第445話 勝負の基本は事前準備と下調べ
「今じゃ! 全員でそっちのオナゴを捕らえい!」
ほとんど無敵と表現しても過言でもなかった、切り札の一つである魔力無効化が破られた事で起きた動揺。
逆にアーラは最初から魔力無効化を破る事を前提に動いていた。
その大き過ぎる差が、勝負の明暗を分けてしまった。
「はい!」
「待ってました!」
魔法が封じられている状態で、あんな見事なタイミングで音や蜃気楼が出てくるように魔具を操作する事なんて、出来る訳がない。
全ての攪乱攻撃は、隠れ潜んでいた隠密部隊達の手によるものであり――
アーラの指示に従い姿を現した隠密部隊が、手にした捕縛用の魔具を使い、一斉にセン達へと襲い掛かった。
「え?」
「む、待て、お前等! これは尋常な一対一の――」
「いやあ、申し訳ないですね、棟梁。長からの命令なんで……」
生真面目なプロケラが、難色を示す事さえ最初から折込済みだったのだろう。
隠密部隊は迷う事無くプロケラ諸共、センを縄のような魔具でグルグル巻きにしたかと思うと、念話系の魔力を封じる魔具を括り付けていく。
「センちゃ――」
「動くな! 少しでも怪しい動きを見せれば、あのオナゴの命はないと思え!」
助けに行こうにも、未だ蜃気楼を駆使した攪乱は続いており、周囲には隠密部隊に捕らわれたセンとプロケラの映像だらけ。
本物の位置さえ解かれば、この状態からでも一瞬で助け出せたかもしれないが、さすがに当てずっぽうで飛び出す訳にもいかないし。
センを見捨てて戦ったり逃げるなんて選択肢、研一にある訳もない。
まさに詰みの状態であった。
「お主は強い、いや、強過ぎると言っていいじゃろう。悪いがこれ以外に儂に勝機なんてなかったのでな」
決着は付いたと確信し、アーラが一仕事終えたとばかりに息を吐く。
全て策略通りに進んだとはいえ、薄氷の勝利だった。
本当に魔力無効化の力が魔具に通用しないかは賭けに近かったし、それとは別に攪乱を見破る術を持っていないかも解からない。
最善はアーラ自身の力で勝つ事であり、一か八かのギャンブルに頼らないといけなかった時点で、敗北に近いとさえ言っていいだろう。
「強過ぎる者の驕りじゃな。それ程の力があれば、罠も策略も全て粉砕出来ると思ったのじゃろうが、さすがに儂を舐め過ぎたの」
けれど、これは戦士として力の試し合いでも、命や誇りを賭けた決闘でもない。
罠に伏兵に騙し討ち、何でもありの最後に立っていた者だけが笑う事を許される戦だ。
そういう意味ではアーラの言うとおり、救世主の力があれば何とかなると思っていた研一が甘過ぎただけの事。
「話を聞いて――」
「別にお主の話を信じとらん訳じゃないさ。お主が実は間抜けで、全てが偶然だったという可能性も否定はせんよ」
誤解さえ解ければ全て丸く収まると言わんばかりの研一の希望を打ち砕くように。
アーラは研一の耳元に顔を近付け、研一にだけ聞こえるように告げる。
「百万歩譲ってお主の言葉が全て真実じゃったとして。それでも魔族の軍勢が大量に人間の領地内に居る事になるだけじゃ。それを見逃してやる事は出来んさね」
「なっ――」
「最初から儂の狙いは、お主をここに釘付けにする事よ。お主のような強者が戦場に居れば、どれだけ兵に犠牲が出るか解からんからの。あのオナゴの命が惜しくば、暫く大人しくしておれ」
事実がどうであれ、アーラのやる事は変わらない。
黙って放置しておくには、あまりにもポヨポヨは魔力が高く強過ぎる。
これ以上増える前に始末する事は確定路線であり、最大の障害になるであろう研一を動けなくする事こそが、今回の戦いの目的なのだから。
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