第419話 建前のない本音なんて、大概尖り散らかしているもんである
「……解せんな」
ようやくプロケラもズンケの話の内容を、噛み砕く事が出来たのだろう。
久しぶりに口を開いたが、そこにあったのは納得ではなく、更なる疑問であった。
「羽のない者達を侮る事が危険だと言う事自体には、我も同意しよう。だが、それなら尚更、子どもには、羽のない者達を敬うように教えるべきではないか?」
話自体はプロケラとしても、特に否定したい部分なんてなかった。
むしろ感心させられる事が多かっただけに、逆にズンケの教育がチグハグに思えて仕方ない。
「いやですね、頭領。羽のない者達についての話が聞きたいって話で、俺んトコのガキをどう教育してるのか、とは聞かなかったじゃないですか」
「む、そうだったか?」
「そうですよ。自分で言っておいて忘れんで下さいよ」
「……スマン」
実際、これはズンケの指摘通りだ。
羽のない者達について、どう思っているかをプロケラは訊ねただけで、子どもの教育に付いては訊ねていない。
だからこそ、ズンケは子どもの事は抜きにして、自分が羽のない者達に付いてどう思っているかを、伝えただけだ。
「ガキの件に関しちゃ完全に俺の教育不足っつーか。あそこまでやらかしていると、もう監督不行き届きですね。いくら任務で忙しかったからって、テメェの息子があそこまで馬鹿な事やってるのに一切気付かないとは、情けない限りで反論のしようもねえです」
「だが、お前は子どもが自分の意志と力で嫌がらせをしていたら止めないと――」
「その状態で俺が止めたって、それじゃあ俺の力を恐れているだけ。それじゃあ根本的な解決にならねえのは目に見えてますから」
「ふむ……」
「俺に嫌がらせをしてた女共と一緒ですよ。長や頭領の目があったり注意を受けた瞬間だけは、殊勝な態度で口だけ謝ろうが、逆恨みして裏で嫌がらせを激しくしていく。結局、本人達が下手に嫌がらせをすると痛い目を見るぞって解からせるしかない」
「言いたい事自体は、解からなくもないが……」
プロケラは曖昧に言葉を濁す。
ズンケの言い分は、きっと間違っておらず、それは確かに一つの正解ではあるのだろう。
(だが、それはやはり力ある側の理屈でしかない……)
それじゃあ反撃出来る力が無い者は、どうすればいい?
どうして最初から互いに傷付け合う事が前提になっているんだという想いに、どうしてもプロケラは頷いて受け容れる事が出来ない。
だが――
「少なくとも、俺の世界ではそうだった。力だけが俺の居場所を作ってくれた」
「…………」
ズンケの言葉を否定する事も出来なかった。
事実、そうやって嫌がらせをしてきた者達を全員跳ね除け続け、ズンケは隊長という地位に就いたのだ。
納得出来ないなんて不満をぶつける事さえ躊躇われて、プロケラは黙り込む。
「そう気に病まんで下さいよ。あくまで忌憚なき意見が聞きたいって言われたし、そっちに読心の専門家が居るって言うから、包み隠さず俺の本音ってヤツを教えただけです。本当なら俺だって、わざわざ言いたかないんですよ。こんな事は」
そもそもズンケだって、こんな剥き出しの尖り散らかした言葉なんて言いたくない。
本来なら、もっと曖昧で当たり障りのない言い方をしていただろう。
だが、状況がそれを許さず、その状況を用意したのがプロケラなのだ。
「頭領は今回。俺の本音を無理やり引きずり出した事に文句を言われる立場であっても、文句を言う立場じゃない。ですよね?」
「う、うむ。その通りだ」
厳しい言葉に聞こえるが、これはズンケなりの優しさと気遣いだ。
あくまで先程の言葉は追い詰められた状態で無理やり引き摺り出さなければ聞けないような極端な物でしかなく――
参考意見の一つにする分には構わないが、肯定する必要も否定する必要もない。
遠回しにそれを伝えたのだ。
「それで聞きたかった話ってのは、終わりですか? 追加で沙汰とかあるんなら、早めに聞いておきたいんですが――」
「安心しろ。既に刑罰は下った。これ以上は総司令である我の立場に賭けても、他の者に手も口も出させる気はない」
そして、これでもプロケラは全部隊を預かる総司令だ。
部下の気遣いを理解し、納得出来ないモヤモヤや本音を強要させてしまった申し訳なさに、内面がグチャグチャになっていようとも。
表面上、上司として振る舞うくらいの事は出来る。
「協力、感謝する。後で我の使いの者から褒美を届けさせる。ゆっくりと刑に服してくれ」
そしてプロケラは心からの感謝の言葉を送り。
出来るだけ子どもと仲良く過ごせる事を祈り、研一達を連れてズンケの家を後にした。
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