第459話 不機嫌テレレ
「アンタは?」
飛天族の兵の一人が警戒した様子でテレレに目を向ける。
明らかに音魔法とは異なる、別系統の魔法の使い手であり、これ程の術者ともなれば、只者である筈がなく――
ヴォイス国にポヨポヨを誘い入れた黒幕、このポヨポヨ達を操る高位の魔族だと思ったのだ。
「テレレ・ドリュアス。名前だけで飛天族の方に伝わるかしら?」
「ドリュアスの党首!? なんでそんな奴が魔族なんかに協力して――」
だが、その正体は飛天族にすら知られている大国の党首。
あまりにも想定外の大物の登場だが、飛天族は疑う事もせず受け入れる。
それ程までに先程の植物魔法は見事であったし、ここまで何が起きているかも解からない程に振り回され、捕らえられてしまったが――
これが音に聞こえた神算鬼謀の策略家、テレレの手腕だと考えれば納得出来るからだ。
――少なくとも、近くでポヨポヨと愉快な声で鳴いている物体に手玉に取られたと考えるよりは、精神的には遥かにマシだったから。
「魔族なんか。なんか、ねえ……」
兵士の態度に、テレレは露骨に機嫌を悪くした。
侮蔑を隠しもしない目で兵士を眺めながら、言葉を続けていく。
「さっきも言ったけど、本当なら貴女達、さっきの奇襲で死んでるのよ。生かされてるどころか、大きな怪我の一つもしてないのは、この子達の慈悲だって自覚ある?」
「それは、だって――」
どこか不貞腐れたような態度で、飛天族の兵士は目を逸らす。
自分達が負ける想像なんて全くしていなかった上に、人を助ける為に戦ったのに。
どうして自分達がこんな目に遭わないといけないんだと言わんばかりの態度に、更にテレレの眉が釣り上がる。
「自分達は悪い魔族を倒す為に戦った正義の使者だから悪くない? それとも上の命令に従ってるだけだから、自分に責任なんてない? それじゃあ同じような理由で貴女自身の命や大切な人や居場所を奪われても、貴女は文句言わないのね」
「それは、違う話じゃん!」
「何も違わないわよ。勝手にこの子達を悪党だと滅ぼすべき悪だなんて決め付けて、殺す気で攻撃してきた。何とか今回は耐えられたけど、それでも相当に重傷。死んでた可能性も十分あったわ」
さすがは噂に名高き飛天族と言うべきか。
アレだけの策を重ねて攻撃を仕掛けたというのに、押さえ込むまでの間にキッチリと反撃してきており――
三人の攻撃を受けたポヨポヨは、無理をすればこのまま死に兼ねない程に負傷している。
もうこの戦いで戦線に戻る事は出来ないだろう。
「よく攻撃していいのは攻撃されてもいいヤツだみたいな事を言う人が居るけれど、アレは本当は違うの。一方的に攻撃した以上、どんな反撃でもされる覚悟をしておきなさい」
それ程の事をしておきながら、良かれと思ってやったから悪くないなんて、自分を正当化しようとしているから、テレレは怒り――
世間知らずの子どもを諭すように、静かに言葉を叩き付けていく。
「自分にとって都合の良い立場で、相手が戦い続けてくれるなんて思わない事ね」
これは別に戦に限った話ではない。
誰かに攻撃仕様とした時、自分だけが一方的に攻撃出来るとか有利な条件で相手が戦い続けてくれるとは限らない事なんて、地球にだっていくらでもある。
例えば身体を鍛えるのが趣味な上に、格闘技に長けた男が居たとしよう。
その男が殴り掛かって悔しかったらお前も同じように殴り返してみろと言ったって、無視して警察にでも通報するだろう。
それで個人同士の喧嘩なのに通報するなんて卑怯だ、なんて言い出しても大体の人は冷めた目で見る筈だ。
当たり前の話に思えるだろうが、これを理解していない者は存外多い。
先生に言うなんて卑怯だという子ども。
誹謗中傷しておいてプロなんだから罵倒されるのも仕事だろと開き直る者。
他人を傷付けるような事をしておきながら、どうして相手が自分に都合の良い反撃をしてくれるなんて思えるのだろうか。
「まあ、解からなくてもいいかしらね? 生かしておいたら、またこの子達を狙いそうだし」
見逃して戦線復帰されても面倒だし、捕虜にするにしても、想像以上に飛天族は手強く、戦力を見張りになんて割いている余裕はない。
ここで殺してしまうのが、一番手っ取り早いとばかりにテレレは冷たく告げる。
「くあぁっ!」
その途端、兵士達を縛っていた蔓が、まるで生き物のように動いて兵士達を締め上げる。
魔法を封じると言っても正確には魔法制御を乱し、外部に魔法を放てなくなっているだけで魔力による身体強化は健在であり、締め付けられた程度で死にはしないのだが――
あの有名なドリュアスの党首の攻撃という先入観が、兵士達に死の恐怖を与えていく。
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