第444話 完全無欠の力なんてない
(やっぱり当初の予定通り、殴り倒して大人しくさせてから、じっくり話し合うしかない!)
これ以上会話を続けたところで、事態が好転する事はないだろう。
研一は魔力を最大限に高め、手加減無しでアーラを仕留める事を決意する。
(こういう時、救世主の力って便利だよな……)
魔族を倒す為に与えられた救世主の力は、魔獣や魔族といった魔に連なる者には絶大な破壊力を見せるが――
人間相手ならば、その殺傷力は激減する。
例えば城を吹っ飛ばし、並みの魔族なら一撃で消し飛ばすほどの魔力で攻撃しても、人間なら激痛で気絶する程度で済む。
アーラほどの強さの持ち主なら、どれだけ研一が全力で魔力を込めて殴ったところで、汚させる事すらないだろう。
魔力を込めた拳を振り被った瞬間だった。
「おやおや、いいのかのう? その位置で、そんな凄まじい力を振り抜いてしまって?」
アーラが不敵に笑いながら、自らの背後に僅かに目を向ける。
そこにはプロケラと死闘を繰り広げているセンの姿があり、まるで綺麗に量ったようにアーラと直線状に並んでいた。
「何でセンちゃんがそこに!?」
振り抜こうとしていた拳を、慌てて研一は止めた。
先程も言ったように救世主の力は人間には殺傷力が極端に低下する代わりに、魔に連なる者には絶大な破壊力を発揮する。
だからこそ、人間と魔族の混血であるセンだけは、絶対に巻き込まないように、どれだけ興味深い話が出てきても、センの位置だけは確認していた。
そして、絶対に巻き込まないように角度を調整した上で攻撃を放とうとしたのに。
明らかに異常な事態であった。
「蜃気楼という現象を知っておるかのう? アレには大気も大きく影響しておってな。風を操る我等には、この程度、造作もない事」
砂漠などの温度が高い場所では、大気の温度の差により光が屈折する事で、景色が歪んで見えたり、遠くの物が近くに見えたりする事がある。
それをアーラは魔法で再現する事で、セン達の位置を誤魔化し続けていたのを、今になって解除したという事だろう。
「けど、音は別の方向から聞こえて――」
「ふふ、音も大気を通して耳に届くからのう。音の聞こえる方向を弄るなぞ、光を捻じ曲げて像を結ぶより遥かに簡単じゃよ」
更にアーラが巧みなのは、景色と音の位置をズラしている事だ。
これでは目と耳、どちらを信用すればいいか解からない。
どちらも嘘で本当は全然違う場所で戦っている可能性だってあるし、このままでは、いつセンを自分の攻撃に巻き込んでしまうか解からない。
「そんな簡単に種明かしするなんて、油断し過ぎですよ!」
だが、あくまで今の状態で戦えばの話だ。
迂闊としか思えないくらい簡単に仕掛けを説明したアーラに怒鳴り付けると同時に、研一は周囲一帯に魔力無効化の力を放つ。
これが魔法である以上、魔法無効化の力を放てば掻き消える筈だし。
隠密部隊との戦いの時に気付いたが、飛天族は身体能力は決して高いとは言えない。
範囲内に居るセンとプロケラの魔法が封じられたとしても、センの方が有利になる筈だと踏んだからだ。
だが――
「そんな! 何で消えてくれない!?」
まるで研一を嘲笑うように、周囲一帯にセンとプロケラの戦いが複数映し出される。
おまけに戦闘音だって反響でもしているかのように、あちこちから聞こえてきた。
これでは、遠くに居るのか近くに居るのかさえ解からない。
「くくく。お主のその力は、先程じっくりと見せてもらったからのう。卑怯と思うくらい反則的な力じゃが、その技は魔具から放たれる魔法は、無効化出来ておらんかった。魔具の力で固めてある雲だって、バラバラになったりしておらんしの」
(言われてみれば確かにそうだ!)
これは研一自身、知らなかった仕様だ。
身体強化とか身体の内側に作用する魔力には効果がない事は知っており、だから魔具も剣とかナイフとか、魔具自身を強化するような魔法の解除は出来ないが――
放たれた魔法は無効化出来るモノだと思い込んでいた。
だが、確かに魔法無効化の力が何にでも働くのなら、この国ならば、魔法無効化の力が働いた地上部分は、全て魔法で固めた雲なのだから、元の雲に戻っていないとおかしい。
そして――
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