第4話 〝パーティー結成〟
「Sランクじゃないんですね」
「ああ、正真正銘Aランクだよ。逆にリレはなんであいつをSランクだと思ったんだ?」
「風格、ですかね。なんか強そうな感じがしました」
「強そうな感じ、か」
確かにあの男からは、クシェラさんと同じような底知れなさを感じる。アラステアの本当の実力の程はわからないが、他を圧倒する実力者であることは間違いないだろう。
「それでナギサさん、手続きの方は」
「ああっと……」
懐から紙を取り出す。
「この用紙に名前と性別と年齢……その他諸々を記入してほしい」
言って、リレに紙を手渡す。
羽根ペンを手に取ったリレが、自らの情報を次々と書き連ねていく。
「十七歳――俺と同い年なんだな」
「え、その……そうは見えませんでしたか?」
不安そうな表情でこちらを見てくるリレ。
なんだ? 何気なく出た言葉だったんだが、地雷を踏んだか……?
「いや、見える見える。ただ俺と同じなんだなーって思っただけ」
「そうですか……」
心なしか、リレがしょんぼりしているように見える。年齢の話はあまりしない方がいいな。とりあえず、話題を変えよう。
「えっと、俺がリーダーでいいんだよね?」
「いいですよ。言い出しっぺはナギサさんですし……何か問題でもありましたか?」
「問題なんて……」
言葉に詰まったことを疑問に思ったのか、リレが顔を上げて俺を見る。一方、俺の目はリレが用紙に記入した〝とある情報〟に釘付けになっていた。
「び、Bランク冒険者なんですか……リレさん」
「はい、そうですけど……言ってなかったですすか?」
首を縦にぶんぶんと二回振る俺。
その動作を繰り返そうとしたところ、
「そんな大げさな反応しないでください。第一、ナギサさんだって元Bランク冒険者じゃないですか」
リレに少し睨まれる。
「いや、ソロのBランクとパーティーのBランクじゃ全然凄さが違うじゃん」
依頼の遂行において、人数の差はあまりにも大きい。その上、役割分担のできないソロの冒険者には、幅広い能力が求められる。パーティーを組んでいる冒険者と比べると、その苛酷さ、至難さは段違いだろう。
「それはそうですけど……いや! 戦う土俵を間違えました」
「戦う? 土俵?」
「ナギサさんは今最もAランクに近いと言われているBランクパーティー〝一刃の風〟の元メンバーじゃないですか。私より全然凄いです!」
冒険者は実力に応じて、SからFまでの七つのランクに振り分けられる。初心者のFランク、半人前のEランク、一人前のDランク――冒険者の総数の七割強は、この三つの層に属している人間が占めている。
つまり、音や文字としてみると、どこか頼りない印象を抱くCランク冒険者だが、その実かなりの粒揃いなのである。そして、その上のランクであるBランクの凄さは言うまでもないだろう。
また、Sランクという別格を除いた最高位であるAランクは、魔物よりも魔物らしい猛者しか到達することができないと言われている。加えて、一部の宿舎が無料になるなどの特権を得られるのもAランクからである。
「いや……俺は一刃の風に全然貢献できてなかったし」
もっと言えば、俺は一刃の風にとってマイナスの存在でしかなかった。
剣術と魔術……どれをとっても、他のメンバーの下位互換に過ぎない実力。それを自覚していながら、雑務で忙しいことを言い訳にして、努力をすることから逃げていた。本当の、本当に救いようがない。
――そもそもとして。
雑務は元々、各メンバーで分担して行なっていたのだ。その決まり事を覆したのは、紛れもなく――。
「それに……いや、なんでもないです」
恐らく、俺がユアンに勝ったことを口にしようとしたのだろう。リレが直前で踏みとどまってくれて助かった。
どの側面から見ても、あれは公平な戦いとは言えない。第一、ユアンが万全な状態ならば、俺は確実に負けていた。隠し球のMezzo Forteすら、大した役には立たなかっただろう。
「ナギサさん、私が書くべきところはすべて書き終わりました」
「ありがとう、リレ」
そう言って、リレから用紙を受け取る。
近くで見ると、文字の綺麗さがはっきりとわかった。
「パーティー名の箇所だけ空欄でしたけど、まだ決まっていないんですか?」
「ああ……いや、〝背水の刃〟にしようと思ってるんだけど、どうかな」
「背水の刃――ですか。意味も音も悪くないと思います」
「じゃあ、書いちゃっても大丈夫?」
「大丈夫です」
そうして、俺は用紙にパーティー名を書き終えると、リレと一緒に受付の方へと向かった。
§
「まさか、いきなりDランク冒険者になれるとは……」
「良かったですね、ナギサさん」
パーティーのランクは、結成時のみ構成員のランクや過去の経歴が考慮されて決まるようになっている。
恐らく、俺が過去に〝一刃の風〟に所属していたことと、リレのソロランクがBであったことがプラスに働いたのだろう。
「リレのおかげだよ、ありがとう」
「お役に立てたなら嬉しいです」
話しながら、リレと一緒に掲示板へと向かう。
貼られている依頼書を見比べながら、何の依頼を受けようか考えていた――その時。
「ナギさん」
突如、後ろから声をかけられる。
聞き覚えのある声。
そして、俺を〝ナギさん〟と呼ぶ男は一人しかいない。
「お取り込み中のところ悪いんだが、少しオレに時間をくれないか?」
振り向いた俺に、煉瓦色の髪をした男――Cランクパーティー合縁斬炎のリーダーであるヴァルター・クラウチはそう言った。




