第452話 飛天の若き兵達
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「ここが外の世界ってヤツなのね。うわあ、感激!」
研一がアーラに捕らえられてから、三日の時が流れていた。
戦支度を整えた飛天族の軍勢が、ヴォイス国に向けて空を掛けていく。
だが、これから他国へ侵攻しようというのに、兵の顔に戦いへの緊張の色は全くと言っていいほど見えない。
あるのは雲の国から遠く離れた地に初めて訪れたという、新鮮な驚きくらいであった。
「そりゃあ外に行けるのは嬉しいけどさあ、急に言われても困るよねえ。あたしさあ、これから彼氏と逢引の予定だったんだよ? 久しぶりに会うんだし、どろっどろになるまで楽しもうと思ってたのに」
「彼氏なんていつでも会えるでしょ」
「そうそう。そもそも彼氏が居るだけで満足しときなさいよ。忙しい警備兵なんて、付き合ってくれる男なんて、滅多に居ないんだからさあ」
他の兵達も似たような雰囲気であり、どう見ても戦に向かう者の態度ではない。
だが、こんな態度になるのも仕方ないとも言えた。
「それにしても可哀想な国よねえ。あたし等に狙われるなんてさ」
「下の鈍間な戦いしか知らないだろうしね。禄に準備も出来ず、ボコボコよね」
この余裕な態度の大きな理由こそ、圧倒的な行軍速度だ。
他の人間族ならば、転移陣を使わなかければ軽く見積もっても二か月近く掛かってもおかしくない程の距離であったが、空を飛ぶ飛天族からすれば一日もあれば十分。
おまけに普段から雷鳥との戦いや侵略者に備え、装備の手入れなどは欠かしておらず、ヴォイス国に攻め入るまで、最速なら三日と掛からない。
逆にそんな短時間でヴォイス国が迎撃の準備を整えられるとも思えないし、そもそも飛天族が攻めて来る事さえ知らない筈。
だから駆り出された警備兵達は、雷鳥を仕留めるよりも遥かに楽な、戦いとも言えない蹂躙で終わるとしか思っていなかった。
――研一が既に飛天族の襲撃をヴォイス国に伝えている事なんて、兵達は知らなかったが、仮に知っていたとところで、態度は何一つ変わらなかっただろう。
結局、迎撃の準備を整える時間が少ない事は変わらないし。
何より、自分達が地を這う人間達に負けるわけがない、と心の底から思っているのだから。
「それにしても馬鹿な事したものねえ。そりゃあ少し魔族匿ってるくらいなら、バッちゃんも見逃すだろうけどさあ。何か結構強い奴を二百体くらい囲ってるらしいじゃん?」
「それで他の人間達じゃ倒すのに苦労するだろうからって、ウチラで討伐するんでしょ?」
「ったく。下の人間の不始末なんだから、下の人間共にやらせときゃいいのに。何だかんだ言ってバッちゃん、良い生まれで根が真面目だから放っておけないんだろうね」
愚痴っぽく言っている者も居るが、この戦いに不満がある訳ではない。
別に人間を助けようなんて善意ではない。
人間の領地に魔族の戦力なんて居れば、そこが魔族の前線基地になり兼ねないし、巡り巡って自分達の国に攻め込まれる起点になる可能性も十分あるからだ。
「あたし等も魔族が近くに住んでるってなったら、ぞっとするしね」
「そうそう。アイツ等面倒臭いもんね」
若い者達からすれば、過去の歴史で色々あったらしいが、特に攻めてくる訳でもない人間には大した興味なんてなく。
思い出したように戦いを挑んでくる魔族の方が、よっぽど面倒臭い相手だ。
そんな連中が傍に常駐する可能性を考えれば、さっさと叩き潰しておいた方が精神衛生上、楽というだけの話。
「アイツ等キモいよね。あたし等が強いって噂聴いて襲ってきたと思ったらさあ。倒したと思ったら、自分等を食べろとか言ってくるじゃん」
「そうそう。勘弁してって感じ。自殺したいなら勝手に一人で死んでてほしいよね」
「その辺、人間はマシよね。身の程弁えて襲ってこないし」
「いっそ襲ってきてくれたら面白いかも。人間の男ってどういうのが興味あるのよね」
「えー、趣味わるー。アイツ等って基本的にあたし等より弱いんでしょ? 子ども作ったら魔力弱い子が生まれて苦労するよ?」
「でも種族違いの愛って燃えるじゃん」
「それでバッちゃん色々苦労したって聞いてるだろ? 止めとけって――」
そこまで和やかに話していた飛天族の兵士達が、急に視線を鋭くしたかと思うと、僅かに警戒態勢を取る。
自分達に敵意を向け、接近してくる者の存在に気付いたからだ。
「クケー!!」
飛天族を迎え撃つべく現れたのは、エコーバードであった。
自分達の縄張りとも言うべき空域に侵入してきた飛天族に気付き、反響の山から群れを率いて飛び立ってきたのだ。
「なんだ、こいつ等?」
「あ、私知ってるよ。この辺に住んでる、死の鳥とか空の覇者とか呼ばれてる魔獣」
「死の鳥は置いといて、アタシ等を差し置いて空の覇者は、吹き過ぎにも程があるでしょ」
それ以上進むなら容赦しないとばかりに威嚇するエコーバードを見ても、飛天族の兵士達に恐怖の色はない。
ただ初めて見るエコーバードを、物珍しそうに眺める。
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