第443話 愚か者を気取るには、遅過ぎて
「…………」
暫くアーラが何を言っているか解からず、研一の頭が真っ白になる。
ポヨポヨ達がサキュバスの番い候補。
想像すらしていない言葉に理解が追い付かない研一を彼方に置きさったまま、心の底から感心したようにアーラは語り続けていく。
「いやいや、さすが異界の者。その発想は、なかったわ。どうしても我等は魔族と言えば、高い魔力と知能を持った人型の存在だと思ってしまうからのう」
研一だってアーラの言うように、魔族とは人型だと思っている。
だから何を言われているか解からず、ただ戸惑いの中、話を聞き続けるしかない。
「我等人間や魔獣のような生物と違い、魔族は形こそ我等生物に似ているが、本質は魔力の塊。むしろ本来なら完全な異種族である人間より、同じ魔族同士の方が交配も遥かに、し易かろう」
(あ、ああ。そうか。そういう事か!)
そして、今のアーラの言葉でようやく研一の理解が追い付いた。
この世界で俗に言う魔族と呼ばれる存在は、魔力が強い生物の事を指している訳ではない。
大体が強い魔力を持つ人間以外の知的生命体の事を指しているのだが、それでは獣人や飛天族がどうして人間扱いされているのかという話になってくる。
そもそも、見た目や知力なんて本当は関係ないのだ。
(確か魔族は全身が魔力の塊で出来ていて、魔力が尽きると塵になって消滅して死体も残らず消えていく。肉とか骨で構成されている生物じゃないんだ……)
魔族とは。
濃い魔力が溜まる場所等で、魔力が形を持って集まる事で生まれてくる存在の事であり、親などから生まれる人間を含める通常の生物とは、構造自体が根本的に異なる者達なのだ。
そこに知力や魔力の大きさなんて、本来関係ない。
血や肉を持って生まれてきた生物なのか。
それとも魔力溜まりの中から、発生した存在なのか。
両者を分けるのは、本当はその部分だけだ。
(え、でも何でアイツ等。死んでも身体残るんだ!?)
ここで研一やテレレでさえ、ポヨポヨ達を魔獣と判断してしまった理由が、ポヨポヨ達は死んでも塵にならずに死体が残る事だが――
魔族達も本気で自分が認めた相手に倒された場合、自分の力を受け継いでほしいと暫く身体が残ったり、素材を残したりする事がある。
ポヨポヨ達は食べられる為に生まれてきた魔族なので、魔族にしては非常に珍しく、確実に死体が残るのだ。
――もし暫く食べずに死体を放っておくような事があれば、塵となって消えていく魔族特有の消滅反応を見る事が出来たかもしれないが。
自分の存在意義の九割くらいを誰かに食べてもらう事に注ぎ込んでいるような存在なので、半年くらいは塵にならないだろう。
「これだけの恩を売った上で番いを手に入れて力まで充実してくれば、夢魔達も喜んでお主に協力するじゃろうな。さすがに力を得た夢魔達を放っておく事は出来ん」
「いやいや、ちょっと待って下さい! 全部偶然で! そんな事考えてませんって!」
研一としては、本当に寝耳に水の事ばかりで。
さすがに落ち着いて最初からじっくり話をしようとばかりに、アーラの推測の全てを否定しようとするが、納得してもらえる訳がない。
「はっ。謙遜せんでもいい。この国に入って僅かな時間。たったアレだけの情報で儂の謀り事の全てを見抜く頭がある事は知っとる。そのくらいの権謀術数を張り巡らせる頭がある事くらい、儂だって解かるさね」
何故なら、研一がアーラの企てを見破っただけでなく、理路整然と説明する場面を見せてしまっているのだ。
あんな賢しい姿を見せられて、そこまで先の事とか全然考えてなくて――
救援求められれば距離も関係なく助けに行き、何か仲間に出来そうな強そうな人材が居ると聞けば、とりあえず情報も集めず会いに行く。
そんな行き当たりばったりの行動しかしてないんです、なんて伝えたところで、誰が信じてくれるだろうか。
「単に俺の世界で戦記物ってのが一時期流行ってて、あの手の印象操作で民衆を操る作戦とか知ってて似てるなって思っただけなんですよ!」
とはいえ、納得してもらえないからって諦めて放置する訳にもいかない。
研一は必死で自分は頭も良くなければ専門知識だってない、ただ娯楽で得た知識をそれっぽく語ってただけの痛い人間でしかないと伝えようとするが――
「ほうほう。今代の救世主様は、こちらの世界に来る前から軍事に関わる者であったか。センキモノ、という響きから想像するに過去の戦争の記録などを記した書物や資料辺りかのう」
それは更に誤解を強めただけ。
アーラの中で研一は、この世界に来る前から専門的な軍事知識を学び、兵を導き統率する側としての教育を受けていた者と再定義されてしまう。
「違いますって! 戦記物っていうのは、戦争とかを題材にした娯楽物で――」
「馬鹿言うでないわ。子供向けの絵巻物に、そこまで細かく作戦内容等を記す訳がなかろう。敵が出てきて気持ち良く倒すくらいじゃろうが」
「そうじゃなくて、もっと対象年齢が上の娯楽物で――」
「何をたわけた事を言うておるか。軍事にも関わらん民間人に、そんな本格的な作戦や政治に関わる物を流す世界が、どこにあるんじゃ」
研一とアーラが想像している以上に、遥かに二つの世界の意識差は大きい。
そこの擦り合わせが出来ていないのに、話し合いを成立させようというのが、土台無理な話であった。
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