第447話 かつて死の山と呼ばれた場所
大学を卒業した研一は身勝手な事件に巻き込まれ、恋人を失ってしまう。
怒りと絶望の果てに自棄酒して死に掛けた研一であったが、そこで現れた異世界の女神から、研一は願いを叶えてもらう事と引き換えに、魔族との戦いに身を投じる事となる。
恋人である鏡谷楓を生き返らせる為、魔族と戦い続けていた研一であったが――
魔族が決して有害な敵対種族だけではないという事。
そして、生き返らせようとしていた楓が、魔族の頂点である魔王として転生し、この世界で元気に過ごしている事を知ってしまう。
この世界に来て世話になった人達を裏切りたくないし、見捨てたくだってない。
けれど、自分が人間側として魔族として戦い続ける理由なんて、あるのだろうか。
迷いに苛まれた研一は、人と魔族。
どちらの陣営とも言い切れない孤立した勢力、飛天族に話を聞きに行く事にしたのだが――
魔族に寝返ったと飛天族の長であるアーラに誤解され、戦う事になってしまう。
単純な力だけならアーラを圧倒していた研一であったが、数百年の時を生きる飛天族の長、片翼のアーラは力だけでなく、謀り事にも優れた戦略家であった。
罠に掛かり大事な仲間であるセンを人質に取られた研一は、なす術もなくアーラの前に敗れ去ってしまう。
囚われ身動きの取れない研一を置き去りに、アーラは部下を連れ戦へと向かう。
アーラの目的は、建国準備中のヴォイス国。
より正確には、ヴォイス国周辺で最強の魔獣と謳われる、ポヨポヨビーストの皆殺しだ。
多くの者達からは魔獣と思われているポヨポヨだが、その正体は人間達の敵対種族である魔族であり、そんな奴等が人間の領地に大量に存在する事なんて危険過ぎると判断したからだ。
あらゆる侵略者を単独で跳ね除け。
救世主である研一さえ手玉に取った空の覇者、飛天族の翼がヴォイス国に迫る。
〇 〇
時は研一がアーラに捕らえられるより少し前の事。
「ポヨー!!」
「ポッヨッヨー!!」
ヴォイス国にある山の中で最大の大きさを誇る、反響の山。
その山道で、デフォルメされた動物の顔みたいな手足もない丸っこくて柔らかそうな生物、ポヨポヨビースト達が嬉しそうな声を響かせながら走り回っていた。
「ふふーん、俺のポヨスケが一番速いな!」
「いいや、俺のポヨゾーの方が速いね!」
いくつかのポヨポヨの頭の上には少年が乗っており、どうやらポヨポヨ達を使って競争をしているようだ。
結構な速度が出ており、一見すると相当に危険に見えるのだが、この見た目からは想像出来ないくらい、ポヨポヨ達は非常に賢い上に――
大の子ども好きだ。
危険な遊びなんかに参加させる訳がない。
その柔らかボディを巧みに操作して、しっかりと子どもは固定されている上に、やはり柔らかボディが振動を吸収しているので、どれだけ激しく動いても子ども達が振り落とされる事もなければ、衝撃さえ感じさせない快適な乗り心地を与えていた。
「クケー」
楽しそうに山道を走るポヨポヨ達の上空を、エコーバードと呼ばれる鳥の魔獣が飛ぶ。
群れが出てくれば軍隊級の戦力でもなければ太刀打ち出来ない程の強さを持ち合わせている上に、人を好んで喰らう事で知られている魔獣だ。
もしこの光景をエコーバードを知る者が見ていれば、子ども達がエコーバードに襲われ、食べられてしまう光景を想像したかもしれない。
だが――
「クケケッ!」
エコーバードは子ども達に見向きもせず、大きな木の上に生えている果物を美味しそうに食べていた。
人を好んで食べると思われているエコーバードだが、実は食糧として見た場合、人はあまり好きではない。
では、どうして人食いの印象を多くの者が抱いていたのか。
それはヴォイス国の地域事情にある。
最近までヴォイス国周辺の地域は、誰も見向きもしない不毛の地として知られており、生えている植物はパサパサで味も栄養も乏しく、そんな植物を食べて育った動物や魔獣も同じように栄養も味も乏しい。
そうなると、自分達で農作物を育てて少しはマシな食生活をしている人間の方が、まだ味も栄養もマシだったというだけの事。
だが、今の反響の山は違う。
かつては禿げ山のような状態だったが、とある者達が大きく手を加えた影響で、今は緑が生い茂る資源豊かな山に変わりつつあり――
美味しく栄養のある食べ物がいくらでもある状態なのだ。
これだけでもエコーバードしては、わざわざ人を食べる理由なんてないし。
「ポヨー……」
ポヨポヨ達が警戒してますとばかりに低い声を出し、油断なくエコーバードを見詰めているのだ。
返り討ちにされた記憶に新しいエコーバードとしては、別に大して好きでもない食糧を獲る為に、天敵に喧嘩を売ろうとも思えない。
「ポヨー……」
だが、エコーバードの事情なんてポヨポヨは知る由もなく。
過去に人間を食べたり子どもを殺した前科がある以上、ポヨポヨ達が油断なんてする訳がなかった。
子ども達を乗せてないポヨポヨ達が、競争しているポヨポヨ達を守るように取り囲み、変な動きをすればいつでも攻撃してやるとばかりに、エコーバードを睨み付ける。
「クケ!」
これでは、エコーバードも落ち着いて食事が出来ない。
かと言って下手に追い払おうとして、子ども達を襲おうとしたなんて勘違いされてポヨポヨ達の怒りを買うなんて真っ平ごめん。
それならばと警戒を解いてくれとばかりに、木に生えていた果物をポヨポヨ達に向かって投げ付けた。
「ポヨポヨ」
それでポヨポヨ達は、威嚇するように声を出す事だけは止めた。
監視の目だけは緩めず、けれどエコーバードに争う気がないのなら、自分達だって争いたくないとばかりに、戦闘態勢を解いていく。
「クケー」
エコーバードが喜びの声を上げ、嬉しそうに果物を食べる事を再開する。
戦う力もない子ども、自分達が魔族である事さえ知らないポヨポヨ、人食いで知られていた凶悪な魔獣であるエコーバード。
おおよそ相容れる事なんてない種族が入り乱れているのに、 そこにはある種の平和が、確かに存在していた。
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