第431話 飛天の長、アーラ
「それで見るからに強い方が来たので、これは宰相とか軍師とか知恵を出すタイプじゃなくて、隠密部隊側のプロケラさんみたいな立場の方が来たのか、と思ったんですけどね……」
見ただけで解かる圧倒的な威圧感を持つ強者。
これは文官タイプではなく、プロケラと同じ現場で戦える者だと推測した研一は、おそらく部下達だけでは歯が立たないと見て。
隠密部隊側の最大戦力とも言うべき、総大将が来たのだと最初は思っていたのだが――
「さっきも言ったように、プロケラさんの態度的に、プロケラさんよりも大分格上の方っぽかったので、そうなると俺が知っているのは、この国の長しか居なかった訳です」
少しの付き合いではあるものの、プロケラの正義感の強さは見せてもらった。
もし自分と同格以下の者がこの場に関係者面して現れたのなら――
子どもに悪しき教育をしおって、成敗してくれる。
なんて叫んで、いきなり襲い掛かるくらいしても何ら不思議はない。
けれど、どう見てもプロケラの態度は、明らかな格上の者に対する態度だった。
故に隠密部隊の総司令とか統括より上の存在。
研一が唯一知っている、このウェンティ国の長の名前を出した訳だ。
「ほうほう。じゃがお主は、この国の長が子どもからバッちゃんと呼ばれている事を知っておるのじゃろう? 年寄り臭い口調だと我ながら思うが、それでもこの『ぴちぴちばでぃ』の美女を捕まえて、どうして迷わず儂が長だと思ったんじゃ?」
「ああ。それに関しては何の確信もないというか、間違ってても良かったんですよ」
「ふむ?」
「低い立場と間違えられたら怒らせる可能性があります。けど高い立場に間違えられた場合、大抵の方は悪い気がしませんので」
まず有り得ない事ではあるのだが、新しく入った会社で部長を課長と間違えるような事があれば、大体の者が不快どころでは済まないくらいの不興を買ってしまう。
だが、逆に課長を部長と間違えたりすれば笑って済まされるものであるし。
アレなら課長辺りを時期部長なんて言って、おだてていれば機嫌よく仕事してくれたり、奢ったりしてくれるもの。
――この辺の処世術は、学生時代のバイト等で研一は学んでいた。
「かっかっか! なんじゃなんじゃ、思ったより随分と強かな小僧じゃの! それに想像よりずっと賢しいではないか!」
どうやら研一の返答は、片翼の女性としては期待以上のモノだったらしい。
見るからに上機嫌だと解かる様子で笑い声を上げたかと思うと、研一の推理の正しさを示すように名乗りを上げる。
「お主の推測通り。この飛天族達の長を務めておる、アーラ・カエルスじゃ。こう見えて随分長く生きているのでな。バッちゃんと呼んでくれればいい」
(カエルス? ウェンティじゃないのか?)
この世界では国名が基本的には、その国で使われている魔法を指し示しており、このウェンティ国では、風魔法である『ウェンティ』を大半の者が使用している。
そして、風魔法の使い手の中では最強であるプロペラが、魔法名であるウェンティを苗字として背負っている筈だが――
(国名と違う苗字を持っているヤツなんて、この世界に来て初めて見るけど……)
疑問はある。
だが、名乗られた以上、こちらも名乗り返すのが礼儀だとばかりに、問い掛けたくなる気持ちを抑えて、研一は口を開く。
「闇野研一です。見た目通りの若造ですが、この世界に召喚され、一応ですが救世主をやらせて頂いています。お会い出来て光栄です、アーラさん」
「バッちゃんでいいと言っておるのに。さっきの推察といい、年齢の割りに可愛げのない男じゃのう……」
親しく出来るかは、今度のアーラの説明次第だとばかりに距離を取った対応をする研一に、アーラは僅かに顔を顰める。
国の長である為政者として。
ある程度の腹芸は身に付けているモノの、腹の探り合い自体は好きではないからだ。
「まあよい。力ある者は、それくらいの慎重さが必要じゃろう」
そこでアーラは、ここでの話は終わりだとばかりに研一達に背を向けて歩き始める。
おそらく付いて来いという事だろう。
「罠か誘いを警戒しているなら、無論ある。じゃが、使うかどうかはお主の話次第じゃ」
「なるほど」
どうやらアーラ側も、研一に聞きたい話があるらしい。
ただ、こんな誰が来るかも解からないような落ち着けない場所で、これ以上、話す気もないというだけ。
(それなら迷う事ななんて、何もないな)
最初から研一の目的は人間と飛天族の事について知る事であり、その過程で子どもの嫌がらせの発端を調べていたに過ぎない。
その黒幕であると同時に、人間と飛天族の歴史に対して、おそらく誰よりも知る者が目の前に現れてくれたのだ。
こんな都合の良い話に躊躇う理由が無い。
『研一さん。あのアーラって方、私より遥かに魔力が強くて操作が上手いです。多分ですけど、私じゃあ全力を出したとしても、心を読めないかも……』
躊躇いなくアーラの後を追おうとした研一に、センが不安そうに念話を飛ばす。
念話も魔法である以上、防護壁を張れば防ぐ事自体は可能なのだが、魔力が強いだけでは上手く隙間を抜ければ念話を通せるし。
逆に弱ければ、無理やり壁を突破すればいいのだが――
並みの党首より遥かに魔力が高く制御の巧みなセンでさえ太刀打ち出来ない程、アーラの魔法の力量は高いらしい。
『元々、交渉とかで心を読める方が便利過ぎるだけなんだ。読めない方が普通なんだから、気にしないで』
だが、むしろ研一は嬉しそうに笑う。
それくらい凄い者の方が、しっかりとした話を聞けるのではないか、という期待を滲ませて。
「…………」
そして、僅かにプロケラは逡巡したかと思うと、アーラの傍へと駆け寄る。
自分は救世主の仲間ではなく、飛天族の軍を預かり、外敵から民衆を守るべき存在なのだと、自らを戒めるように。
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