第456話 不意を突くという事
「そっちこそ解かってんの? あの子達を殺す気なら、ウチ等全員の屍を乗り越えていけって言ってんのよ」
ポヨポヨ達が居なければ、エコーバードに滅ぼされていたヴォイス国。
降伏条件が大恩あるポヨポヨ達の全滅である以上、最初から引く気なんて一切なく、徹底抗戦する覚悟は決まっている。
「大体ねえ、あの子達の事を何も知らない癖に存在自体が悪みたいに喚き散らして、こっちはいい加減、イラついてんの。そっちから売ってきた喧嘩でしょ? ゴタゴタ言わずに、さっさと掛かってきなさいよ」
吠え立てるメロディだが、これは別に感情が高ぶってしまった事だけが理由ではない。
個人の気持ちだけなら、もっと控えめな対応をしていただろう。
だが、既に逃げたい者は逃がしており、この言葉は残った民衆の気持ちの代弁と言ってもいい発言であり、甘い言葉を使えなかった面もあった。
――それはそれとして。
メロディ自身も、アーラの物言いには大分怒りを覚えていた部分もあるのだが。
「聞いたじゃろう、皆の衆! アレがマトモな人間の思考か? 否! どう考えても、魔族から強い精神操作を受けておる事は明白じゃ!」
人類全体に敵対する行為になり兼ねないというのに、あまりにも潔い態度。
自分達が侵略者か何かなんじゃないかと部下達の心に迷いが根付いてしまう前に、アーラは素早く一喝して、士気の低下を防ごうと目論む。
「そ、そうよね。洗脳でもされてないと、あんな熱心に魔族なんて庇わないわよね」
「焦ったあ。何かアタシ等が悪い事でもしてるんじゃないかって気分になったじゃん……」
効果は絶大。
戦いにおいて動揺は、想像以上に影響を及ぼす。
多少の戦力差なんて容易に覆してしまう程に。
だからこそ、戦いにおいては誰も彼もが自分達は正義であると殊更に主張して不安を掻き消そうとするし、死兵と呼ばれる命懸けの兵こそが何よりも恐ろしいと言われるのだ。
もし迷いを抱いたまま戦が始まっていれば、実力の半分も出せなかった可能性があったが、飛天族にとって最悪の事態だけは、アーラの機転で回避する事に成功する。
だが――
「いかん! 散れ!」
動揺が収まりつつあった飛天族の部隊に、反響の山から放たれた攻撃が襲い掛かる。
それは音を使った衝撃波のようなものであり、初歩的な音魔法の攻撃のように見えたが、込められた魔力が桁違い。
掠るだけで鋼鉄であろうと、容易く抉り取る程の威力で放たれた音波攻撃。
「うわっ!」
「ちょっ、何あのヤバイ魔法!?」
さすがに機動力には自信がある飛天族。
辛くも全員避ける事に成功するが、もしアーラが事前に叫んでいなければ、死ぬ事こそなかっただろうが、何人か確実に戦闘不能になっていただろう。
恐ろしい一撃に戦慄するが、その動揺も波を引くように消えていく。
「さすがにアタシ等を迎え撃つんだし、最低限の準備くらいはしてたって訳ね」
「なるほど。警備兵とか全員で力を溜めた上での合体技とか、そーいう感じのヤツ! でも、不意打ちで当てれなかったのは失敗――」
あんな馬鹿げた火力の一撃。
おそらく入念な事前準備の果て、ようやく放つ事が出来る秘密兵器のようなモノだと推測し、切り札とも言うべき攻撃を無傷で凌ぎ切ったと安堵し。
勝利を確信したように笑みさえ浮かべるが――
「よ・け・ん・なー!!」
苛立ちを隠す様子すらない怒声と共に、先程の一撃に匹敵する程の音波攻撃が、次々と山から放たれまくる。
飛天族の兵士達が秘密兵器だと思った攻撃の正体は、ミュジカの声魔法であった。
声を破壊の力に変えるその攻撃は、口を開くだけで自在に放つ事が出来るので連射もし易い上に、膨大な魔力が持つミュジカが使っている以上、魔力切れになる心配も皆無に近い。
おまけに、直撃すれば精鋭揃いの飛天族ですら一撃で戦闘不能になる程の威力を秘めているという、まさに反則的な強さ。
「くあぁっ!」
絶え間なく連射され続けては、機動力自慢の飛天族ですら交わし続けるのは不可能だった。
直撃だけは何とか防いでいるモノの、それでも飛び回る程の力は残っておらず、何名かの兵が山へと落下していく。
「皆の者、降りて木々の中に隠れよ! 空に留まっておっては、良い的じゃ!」
慌ててアーラが部下達に指示を飛ばす。
このままでは誇張抜きでミュジカ一人の攻撃で、部隊が壊滅させられ兼ねない。
あらゆる侵略者を跳ね除けてきたと謳われる伝説の飛天族達と比べても、遥か昔に失われた筈の古代魔法の使い手であるミュジカの力は、飛び抜けていた。
だが――
(ちぃっ! やってくれおる。明らかに狙っておった!)
それでも攻撃は直線的で素直であり、いくら連射されたところで普段のアーラや飛天族の兵なら、難なく対処出来ただろう。
しかし、人類全体を敵に回し兼ねない事をしているのに、あまりに堂々したメロディの態度。
動揺した部下を落ち着かせる事にアーラは神経を集中させなければならなかったし。
兵達も自分達は侵略者ではなく、魔族から人間を救う為に来たんだと気持ちの整理を付けようとしており――
そこに生まれた心の隙間というべき僅かな時を、完璧な精度で突かれた。
――しかも、さっさと掛かって来いと、ヴォイス国側が迎え撃つような発言をしてからの先制攻撃。
幾重にも張り巡らされた罠が、不意打ちを成功させていた。
(これなら最初から奇襲でもしてくれた方が、また対応出来ていたじゃろうに……)
偶然と呼ぶには、あまりに狙い澄ましたタイミング。
おそらく最初の舌戦から含めて、何者かの筋書き通りに全て動かされているとアーラは予想すると同時に、一人の知己の顔が脳裏に浮かぶ。
(テレレめ。相変わらず魔力量の割に、侮れん女よ……)
アーラの予想通り、全てはテレレの企て。
大国と言われる党首達の中では、一番魔力量が低い身でありながら――
最も敵に回してはいけない神算鬼謀の策略家と謳われるテレレの仕掛けが、アーラ率いる飛天族軍を巻き込んでいく。
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