第418話 暴力なんて使わなくても死ぬ者は居る
「……お前は、六番隊の件は事故じゃないと思っているのか?」
ズンケの話にプロケラは、重たそうに口を開く。
それは少し前に起きた事故。
六番隊の退院の使っていた魔力強化の効果を持つ団扇が、魔獣の討伐時に次々に暴走し、それが原因で多くの死者を出したのだが――
問題の六番隊は羽のある事こそが飛天族の誇りだという態度を隠さない者達で集まっており、自分達の魔具を整備している羽のない山の者達に、執拗に嫌がらせを繰り返し。
そして、行き過ぎた嫌がらせの果てに、魔具の整備をしていた山の者達が大怪我をした矢先の出来事だった。
「真っ先にその事件の話を挙げるって事は、頭領自身だって解っているんでしょう?」
「アレは事件ではなく、痛ましい事故だ。証拠も何もない……」
「あの時期に狙ったように六番隊の隊員達の団扇だけが整備不良を起こしておいて、疑うなって方が無理な話でしょうよ」
「…………」
プロケラも解かっているのか、黙り込む。
アレこそが山の者達の六番隊への報復処置であり、更に言えば、自分達を舐めているとお前等も同じ目に遭うぞという――
翼ある者達への脅しや警告でもあったのだ、と。
「あの事件が起きるまで、俺だって無意識に山の者達を侮っていたんだと思いますよ。アイツ等は俺達が守ってやらなきゃならない、か弱い連中だって」
「……」
ズンケの言葉にプロケラの表情が痛々しく歪んでいく。
それは今のプロケラ自身に強く刺さる言葉であり、翼無き者達へ抱いていた想いを的確に貫く言葉だったから。
「頭領。山の者達に力が無いなんざ、ただの俺達の傲慢と無知でしかねえですよ」
確かに空を降りて山に住まう者達は、羽もなく空を自由に飛び回る力もなければ、外敵と戦う力だって持っていないかもしれない。
だが、その者達が作る食糧や魔具がなければ、羽ある者達だって生きていけず。
共倒れする程度の力と覚悟くらいは、持っている。
「どうしても俺達は自分が出来る事こそが一番で、それ以外は下だって思いたがる。けど、自分に理解出来ない事。自分が出来ない事も力だと認識する。それが俺の今の課題だと思ってるんですよ」
「ちょっと待ってくれ。想像以上の話に呑み込めていない。暫く考える時間をくれ」
「あいよ」
そこでプロケラは安易に返答して答えを決め付けていいような話題では、ないと思ったのだろう。
これが子どもの話とどう繋がる、と結論を急ぎたくなる気持ちを必死で制して。
ズンケの言葉を遮り、噛み砕いて考えるべく、待ったを掛けた。
(実際、日本でも似たような詐欺紛いの事件があったな……)
黙ってズンケの話を聞いていた研一は、ちょっとした米の売買の話を思い出す。
とある業者が収穫時期の田んぼの写真を二つ顧客に見せ、一つは稲がピーンと立ち上がった写真で、もう一つの写真に写った稲はダラリと垂れ下がっていた。
そこで業者は、これは同じ時期の同じ品種の同じ地域の畑ですが、一目見るだけで、どちらが優れているか解かるでしょう。
今なら特別に同じ値段で、どちらの畑の米を定期購入するか選べます。
と、あるレストランに持ち掛けたのだ。
(そこで間抜けな何店舗かのオーナーは、ピーンと稲が立ち上がっている方が元気そうで良いと思って、そっちの畑の米と契約したって話だけど――)
米が実れば実る程、稲の先が重くなってきて垂れ下がる。
つまり一見すると元気そうに立ち上がっている方が不作であり、あまり上手くいってない方の畑なのだ。
だが、別に業者は何も嘘は言っていない。
何せこんなのは農業技術とさえ言えない次元の、初歩の初歩の知識だ。
最低限の知識さえ持っているなら、本当に一目見るだけで、少なくとも収穫時期にピーンと稲が立ち上がっている畑なんて選ぶ訳がない。
(けど、興味のない知識なんて、多分どこもそんなもんなんだろうね)
きっと少しは稲の事を知っている者からすれば、こんな馬鹿な話ある筈ないと思うかもしれない。
では、これが魚の話なら?
これがプログラムの話なら?
価値の判断が難しい創作や芸術の話なら、どうだろう。
専門外の話を判断出来る者なんて、どれくらい居るのだろうか。
(このズンケさんって人は、危険性をよく知ってる……)
詐欺紛いでなく判断力不足の話なら、こんな話はあまりにも有り触れている。
魚なんてどれも同じだと思って安い取引先に変えた。
セキュリティプログラムなんて、どこも一緒だと言って安い場所に変えた。
前作が売れたから絵さえ同じで続編にさえしてれば、シナリオなんて誰に変えたところで売れる。
そんな事を言って大損害を出した場所が、どれだけあっただろうか。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
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