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減速の冒険者  作者: 加ヶ谷優壮
第二章 〝蒼褪めたる月〟

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第5話 〝夜間透明都市『ムーン・パラソル』〟


「ヴァルター……」


 先日の、ロイスの行方が知れないという話が頭をよぎる。あの話を聞いてから、俺もロイスの行方を探ってみたのだが、何も有力な情報は得られなかった。


「ナギさん、ロイスなら無事に見つかったんだ! 心配をかけて悪かった」


 俺の顔を見て、ヴァルターが口早に先の心配事が解決したことを報告する。


「見つかったのか!? 良かったな」


「ああ、本当に良かったよ。ナギさんも、ロイスのことを探してくれてありがとうな」


「顔馴染みだし、当たり前のことをしたまでだよ。――それで、ヴァルター。時間をくれってのは?」


「ロイスの……別の件でちょっとな。長くなりそうだから、座って話をしたいんだが――」


 ヴァルターの視線がリレに向く。


「ナギさん、そこの彼女とはどういう関係なんだ? 親しそうに、話をしていたのは見たんだが」


「俺の仲間だよ。名前はリレ」


 俺がそう言うと、リレが「はじめまして」とヴァルターに挨拶をする。


「リレ・ネルウェスと申します。あなたは、ヴァルターさん……で合ってますか?」


「合ってるぜ。オレの名前はヴァルター・クラウチ。合縁斬炎っていうパーティーのリーダーをしてる。よろしくな、リレちゃん」


「こちらこそ、よろしくお願いします。ヴァルターさん」


 リレと会話を終えたヴァルターが再び、俺に視線を向ける。


「ナギさんがこんなにも早く仲間をつくるとは……オレの読みは外れたなぁ」


「なんで残念がってるんだ。ヴァルターは俺に仲間をつくらないでほしかったのか?」


「いーや……別にそういうわけじゃないが、ナギさんはどうしてこの娘を仲間にしたんだ?」


「どうしても、なにも……」


 いつものヴァルターらしくない配慮に欠けた質問に少し戸惑う。理由はわからないが、リレのことを好ましく思っていないのだろうか。


「あ、いや、悪い。忘れてくれ。変な質問をして悪かった。ごめんな、リレちゃん」


「大丈夫ですよ、気にしてないです。悪意がないことは最初からわかってましたし」


 ヴァルターの謝罪をリレが受け入れる。

 なんか珍しい場面を見た気がするな。


「それで――ナギさんとリレちゃんに少し話したいことがあるんだ」


「私もですか?」


「ああ、ナギさんとパーティーを組んだ以上、リレちゃんにも関係がある話だからな。酒場で話そう」


 言って、ヴァルターが併設されている酒場のとある一席に目を向ける。そして、ヴァルターを先頭に、俺たちはその席に向けて歩き始めた。その、途中――「ナギサさん」と後ろからリレに袖を引かれる。


「ヴァルターさんとはどういう関係なんですか?」


 小声で聞いてくるリレに、俺も小声で返答する。


「昔の仲間だよ。俺も合縁斬炎に所属してたんだ。三ヶ月くらい……だけど」


 ユアンと共に、一刃の風を立ち上げる前の話である。ヴァルターとイヴァン、そしてロイスは俺の最初の仲間と言えるだろう。


「……モテるんですね、ナギサさんって」


「――ん? 何か話が飛躍してないか? それに俺がモテたことなんて一度もないぞ」


 むしろ、人に嫌われてばかりな気がする。

 まあ、すべて自業自得なのはわかっているが……辛いものは辛い。


 そんなことを考えながら、四人席の一つに腰掛ける。俺の横に、リレ、そして対面にヴァルターが座るカタチだ。


「ロイス……ああっと、オレの仲間の一人がしばらく行方不明だったんだが、つい先日見つかったんだ。そこまでは良かったんだが……」


「何かあったのか?」


「ロイス、石になってたんだよ」


「石って……岩石の方の石ですか?」


 リレが驚いた様子で、聞き返す。

 ……あれ、ちょっと待て。


「ああ、そうだ。どうやらロイスは触れたものを石に変えるイドラを持ってる奴に襲われて、しばらくの間石像にされてたらしい」


「――――」


 間違いない。

 ロイスを襲ったのは、エルヴィスだ。

 あの男……手口が手慣れていたので勘づいていたが、やはり俺たち以外にも被害者がいたのか。


「ナギさん、どうかしたか?」


「……実は、ロイスを石にした犯人に、俺も襲われたことがある」


「え? もしかして、そいつを憲兵に引き渡したのってナギさんなのか?」


「ああ、まあ……俺たちの方が正しいかな。ちょうどその時〝マルコス冒険団〟っていう冒険者パーティーと一緒にいたんだ」


「……流石はナギさんだな」


「ただの偶然だよ。あと、俺はほぼ何もしてない」


 エルヴィスの攻撃を防いだり、カルフの血の臭いに誘われてやってきた魔物を殺したくらいだ。


「――で、さっき言ってたロイスの別の件ってなんなんだ? 石化がまだ解けてないってわけじゃないだろ?」


 ヴァルターも石になっていたと、過去形で言っていたし。


「ああ、石化は無事に解けたんだが、目に後遺症が残っちまった」


「後遺症? マルコス冒険団の奴らも石にされてたが、何も障害は残らなかったぞ」


「恐らくだが、その人たちよりもロイスは石にされていた期間が長かったんだろう。それか、体質の問題か――他人のイドラのことなんで、詳しくはわからないが」


 ヴァルターがさらに言葉を続ける。


「ナギさん、水晶体って知ってるか?」


「目の中にある透明な組織、だよな」


 昔、本で読んだ覚えがある。

 確か、外から入る光を屈折させて、網膜にピントを合わせる役割を持っていたような。


「そう、その組織が石化の影響で白く濁っちまってな……ロイスの視力がかなり落ちた。イヴァンの甚大文字(オリジナルスペル)で視力を底上げしても、焼け石に水だった。今のあいつは日常生活を送るので精一杯な状態だ」


 とてもじゃないが、冒険者を続けるのは無理だろう、とヴァルターが続ける。


 水晶体の白濁による視力低下、か。

 近視や遠視などの光の屈折異常が原因でないのなら、眼鏡で矯正することは不可能だ。

 ロイスの水晶体そのものをどうにかしないと、視力回復は望めないだろう。


「あ……イヴァンってのはオレの仲間で、甚大文字(オリジナルスペル)ってのはそいつのイドラのことだ。能力は度合いの変化。対象に指示文を書くことで、その通りにモノの度合いを変化させることができる」


 ああ、そうか。

 リレはイヴァンのことを知らないんだったな。


市場(いちば)のイドラですね」


 リレの言葉にヴァルターが頷く。

 少し間を置いて、ヴァルターが今回の話の根幹に踏み入った。


「オレは透過の魔剣を手に入れて、ロイスの視力を元に戻したいと考えている」


 魔剣で水晶体を透明に戻す……理には適っているが、


「魔剣を手に入れる当てはあるのか?」


「現地調達をしようと思ってる」


「迷宮に? 透過の魔剣なんて簡単には――」


 見つからない、と言いかけて口を(つぐ)んだ。他の魔剣ならいざ知らず、透過の魔剣なら手に入れやすい場所があるではないか――


「そう、お察しの通り夜間透明都市『ムーン・パラソル』だ」


 夜間透明都市『ムーン・パラソル』。

 ――原初の魔剣の影響で、夜になると生物以外の全てのモノが透明となる都市。


 そして、原初の魔剣とは、魔力を消費せずに能力を行使できる五つの魔剣のことを指す。その魔剣のチカラは凄まじく、生き物は近づくだけでも死に至ると言われている。


「その近くの迷宮に行けば、透過の魔剣は高確率で見つかるだろう」


 確か……原初の魔剣に影響されて、透過の魔剣や硝子(ガラス)の魔眼を持った魔物が生まれやすいんだっけか。


「ナギさん、リレちゃん――頼みがある。オレたちと一緒に夜間透明都市に行って、透過の魔剣を探すのを手伝ってほしい」


 そう言って、ヴァルターが座ったまま頭を下げる。……どうしたものか。以前までだったら間違いなく、手伝うことを了承していたが――


『少し……聞きたいことがあるので、今日からちょうど一週間後の朝方に、ネグラム草原で待ってます』


 身勝手に結んだクシェラさんとの約束が、


『リレ、俺とパーティーを組まないか? もし組んでくれたら、俺はお前の目的を第一にして行動する』


 リレに告げた言葉が、頭の中を駆け巡る。


「……リレ、お前の治癒魔術でどうにかならないか?」


「私が使えるのは、中級の治癒魔術までです。単純な損傷なら問題なく治せますが、白く濁った水晶体を元に戻すのは無理ですね……」


 ダメ元で聞いてみたが、やはりダメか。

 上級の治癒魔術なら、目そのものを作り治すことも可能だろうが――そんな超高等技術を持つ人間に接触するには莫大な金と時間が必要だ。とてもじゃないが、現実的じゃない。


「ヴァルターたちの実力なら、俺たちのチカラを借りるまでもないと思うんだが」


「オレは帯剣(たいけん)都市の出身だからわかるんだ」


 帯剣都市。

 夜間透明都市と同じく、原初の魔剣の影響下にある都市だ。


「原初の魔剣の影響は大きい。オレは初めてここに来た時、魔物が弱くて驚いたよ」


 ヴァルターの言う通り、夜間透明都市の魔物は非常に手強いだろう。だから、ヴァルターが助力を求める行為に出るのはわかる。


 でも、それで俺たちに協力を願い出るのは、あまりにも不自然だ。


 ヴァルターは十中八九、今の俺の実力を知らない。減速(リテヌート)身体強化技(メッゾ・フォルテ)が使える〝今の俺〟に声をかけるなら理解できるが、ヴァルターは事実上役立たずの〝過去の俺〟に声をかけている。


 あいつが俺のことを買い被っていることはわかっているが、自分の方が実力が上であることは流石に理解しているはず。


 それに、初対面のリレに戦力を期待するのも、おかしな話だ。


 頭の中に一つの疑念が生まれる。

 ヴァルターには、何か別の目的があるのではないか――、と。


「ナギサさん、手伝いましょう」


 そう、リレが耳打ちしてくる。


「……本当にごめん、リレ」


 こんなことを言わせてしまって。


「そしてありがとう」


 リレに感謝の言葉を伝えて、俺はヴァルターに向き直った。


「ヴァルター、魔剣探しを手伝うよ。一緒に夜間透明都市に行こう」


「本当か!? ありがとうナギさん、リレちゃん!」


 手を握られながら、思う。

 ヴァルターは良い奴だ。

 何か他に目的があったとしても、俺たちが不利益を被ることにはならないだろう。


 ――そして、クシェラさんとの約束は破ることにした。



 §



 馬車を乗り継ぎ、三週間。

 少し長い旅路の果て、俺たち五人は夜間透明都市『ムーン・パラソル』に到着した。



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