第433話 内輪揉めの方がマシ
「じゃが、お主が知りたいのは黒幕が誰なのかでなく、この謀り事の目的じゃろう?」
プロケラのようにこの国で暮らし、重要な立場に就いている者なら誰が裏で糸を引いているかは、大きな問題になるのだろうが――
この国に来たばかりの研一からすれば、誰が相手だろうと関係ない。
「そうですね。襲撃者達が出てきた時点で大物が関わっている事は確定していたので、後は知りたいのは理由だけです」
「言い寄る。ただの子どもの喧嘩染みた出来事に襲撃者なんて出てきた時点で、ヤバイと思って普通は引くもんじゃぞ?」
「まあ、さすがに普通を名乗っていい立場の者でもないので」
アーラの言うように。
子どもの嫌がらせの話に軍が対処する次元の部隊が出てきた時点で、常識的に考えれば引くのが当たり前だろうが――
そこは至らない部分が多くても救世主。
こんな脅し程度でどうこうなるなんて弱みを見せたら、付け込まれてしまうだけ。
むしろ、こ襲撃者達じゃ何の枷にもならないと相手に力を見せ付ける事こそ、力持つ立場として正しい在り方だろう。
「かかか。確かにそうじゃな」
この研一の返答は、アーラも大層お気に召したらしく。
力持つ者は優しさと甘さを勘違いしてはいけない、という事を最低限は理解しているようで何よりだとばかりに嬉しそうに笑う。
「と、イカンイカン。若者との会話も楽しいが、はぐらかして時間稼ぎをしていると思われて、お強い救世主様の怒りを買う訳にもいかんからな。儂の計略に付いて話していかねばなるまい」
本当に話すのが楽しかっただけで騙し合いや腹の探り合いをする気はない、とアーラは言い訳のように告げつつ。
本題である、子どもに差別意識を植え付けようとした理由について話していく。
「お主の推測は途中から直接聞いておったが、中々良い線いっておったよ。そうじゃな。足して二で割る発想があったなら、概ね正解じゃったと言っていい」
「……どういう事です?」
あの話をしていた時に既にアーラが傍に潜んでいたか、話を聞いていた。
その事に僅かに驚きつつ、出来るだけ表情に出さないように努めて、研一は問い返す。
「お主の推測は、こうじゃったな。内輪揉めでの弱体化狙いか。儂のような上の立場の者が自分達に目線がいかない為に、羽の無い者達を囮にしている、と」
「はい、その認識で合っていますけど――」
(国を弱体化させつつ自分達から視線を逸らす? 何だ、国外逃亡でもしようってのか? いや、それなら足しただけだよな?)
その二つの内容を足して二で割るという事が、どうしても研一には想像出来ない。
どう頑張っても混ざるようには、思えなくて。
「なに、聞いてみれば簡単な話じゃよ。儂が目を逸らしたかったのは、人間や魔族達の方じゃからな」
「人間や魔族?」
「そうじゃ。儂ら飛天族は身内贔屓無しに考えても、相当に優秀な種族じゃ。恵まれた魔力に戦いにも情報戦にも向いた魔法を持っておる。おまけに魔武具を作れる条件まで揃っておる」
それは他者の侵略を跳ね除け続けてきた歴史が証明しておるじゃろう。
なんて付け加えられた言葉に、研一も異論はないとばかりに頷いて、話の続きを促す。
「じゃがな。だからと言って人間や魔族相手と本気で戦争を続けて勝てるかと言えば、それは難しいじゃろうな」
「……ああ、そういう事ですか」
ここまで説明されれば、研一にも解かってきた。
国を強くしなければならない立ち場であるアーラが、内部分裂を謀ってでも絶対に避けようとしている事が何なのか。
「話が早くて助かるのう。そうじゃ、人間や魔族に下らんちょっかいを掛けられるなら、まだ身内同士の争いで済ませておこう、という訳じゃよ」
「なるほど……」
(言われれば飛天族って、単独でも他国に喧嘩売れるだけのスペックあるな……)
空を飛んでどこにでもいけるし、下手な軍なら一人で殲滅出来る力を持つ者も多い。
おまけに一目見るだけで飛天族と解かるから、余所で問題でも起こされたら、すぐに国同士の問題に発展し兼ねない。
――実際、プロケラが暴走して戦争に発展する構図を、研一は想像した事がある。
「いくら儂等が強いと言っても、それでも他国と本気で争って生き残れるほどではないからのう。防衛に向いた地の利があり、相手も侵略に全戦力を向ける訳にはいかないという状況じゃから、何とか撃退出来ておるだけじゃしな」
他国への侵略と違い自国の防衛ともなれば、相手だって死に物狂いで抵抗するだろうし。
もし人間側が飛天族に土地を奪われたとなれば、次は自分達の番かもしれないと予想して、人間側が手を組み、飛天族を滅ぼしに来るかもしれない。
「特に最近は、雷帝プロディや神の子ミュジカ達のように。人間側にも儂等の想定を超える程の強者が増えているからのう。不本意ではあるが、儂も下らん策を労してでも、少しでも危険を排除せねばならんという訳じゃ」
たった一人が暴走するだけで、国が滅びかねない。
それならば何を犠牲にしてでも、外に目を向けさせる訳にはいかない、という話なのだろう。
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