第458話 策略×策略×策略
「ポヨー!!」
突然、三人の耳元で聞き慣れない可愛い声が響いた。
すぐ傍で囁かれているとしか思えない程に近くこもった温室に、いつの間にそこまで接近されたんだとばかりに反射的に振り返ろうとするが――
「皆、上よ!」
雷鳥や侵入者との戦いを続けてきた勘と経験が、ポヨポヨの奇襲を看破する。
兵士達の言うとおり、ポヨポヨ達は最初から気配も魔力も完全に消した状態で木の枝や葉っぱに擬態して潜んでおり、草を揺らしていたのはテレレの植物魔法だ。
更にテレレの指示で声だけを音魔法で飛ばし、まるで背後からの奇襲に見せ掛けたのだが、歴戦の飛天族の兵には直前で見破られてしまった。
一般兵とはいえ、それでもポヨポヨより戦闘力は遥かに上。
奇襲が通じなかったとなれば、ポヨポヨに勝ち目は皆無と言っていいだろう。
ただし――
「ポヨ!」
「ポヨヨ!」
「ポッヨッヨー!」
作戦が不意討ちだけならば、の話だ。
木々が密集し過ぎて空さえマトモに見えない状態なのに、その木々に実る葉すら見えなくなる程の大量のポヨポヨ達が一斉に飛天族に襲い掛かる。
その数、なんと三十体。
三人組の丁度十倍に相当する数だ。
「どうやったら、こんなデカイ奴等がアタシ等に気付かれもせず隠れてられるのよ!」
信じられない光景に思わず叫んでしまう兵士であったが、これには理由がある。
そもそもポヨポヨは、擬態能力なんて持っていなかった。
ヴォイス周辺では最強の魔獣と思われていたポヨポヨに天敵なんておらず、逃げ隠れする理由なんてなかったからだ。
だが、隠れる力さえあれば助けられたかもしれない、大事だった者の命があった。
その時の深い後悔が魔族として生まれたばかりで、まだ発展途上だったポヨポヨに擬態能力を覚醒さえ――
二度と同じ間違いを繰り返さないよう、必死で授かった力に磨きを掛け続けてきたのである。
いくら飛天族の兵が歴戦の強者とはいえ、そう簡単に見破れる筈がないのも道理。
「このっ!」
「軟体面白魔族め!」
「せめてもう少し早く気付いてさえいれば!」
もし正面からマトモに戦っていれば、この数のポヨポヨ達でさえ、破れていただろう。
それ程の力が飛天族の兵士達には、確かにあった。
だが、攪乱に奇襲に伏兵。
数々の策略に絡め取られてしまった結果、ついに力を存分に発揮する事も出来ないまま、三人の飛天族の兵は、ポヨポヨ達に押し潰されてしまった。
「ポヨヨー!」
嬉しそうに勝ち鬨を上げるポヨポヨだが、これは何も勝利の喜びだけではない。
むしろ、別の理由の方が大きいだろう。
「くっ、離せ!」
「卑怯よ! 堂々と正面から戦いなさいよ!」
「いやさ、そこは戦なんだし認めようよ。相手がアタシ等より上手だったってさ……」
元気に喚き散らかしているところから解かるように、三人に怪我らしい怪我はなかった。
これは攻撃魔法も使わず、自慢のポヨポヨボディで無理やり押さえ込んだ結果であり、必要以上に傷付ける事無く、三人を取り押さえる事が出来た事が何よりも嬉しかったのだ。
「ポッヨッヨー!」
というのも、ポヨポヨ達は自分達が魔族だと知った時は、ショックだった。
魔族は人間を襲う悪い奴だと聞いていたし、飛天族が退治にしに来ると聞いた時も、仕方ないと受け入れる気さえあり――
自分達を退治しに来た飛天族に、戦っている今でさえ恨みはない。
むしろ、魔族なんだから倒すのが当然だろうという飛天族側の主張こそ、正しいとさえ思っている。
「ポヨポヨ!」
だが、それでもポヨポヨ達は戦う道を選んだ。
自分達の為に、命懸けで戦ってくれると宣言してくれた人達の気持ちが嬉しくて。
もっともっとヴォイス国の人達と一緒に過ごしていたいという想いを、どうしても抑えられなかったのだ。
――だから飛天族には、むしろ申し訳なさすら覚えていた。
「全く、優しいにも程があるわ」
そんなポヨポヨ達の気持ちを全て読み取って、テレレが呆れたように声を上げる。
攻撃部隊とは別のポヨポヨ達に協力してもらって近くに隠れ潜んでいたが、完全に勝敗が付いたと判断し、姿を見せたのだ。
「この子達の優しさに感謝しなさい。これが普通の戦いなら、貴女達、死んでたわよ」
飛天族の兵士達に注意しながら、テレレは得意の植物魔法を駆使して、飛天族の兵士達を縛り上げる。
ただの捕縛ではない。
縛る蔓で特殊な魔法陣を編み込む事により、飛天族の魔法を封じ込めていた。
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