第427話 物理的に考えて
(おそらく慣れれば倒す事自体は、そんなに難しくないんだろうけど……)
いくら不規則な動きで捉え難いとはいえ、それでも研一とは魔力の差が大き過ぎる。
どれだけ攻撃されても痛手を負う程でもないし、動きにも少しずつ慣れてきているから、時間さえ掛ければ問題なく倒せるだろう。
(ちょっとセンちゃんが心配だ。さっさと片付けるか)
だが、研一としては時間を掛けたくなかった。
センが下手な党首より強い事は知っているつもりだが、それでも心配になるのが人情というものだし、ましてや襲撃者たちは想像以上の強者揃い。
万が一という事は、十分に有り得る。
「悪いな。ちょっとズルさせてもらうぞ!」
この天狗面の集団が先兵という事もあるし、飛天族の情報共有の速さは凄まじい。
出来るだけ手の内は隠しておきたいところではあったが、そんな事は言ってられない。
研一は時間を掛け正攻法で倒す事は諦め、奇策で勝負を決めに行く。
(物理的に考えて、いくら羽が大きくても羽の力だけで自由自在に飛ぶなんて不可能だ)
基本的に空を飛ぶ動物というのは、そもそもが飛行に適した形に肉体が進化しており、大きさから考えると相当に軽い事が、ほとんどだ。
だが、飛天族は羽が生えているだけで、それ以外の部分は人間と変わらないらしい。
となれば、魔法を封じてしまえば飛ぶ事は出来なくなる筈。
(勢いに乗っているタイミングで下手に魔法を解除すれば、そのまま地面に激突したり遥か彼方まで飛ばされる可能性があるから慎重に……)
急いではいるが、必要以上に怪我をさせる気はない。
研一からの反撃に備えて全員が距離を取る瞬間を見計らい、研一は魔法無効化の力を周囲に急速に張り巡らせた。
「え?」
「な、なに!?」
「何が起きてるっていうの!」
(よし、予想通りだ!)
その瞬間、空を自由に駆け回っていた襲撃者達が、まるで重力の存在を思い出したかのように、一斉に墜落していく。
しかも今まで掛け声一つ上げる事さえなかったのに、戸惑いを隠せない様子で。
無理もないだろう。
ただでさえ飛天族は魔力が高い者が生まれ易い。
おまけに、戦闘部隊に配備されるような者ともなれば、無意識に魔力を操り、物心付いた時には空を自在に飛び回っていたような者だらけ。
そんな者達が突然、飛行能力を奪われてしまったのだ。
(俺で言えば、いきなり歩けなくされてしまったようなモノかな……)
むしろ小さく悲鳴を上げた程度の反応で済ませ、絶叫の一つもしていない時点で十分に冷静と言っていい態度だろう。
「おっと、感心している場合じゃないな」
戦闘力だけでなく、胆力も素晴らしいなんて眺めている訳にもいかない。
いくら魔力の高い者達は身体能力も高いとはいえ、あんな焦った状態では受身も取れないだろうし、そもそも魔力が無い状態での身体の動かし方も一切解かってない可能性もある。
下手すれば頭を庇う事さえ出来ず地面に叩き付けられ、そうなればいくら頑丈な身体を持っていても、命に係わるかもしれない。
いくら襲ってきたからって、別に恨みなんて欠片もないのだ。
そんな結末、研一からしたら勘弁願いたい。
「よっと」
研一は圧倒的な身体能力に物を言わせて、周囲に居た襲撃者達を地面に激突する前に全員回収していく。
もはや勝敗は完全に付いているのだが――
「非常に申し訳ないんだけど、アンタ等を確実に拘束しておける道具もなければ、問答無用で襲ってきたアンタ等が大人しくしてくれるっていう信用もなくてな」
これは試合ではない。
襲ってきた者達を完全に無力化出来たと確信出来るまで、戦いを終える事なんて、研一に選べる訳がなかった。
研一は言葉と共に拳を振り被る。
「殺す気はないけど結構痛いとは思うから、そこは我慢してくれ」
飛行魔法を封じられた瞬間こそ、思わず声を出してしまった襲撃者達だが、少しでも正体を隠す為に声を上げないような訓練をしているのだろう。
おまけに天狗面を付けていて表情は見えないのだが――
「…………」
それでも、どこか怯えているように見える襲撃者達を、研一は全員きっちりと殴って気絶させていく。
(起きて魔法使われたら意味ないけど、やらないよりはマシか……)
そして、倉庫として使用している異空間から紐を取り出して手早く全員を縛り上げると、急いでセンの元へと駆け出していく。
だが、そこに焦りはない。
怪我とかしてないといいなと思う程度の軽い心配しか、研一の表情には浮かんでいなかった。
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