第10話 〝リレ:ランデヴー〟
リレと二人きりで街を歩く。
「ナギサさん。朝食って摂りましたか?」
「いいや、まだ。食べに行こうか」
「はいっ」
そんな言葉を交わして、適当な店に入る。
リレと向き合う形で二人席に腰掛け、料理を頼んだ。
「ナギサさん、この都市には亜人の生き残りがいるってウワサ知ってますか?」
亜人。
人に近い姿形をしながら、人とは異なる特徴を持つ知的生命体。大昔に人類種と敵対し、根絶やしにされたらしい。
「いや、初めて聞いたけど……なんでそんなウワサが?」
「夜間透明都市に身を隠しやすいイメージがあるからじゃないですか? それに、この辺りで入手しやすい透過の魔剣を使えば、亜人種が人間の振りをすることも可能かもしれませんし」
まあ、巨人族は無理でしょうけど、とリレが言葉を付け足す。
「リレはそのウワサを信じてるのか?」
「いえ、夜間透明都市にはいないと思います。もしいるとしたら――閉鎖都市じゃないですか?」
「閉鎖都市……か」
閉鎖都市。
この国――エルリル王国が厳重に管理している〝原初の魔剣〟の影響下にある都市。閉鎖都市という名前の通りに、その地への立ち入りは固く禁じられている。
様々な憶測が立てられているが、はっきりとしたことは何もわからない謎だらけの都市だ。そもそも都市と言っているけど、中に人はいるのだろうか。
「あ、料理が来ました」
パンとポタージュ、そして厚切りのハムがテーブルに運ばれてくる。
どうやら運ばれてきたのは、一人前だけらしい。
「先に食べていいよ、リレ」
「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」
いただきますと言い、リレがご飯を食べ始める。
……うう、眠い。
あくびを噛み殺す。
「ここのポタージュ……美味しいです!」
「そう言われると、俺も楽しみになってくるな」
しばらくすると、俺の分の飯が運ばれてきた。店員さんにお礼を言い、俺もリレと同様に食べ始める。
「クルトンが来るとん」
「――――」
「確かに美味いな……濃厚な味がする」
「で、ですよね」
会話を楽しみながら、リレと朝食を摂った。
§
朝食を食べ終わった俺たちは、街を見て回ることにした。
「透過の魔剣……売ってますね」
一振りの剣が、露店にでかでかと置かれていた。値段を見る。
「……高いな」
完全に足元を見られている。
『現地調達をしようと思ってる』
ヴァルターはああ言っていたが、俺は買うという選択肢もアリだと思っている。突如リレの体に現れた謎の紋章に、イヴァンの奇行……今後、魔剣の捜索を以前と同じようにできるかどうかわからない状況だ。
先がよく見えないなら、臨機応変に対応できるように取れる選択肢は多い方がいい。
実際に買うかどうかは置いておいて、買うという選択肢が取れるかどうか試しておくべきだろう。
俺の手持ちじゃ透過の魔剣を買うことはできないので、リレに今の所持金を聞いてみる。……わかってはいたが、合わせても無理だった。全然届かない。
店主に「お金は払うので、一瞬だけ借りることはできないですか?」と聞いてみる。案の定、鬱陶しそうにダメだと返された。
リレと一緒に交渉してみるが、あえなく撃沈。
まあ……そうだろうなぁ。
諦め、魔剣の露店から離れる。
「リレ、あれから紋章の様子に変化はあったか?」
「いえ、今朝見た時も以前と変わりはなかったです」
「そうか、それは良かった」
アラステアの言葉を信じるなら、あれは転移の術式だ。
もし発動した場合、リレはどこに飛ばされてしまうのだろうか。
首を振る。
考えても仕方のないことだ。
露店を見て回る。
食べ物やアクセサリーなど、多種多様なものが売られていた。
次の店に行こうかと言いかけたところで、リレの視線がある一つのものに向けられていることに気がついた。
「プレゼントしようか、それ」
「え?」
リレが見つめていたのは、銀のブレスレット。
別に特段高いものでもない。
俺の手持ちの金でも、安々と買えてしまうその程度のもの。
それなのに、リレがうろたえていた。
距離感を間違っただろうか。
「気持ちは嬉しいんですけど……その、あの、アレじゃないですか……?」
「――?」
何がアレなのだろう。
嫌がっているようには見えないので、言葉を待つ。
「こ、恋人みたいじゃないですか?」
「――? 俺がリレにブレスレットを贈る行為がってこと?」
こくこくと頷くリレ。
俺は少し考えた後、言った。
「その理論でいくと、俺とリレとイヴァンとロイスはヴァルターの恋人になっちゃうけど」
全員、ヴァルターから残陽石のペンダントを貰っているし、と言葉を続ける。
自分で言っておいてなんだが、両刀遣いの四股って凄いな。生命力に溢れている。
「そ、そういう話じゃなくてですね……!」
ペンダントもブレスレットも同じアクセサリーだし、どう考えても同じ話じゃないか……?
そんな疑問を抱きながらも、話が進まなくなりそうなので、口には出さない。
「プレゼントしてもいいか? リレ」
「……じゃあ……貰っておきます」
店主に購入する意思を伝え、お金を渡す。そうして、銀のブレスレットを手に入れた俺は、リレに手渡した。
「あ――ごめん。サイズ測ってなかったな」
完全に失念していた。
人にこういうものを贈るのが初めてだったのが、裏目に出た。
「いえ、ぴったりだったので大丈夫ですよ――ほら、見てください」
手を軽く振りながら見せてくるリレ。
リレってこういう子どもみたいな仕草もするんだな。少し、意外だった。
「ナギサさん――ありがとうございます。大事にしますね」
「ああ、そうしてくれると俺も嬉しいよ」
リレの嬉しそうな表情を見ていたら、いつの間にか眠気は完全に覚めていた。
§
二日後。
俺とリレは、二人で迷宮に潜っていた。
ヴァルターには、念のためにイヴァンの様子を見てもらっている。
昨日……例の事件から初めてイヴァンに会ったのだが、何事も起こらなかった。それどころか、イヴァンの様子は驚くほどに普通だった。
そして、あの破茶滅茶な言動を俺に向かってしたことを、まるで覚えていなかった。
俺の頭がおかしいのか、と疑うほどにだ。
「――――」
いや、あれは俺の幻覚じゃない。
俺はそこまで壊れていない/完全にぶっ壊れるわけにはいかない。だから、だからこそ、俺はイヴァンを――
「――――」
考え事をしながら、迷宮の深部に向かっていく。今日見つけた魔剣は二本。そのどれもがしょうもない能力だったので、俺たちの士気は下がっていた。
「――ナギサさん」
「ああ、あったな」
通路の先に、魔剣を発見する。
俺たちは早歩きでそこに向かった。
周囲に魔物がいないことを確認し、魔剣を手に取る。そして魔力を流した。
頭の中に、情報が流れ込む。
透過の魔剣。
魔力を流して人を斬りつけることで、相手の体内を透視し、指定した場所を永久的に透明にすることができる。再び斬りつけることで、透明化を解除することも可能。
情報を瞬時に咀嚼した俺は「リレ」と名前を呼んで、言った。
「これ、透過の魔剣だ」




