第428話 まだまだ目標には遠くて
「え、研一さん。もう終わっちゃったんですか!?」
研一の予想通りだったというべきか。
特にセンの方も苦戦していなかったらしく、センの周りに三人ほど襲撃者が転がっていた。
残った襲撃者達もセンを警戒するように遥か上空に浮かんでおり、どうやら圧倒的にセンの方が優勢な状況らしい。
「もうちょっと時間あれば、残りも全員倒せたと思うんですけど――」
だが、センとしては、研一が来る前に全員叩きのめして褒めてもらいたかったらしい。
心強い援軍が来たにも関わらず、非常に残念そうに顔を歪めたかと思うと――
さっさと自分に倒されてくれなかった襲撃者達が悪いとでもいう、八つ当たりにも程がある視線で空を飛ぶ襲撃者達を睨み付ける。
「――っ」
その瞬間、空中に静止していた襲撃者達の動きがガクリと乱れ、そのまま地面に落下しそうになるも、すぐに立て直す。
センが魔法を使って平衡感覚や魔法制御を狂わせ、地面に墜落させようとしたのだ。
「もうちょっと近寄って来てさえくれれば、効くと思うんですけど……」
魔法というのは、原則として距離が離れれば離れるほど効果が薄れていく。
おまけに精神魔法に対して耐性のある防具を付けている相手では、いくらセンが膨大な魔力量を持っているとはいえ、少し攪乱するのが精一杯らしい。
「最初に突撃してきた時は上手くいったんですけど――」
どうやら倒れている三人は、一撃目の接触でセンに倒されたようだ。
襲撃者達としては防具さえ付けておけば、接近したところで魔法の影響なんて大した事ないだろうと高を括っていたのだろう。
だが、センは狡猾だった。
相手が近付いてくるまでは魔法の出力を抑え、防具さえあれば防げるように見せていただけ。
襲撃者達が突進してくると同時に相手の魔力制御を全力で乱し、突撃した勢いのまま地面に激突させた挙句――
地面にめり込んだ襲撃者が空に戻る暇すら与えず、直接魔力を流し込んで、一瞬で眠りに誘ったのだ。
「それから警戒されちゃったみたいで、全然近付いてきてくれなくて……」
さすがに一瞬で仲間達を倒されてしまっては、襲撃者も迂闊に踏み込めない。
空高くから風の刃を飛ばして攻撃するくらいしか出来ないのだが、さっきも言ったように魔法は距離が離れれば離れるほど、威力は急激に落ちていく。
そんな遠くからの攻撃でセンを倒す事なんて出来る訳もなく。
かといって、センの方も襲撃者達を倒せる決定打もない膠着状態の中、研一がやってきたという訳だ。
「研一さん、あの方達、ズルイと思いません!? 自分達の方から襲ってきた癖に、時間稼ぎみたいな戦い方して!」
「何と言うか。思ってたよりずっと余裕だね、センちゃん……」
苦戦しているのではと心配していたのが馬鹿馬鹿しくなる程に危機感の欠片もないが、それは決して油断している訳ではない。
センもこれまで多くの相手と戦ってきた。
その経験と積み重ねてきた力が、強敵というには足りない相手に必要以上の緊張を覚える事も無く、自然体の状態を維持しているだけ。
言ってしまえば、戦いに怯えたり無駄に力み過ぎてしまうような、駆け出しではなく熟練の戦士になったという話だ。
「全く……。頼もしいと言うべきか、それとも恐ろしいと言うべきか」
戦闘中とは到底思えない研一達の姿に、呆れたような声を上げながらプロケラが現れた。
後ろには魔法で風を操り、気絶した襲撃者達を浮かべて運んでいる。
「こちらは片付いたぞ。後は、あそこに居るアイツ等だけだな」
どうやら襲撃者達とは相当に力の差があったらしく、プロケラには怪我どころか、汚れの一つさえ見当たらない。
さすがは飛天族の軍を預かる総司令と言ったところだろう。
「……私だけ倒せてない。これじゃあ何だか私が弱いみたいです」
だが、この結果はセンからしたら不満だった。
膠着状態ではあったものの、時間さえ掛ければ倒す方法自体は考えていたのだ。
それなのに二人が早過ぎるせいで、まるで自分だけ任された分を倒せない駄目な子みたいに感じてしまう。
「いやいや、そんな事はないぞ。戦ってみて解かったが、飛天族の中でも相当に上澄みの実力者達だ。そんな者達を相手に一人で渡り合っている時点で十分に君も実力者と呼ぶに値する戦士だ」
「むぅー……」
慰めるようなプロケラの言葉に納得なんて出来る訳がない。
だって、ただの実力者では駄目だから。
(そんな普通の力じゃ、魔王の楓さんには勝てない……)
センが目指している強さは、ただの実力者なんかじゃない。
救世主という圧倒的な力を持っている研一と並んだ時に、セン以上に研一の隣が似合う人なんて居ないと、誰もが認めてしまう程の圧倒的な強さなのだから。
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