかどうかわからない状況だ。


 先がよく見えないなら、臨機応変に対応できるように取れる選択肢は多い方がいい。


 実際に買うかどうかは置いておいて、買うという選択肢が取れるかどうか試しておくべきだろう。


 俺の手持ちじゃ透過の魔剣を買うことはできないので、リレに今の所持金を聞いてみる。……わかってはいたが、合わせても無理だった。全然届かない。

 

 店主に「お金は払うので、一瞬だけ借りることはできないですか?」と聞いてみる。案の定、鬱陶(うっとう)しそうにダメだと返された。


 リレと一緒に交渉してみるが、あえなく撃沈。

 まあ……そうだろうなぁ。


 諦め、魔剣の露店から離れる。


「リレ、あれから紋章の様子に変化はあったか?」


「いえ、今朝見た時も以前と変わりはなかったです」


「そうか、それは良かった」


 アラステアの言葉を信じるなら、あれは転移の術式だ。

 もし発動した場合、リレはどこに飛ばされてしまうのだろうか。


 首を振る。

 考えても仕方のないことだ。


 露店を見て回る。

 食べ物やアクセサリーなど、多種多様なものが売られていた。

 次の店に行こうかと言いかけたところで、リレの視線がある一つのものに向けられていることに気がついた。


「プレゼントしようか、それ」


「え?」


 リレが見つめていたのは、銀のブレスレット。

 別に特段高いものでもない。

 俺の手持ちの金でも、安々と買えてしまうその程度のもの。


 それなのに、リレがうろたえていた。

 距離感を間違っただろうか。


「気持ちは嬉しいんですけど……その、あの、アレじゃないですか……?」


「――?」


 何がアレなのだろう。

 嫌がっているようには見えないので、言葉を待つ。


「こ、恋人みたいじゃないですか?」


「――? 俺がリレにブレスレットを贈る行為がってこと?」


 こくこくと頷くリレ。

 俺は少し考えた後、言った。


「その理論でいくと、俺とリレとイヴァンとロイスはヴァルターの恋人になっちゃうけど」


 全員、ヴァルターから残陽石のペンダントを貰っているし、と言葉を続ける。


 自分で言っておいてなんだが、両刀遣いの四股って凄いな。生命力に溢れている。


「そ、そういう話じゃなくてですね……!」


 ペンダントもブレスレットも同じアクセサリーだし、どう考えても同じ話じゃないか……?

 そんな疑問を抱きながらも、話が進まなくなりそうなので、口には出さない。


「プレゼントしてもいいか? リレ」


「……じゃあ……貰っておきます」


 店主に購入する意思を伝え、お金を渡す。そうして、銀のブレスレットを手に入れた俺は、リレに手渡した。


「あ――ごめん。サイズ測ってなかったな」


 完全に失念していた。

 人にこういうものを贈るのが初めてだったのが、裏目に出た。


「いえ、ぴったりだったので大丈夫ですよ――ほら、見てください」


 手を軽く振りながら見せてくるリレ。

 リレってこういう子どもみたいな仕草もするんだな。少し、意外だった。


「ナギサさん――ありがとうございます。大事にしますね」


「ああ、そうしてくれると俺も嬉しいよ」


 リレの嬉しそうな表情を見ていたら、いつの間にか眠気は完全に覚めていた。



 §



 二日後。

 俺とリレは、二人で迷宮に潜っていた。


 ヴァルターには、念のためにイヴァンの様子を見てもらっている。


 昨日……例の事件から初めてイヴァンに会ったのだが、何事も起こらなかった。それどころか、イヴァンの様子は驚くほどに普通だった。


 そして、あの破茶滅茶な言動を俺に向かってしたことを、まるで覚えていなかった。

 俺の頭がおかしいのか、と疑うほどにだ。


「――――」


 いや、あれは俺の幻覚じゃない。

 俺はそこまで壊れていない/完全にぶっ壊れるわけにはいかない。だから、だからこそ、俺はイヴァンを――


「――――」


 考え事をしながら、迷宮の深部に向かっていく。今日見つけた魔剣は二本。そのどれもがしょうもない能力だったので、俺たちの士気は下がっていた。


「――ナギサさん」


「ああ、あったな」


 通路の先に、魔剣を発見する。

 俺たちは早歩きでそこに向かった。

 周囲に魔物がいないことを確認し、魔剣を手に取る。そして魔力を流した。


 頭の中に、情報が流れ込む。


 透過の魔剣。

 魔力を流して人を斬りつけることで、相手の体内を透視し、指定した場所を永久的に透明にすることができる。再び斬りつけることで、透明化を解除することも可能。


 情報を瞬時に咀嚼した俺は「リレ」と名前を呼んで、言った。


「これ、透過の魔剣だ」



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