第435話 片翼のお姫様
「あー、もう! やめじゃやめじゃ!」
そこでアーラは、もう真面目に知恵比べする雰囲気じゃなくなってしまったとばかりに頭を掻き毟ったかと思うと――
気さくな態度の割には意外と綺麗だった姿勢を崩して、楽な態勢を取った。
「こういう腹の探り合いは性に合わん! ほれ、聞きたい事や疑問があるなら、さっさと訊くがいい。答えてやれる事には答えてやる」
「そうですね……」
(何と言うか、黒幕らしくない黒幕だなあ……)
国の統治者であり悪巧みの大元でありながら、どうもアーラ本にはは謀り事とか面倒な事は、本当に好きではないらしい。
乱暴そうな態度とは裏腹に貞操観念の高さや、ふと見える所作の綺麗さから考えると、案外育ちは相当に良いのかもしれない。
「それじゃあ死んだ筈の六番隊は、今はどこで暮らして何をしているんです?」
アーラの性格を見極める事も今後の事を考えると重要ではあるが、とりあえず最優先は、情報を集める事だ。
まだ不透明な部分を詰めていく。
「アヤツ等の拠点なら下の山じゃよ。それで普段の仕事は山の者達の警護。そして、各地の偵察じゃな。隠密として動かす事なぞ、滅多にないからのう」
「山の者達に嫌がらせしていた本人でしょう? それなのに警護させてるんですか?」
「アヤツ等が一番、山の連中の凄さを身に染みて知っておるからな」
「けど――」
最初から相手に何の非もないのに嫌がらせをしていた者達だ。
それが山の者達の整備不良で事故を起こし、表舞台から姿を消して裏で生きていく羽目になったのだ。
恨みや憎しみを抱いていないとは、とても研一には思えない。
「安心せい。最初こそ確かに不満を抱いていたが、もうアヤツ等に山の者達への敵意は消え取るよ。アヤツ等の根底にあったのは閉塞感。代わり映えのしない日々の繰り返しで溜まっていた不安のぶつけ先を探していたに過ぎん」
研一の推測通り。
最初は六番隊達の者達は、不平や不満だらけであった。
だが、雷鳥や侵入者が現れるまで待つ日々と違い、他国の情報収集の為に世界中を飛び回る生活は、在り来たりの日々を繰り返しに鬱憤を溜め込んでいた者達に取っては、非常に刺激的で充実したものであり――
「それにこの総司令であるプロケラさえも知らない事実を自分達だけが知っており、裏で国を支えているというのは、中々に心躍るものがあるからのう」
同時に、独特の優越感が生まれていた。
自分達じゃ手も足も出ない程の強者であると同時に、遥かに上の立場であるプロケラさえ任されない仕事を自分達が請け負っている。
それが想像以上の満足感を、六番隊に与えていたのだ。
「後は自分達が山の者達に要らんちょっかいを掛けたから、こうなったと最後まで理解出来ん甘ったれの翼を、他の連中の目の前で、もいでやったからのう。文句があるならどこに居ても同じ目に遭わせてやろうと言ったら、随分と大人しくなったもんじゃよ」
とはいえ、始まりから終わりまで何事もなく綺麗に上手く回ってくれるようなら、アーラだって不本意な裏工作をするような苦労もない。
時には凄惨な暴力と恐怖さえ駆使して、従わせる必要もある。
「おそらく隠密部隊との戦いを見るに、お主は気付いておるのだろう? 我等の翼は空を駆ける為にあらず。大気中の魔力を掻き集め、貯蓄する我等飛天族の強さの源。力と誇り。それを奪われる事は、ある意味では死すらも超える苦しみの日々の始まりなのじゃ」
「っ――」
きっとそれを残酷と思う者も居るだろう。
事実、力を奪われて飛べなくなった自分を想像して、プロケラは苦痛に顔を歪めるが――
(そこまでされる前に反省すればいいのに……)
研一は自業自得としか思わなかった。
むしろ、隠れてまで助けて役目まで与えようとしたのに、翼をもぐ事しか出来なかったアーラの方に同情する。
「貴女も何か問題を起こして、翼を奪われる事になったのか?」
そのままアーラに目を向けてしまった研一は、どうにも疑問に抗え切れず、ただ感情の赴くままにその言葉を口にする。
大きく立派で真っ白くて綺麗なのに。
それでも翼が片側しかない事の理由を訊ねる言葉を。
「これか? これは人間に奪われたのじゃ」
「…………」
だが、研一は訊ねるべきではなかったと後悔する、
それは研一が知りたかった人間と飛天族という全体の歴史ではなく、ただアーラの心の傷を抉る事にしかならなかったから。
「こう見えて昔の儂は立派な家に生まれて城から出る事も許されない、世間知らずなお姫様でのう。ある日、退屈な日々に耐えられず城を抜け出し、地上に逃げ出した事があったのじゃが、そこで出会った人間に優しくされ、恋に落ちてしまってのう」
まるで何でもない事のように語るアーラの姿に、逆に研一の心が痛む。
自分から聞いておいてそんな資格なんてないだろうに。
それでも、話の流れから結末が容易に想像出来てしまうだけに、どうしても自分の顔が苦痛に歪むのを抑えられなかった。
果たして。
「それで一夜を共にして、初めての行為に疲れ果て眠った儂を待っていたのは、飛び起きる程の激痛と、愛した筈の男が儂の翼を剥ぎ取る姿じゃったという訳じゃ」
大体、想像して居た通りの続きが語られた。
籠の中で大事に育てられたお姫様が悪い男に騙されるという、あまりにも有り触れた掃いて捨てる程に転がっている物語。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
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