第440話 ここで出てくるアイツ等
「むしろ儂にはお主の方が理解出来んわ! 何故、あんな何をするか解からん者共達と協力しようとする!」
確かに研一も似たような事を過去に思っていた。
常識は価値観があまりにも違い過ぎて、人間と魔族は相容れる事なんて出来ない、と。
だが――
「確かに俺も昔は魔族は全部倒さないと駄目だと思っていた。けど、人間にも良い奴と悪い奴が居るように、魔族にだって、ちゃんと解かり合える奴等が居る!」
サキュバスのように、ただ愛する者と傍に居たいだけの穏やかな魔族も居ると知ってしまったし。
あんな非力な種族を人間がずっと虐げてきた事も知ってしまった。
だからこそ自分はどうあるべきか迷い、人間嫌いであろう飛天族の元にやってきたのだ。
「解かり合える、じゃと? お主、本気で言っておるのか?」
「ああ、本気だ」
そして、魔族を全力で否定してくるアーラの姿を見て、気付いてしまった。
研一の心は、とっくの昔に決まっていたのだ。
人間や魔族なんていう、種族は関係ない。
良い奴なら魔族であろうと仲良くしていきたいし、悪い奴は人間なんて関係なく、ぶちのめす。
(そうだよ。今までだって、そうしてきたじゃないか……)
振り返れば研一の行動は終始、一貫している。
サキュバスを奴隷にしていた人間をぶちのめし、人間と魔族の混血である魔人を助けたり。
自分達の意志で獣人を差別していた癖に、党首に全てを押し付けていた者達は、非力で戦闘力の欠片もない民間人であろうと、容赦なく全員殴り倒してきた。
「人間とか魔族なんて、俺からすれば知ったこっちゃないんですよ。助けたい奴は何であっても助けるし、ムカつく奴は人間だろうと容赦しない。それだけです」
種族の違いなんていう、小利口な分別なんて最初から研一は持ち合わせていない。
人間の醜悪さを見たり聞いたり。
倒すべき最大の敵だと思っていた魔王が恋人だったせいで、混乱していだけ。
「魔族の事を知ろうともせず、全部一緒くたに理解出来ない相手だなんて決め付けて排除しようとするなら、アーラさん。俺は貴女と敵対する」
守りたい者を守る。
それを邪魔する相手なら、それが何であろうと戦う。
ようやく自覚する事が出来た願いと覚悟を、研一は口にする。
「じゃから、魔族共を国に受け容れた、と?」
(サキュバス達の事だな……)
研一が国の中に招き入れた魔族達なんて、サキュバスしか心当たりがない。
どうやらアーラが告げていた魔族と通じているという話は、魔王である楓との関係ではなく、サキュバスの件だったのだと研一は予想して無言で頷いた。
「馬鹿な! アヤツ等が魔族陣営に協力すれば、人間側は内からも外からも掻き回される! 敵対種族を受け入れるという事が、どれだけ危険か。お主には解からぬというのか!」
アーラが戸惑いを隠せず、信じられないと言いたげな目で研一を見る。
それは全財産を分が悪い賭けに捧げようとしている愚か者を見るような視線であった。
それもその筈。
てっきり研一が人間に見切りを付け、魔族側と通じ、人間陣営を滅ぼす為に魔族を国の中へと招き入れたと思っていたのに。
蓋を開けてみれば、そこには何の策略もなかったのだから。
「確かに魔族に協力されれば、相当に大変な事になるでしょうね。けど、大丈夫ですよ」
「馬鹿な! 何を根拠にそのような事が言える!」
遠くに情報を飛ばせるサキュバスの力は、インターネットどころか電話すらもない世界では、脅威以外に表現出来ない程の優秀な力だ。
だが、サキュバス達の力は弱く、遠くに情報を届けるのも命懸け。
「自分達を保護してくれてる人間を裏切ってまで、そこまでする理由は、ありませんから」
それこそ前回のように余程の恩や事情がなければ魔族に情報を流す可能性は薄い。
今はそれよりも、絶滅を逃れる為の番い探しの方が、遥かに忙しいのだから。
「保護、じゃと! アヤツ等にそんなものが必要な訳ないじゃろう!」
けれど、アーラは真っ向から研一の言葉を否定する。
血迷った事を言っているようにしか聞こえなかったからだ。
「それは貴様のように絶大な力を持つ者から見れば、頼りなく非力に見えるかもしれんが、アヤツ等は相当な化け物じゃぞ!」
「それこそアーラさんが、魔族を必要以上に恐れ過ぎているだけですよ」
本当にサキュバス達にそんな凄い力があるなら、ずっと奴隷になる事に怯え、隠れ住む事もなかっただろうし。
絶滅一歩手前に追い詰められる前に、自分達の力で道を切り拓いていけただろう。
「愛らしい見た目に騙されているだけじゃ! 目を覚ませ!」
「騙されてって――」
「大体じゃな! どうしてそこまで信用出来る! あんな話も通じない奴等じゃぞ! 魔法か何かで洗脳でもされおったか!?」
「それはさすがに失礼過ぎるでしょう。ちゃんと話し合えば、いくらでも解かり合える相手ですよ」
これではまるで、サキュバス達が会話もマトモに出来ない魔獣か何かのようなアーラの物言いに、いくら研一でも怒りを隠せなかった。
だが――
「話し合い? はっ、話し合いとな? 言葉も通じないのにどうやってじゃ?」
「は?」
アーラの言葉に、僅かに覚えていた違和感が加速していく。
(待って。そういえばアーラさん、さっき愛らしいって言ってたよな?)
確かにサキュバスは優れた容姿を持っているが、愛らしいというよりは綺麗とか美しいという表現の方が似合うし。
(このアーラさんがあの放っておけば絶滅しそうなサキュバス達の力を、本当に恐れるか?)
会話を続けながらも戦いは続いており。
研一は全力で倒そうとはしていないものの、取り押さえてゆっくり話そうと、それなりに本気で戦っているが、アーラは凌ぎ続けている。
こんな女傑が、か弱いサキュバス達を化け物なんて表現するだろうか?
「それとも何じゃ? お主、あのポヨポヨ喚いている言葉が解かるとでも言うつもりか?」
答えは否。
そもそもアーラが話している研一が国に招き入れた化け物と呼んでいる魔族とは、サキュバスの事ではない。
人間大好きで、人間に食べられる事を何よりも喜びとする謎の生物。
ポヨポヨビーストの事なのだから。
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