第426話 VS飛天族
「研一さん、どうします? 本気でやれば、思考を読むくらいなら出来ますけど……」
とはいえセンの魔力は絶大で、単純な魔力量だけならば、飛天族の軍団を預かるプロケラさえも凌いでいる。
消耗さえ度外視すれば、この程度の対策でセンの魔法を完全に防げる訳がない。
「いや、まだいい。全員ぶちのめした後に精神耐性がありそうな装備っぽいのを全部剥ぎ取って、それでも無理なら、その時に考えよう」
だが、研一はセンの提案を保留した。
センが手加減無しの全力で魔法を使うという事は、その後に魔力補給が必要になるという事であり――
人間とサキュバスの混血であるセンの魔力補給に必要な物は、研一の体液だ。
魔法発動後に濃厚な口付けを求められる事は確実であり、センとは共に戦う仲間であっても、恋人同士ではない研一としては、避けたい展開であった。
「むう。それじゃあ必要になったら教えて下さいね。いつでも準備は出来ていますので……」
研一の言葉に不満を隠そうともせず、渋々といった態度でセンも戦闘態勢を取る。
自分と研一に危険が及ぶなら手加減なんてしないが、それまでは魔力を温存して戦う気構えで。
そして――
「貴様等、どうやら我が知らない事を色々と知っているようだな? 洗いざらい、全て吐いてもらうぞ!」
何の躊躇もなく、プロケラも謎の飛天族達と戦う覚悟を決める。
よく解らない印象操作で子どもに山に住む者達への不信感を植え付けるなんて、プロケラの正義では許されない。
同じ飛天族の者であろうが、味方する理由なんてある訳もなかったからだ。
「いくら数が居たところで俺達に勝てるなんて思わない方がいいぞ」
研一としては、現段階で必要以上に遺恨を残したくはない。
「俺としては国家経営なんて綺麗事だけじゃ済まないと思ってる。だから別にアンタ等を否定する気はないし、事情だけ説明してくれればいい。そしたら逃がす気もある」
(まあ納得いかなかったら、プロケラさんと一緒に暴れるけど)
だからこそ魔力を隠しもせず、圧倒的な力の差を見せ付ける事で戦いを終わらせようとしたのだが――
どうやら大した意味は、なかったらしい。
「…………」
この程度で退くくらいなら最初から姿を見せないとばかりに、無言で飛天族の者達が襲い掛かってくる。
相当に訓練されているのだろう。
二十を超える数の飛天族の集団が上下左右から恐ろしい速度で研一達に次々に突撃を繰り返すが、仲間同士でぶつかる事もなければ、連携が淀む事もない。
三人同時に相手するのは難しいと判断したのか、見事な動きで研一達を分断しようと攻撃を繰り広げていく。
「二人とも、気を付けて!」
あえて研一は、敵の誘いに乗って分かれて戦うべく動き出す。
会ったばかりで戦い方も知らないプロケラと、マトモに連携なんて取れる訳がないし。
研一の持つ救世主の力は魔に連なる者に絶大な力を持っている。
羽こそ生えていて飛天族と名乗っているが、人判定のプロケラは問題ないが、人と魔族の混血であるセンが研一の攻撃に下手に巻き込まれれば、一瞬で消し飛び兼ねない。
それなら三人に分かれた方が、都合が良かったからだ。
「任せて下さい! このくらいの相手に、研一さんの足手纏いになったりしません!」
「安心しろ。飛天族、最強の名は飾りではない!」
二人も下手に協力し合うよりは、各自で対応した方がいいと判断したのだろう。
敵の動きに逆らう事無く、お互いを巻き込まない距離へと離れていく。
「襲ってきたのも降伏勧告も無視したのは、そっちだからな! 痛いのは覚悟してくれよ!」
センが巻き込まれない程度に離れた事を確認すると同時に、研一の戦いが始まる。
研一はスキルの効果でまるでスローモーションのように見る事が出来るのだが、音速を超える速度で飛び回れる飛天族。
さすがに完全に止まっているようには見えないものの、それでも子どもが投げたボール程度の速さにしか見えない。
これなら簡単に倒せると思う研一であったが――
(こいつ等、思ってたより大分強いぞ!?)
ただ速さに任せて突進してくるなら、どれだけ速くても研一は動きを捉え切れる自信があったが、どうやら相当な戦闘経験を持っているらしい。
研一の動きを目で確認し、攻撃の瞬間を見切って急に方向転換するのだ。
言い方は悪いが蚊や蠅の動きに近い。
しかも十人近く居るにも関わらず、全員が研一の動きを完全に目で見て気配を読み交わしているのだ。
(あらゆる侵略を、他の種族の力も借りず跳ね除けてきただけの事はあるな……)
おそらく一発でも当てれば、研一の魔力なら一撃で気絶させられるだろう。
だが、その一発を決して当てさせない。
恐るべき練度であった。
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