第416話 男で隊長を務めるという事
「と、頭領。この度は愚息が大変ご迷惑をお掛けしたようで……」
「ご、ごべんなざいぃー!」
善は急げとばかりに問題の子どもの家に向かった研一達を待っていたのは、見るからに強そうな雰囲気をした筋骨隆々の羽の生えた男、ズンケに加え――
頭にたんこぶを付け、涙を流して謝る問題の子ども、ルディスであった。
(この様子だと、俺達が飯食う前には、この男の罷免手続きとかは終わっていたんだな……)
二人の様子を見た研一は、密かに感心する。
アレから半日だって経っていないというのに、ズンケは家に戻っているだけでなく、事情に精通している。
どうやら風魔法には、通信に長けた魔法がいくつか存在しているらしい。
「今回はその件で色々と聞きたい事があってな。少し話を聞かせてもらってもいいだろうか?」
「……解かりました」
「お、親父……」
「いいか。大人しく待っていろよ」
静かに告げられたプロケラの声に、ズンケ達の顔が緊張で強張る。
当然だろう。
息子が問題を起こして役職を解かれた上に、上司が即座に家を訪ねてきたのだ。
あくまで家族の時間を取る為の一時的な処置だ、と既にプロケラから聞かされていようが、それで自分は大丈夫だなんて心の底から安堵出来る者が居るなら――
それはただ状況が何も見えてない間抜けくらいだ。
「早速聞きたい事があるのだが、君は羽無き者達について、どう考えている?」
今は一時的に解任されているとはいえ、さすが隊長。
中々広い家に住んでおり、軽い戦闘訓練なら出来そうな広い庭に移動すると、前置きも無しにプロケラは即座に男に訊ねる。
――そして、ルディスが家の中から心配そうに覗いていた。
「先に言っておこう。こちらの方は念話の専門家で嘘や誤魔化しがあれば、全て解かる。出来れば君の口から忌憚のない意見を聞かせてくれ」
事前にしていた打ち合わせ通り放たれた言葉に、センがペコリと無言でズンケに頭を下げて、挨拶をする。
あえてセンの能力を先に伝えたのは、仲間の飛天族の心を隠れて読むのは避けたい。
出来れば本人の口から、心の内を語らせたいとプロケラに頼まれたからだ。
(でも嘘かどうかくらいは、調べさせてもらいますし、嘘を吐けば容赦なく調べさせてもらいます!)
センとしても無闇矢鱈に心を読む気はないものの、研一が進んで協力したいと言い出した事件なのもあり、手加減する気はない。
少しでもズンケの心から偽りの気配を感じたなら、容赦なく心を読むつもりで身構える。
「羽の無い者について、ですか?」
どうやらルティスの問題行動について訊ねられると思っていたらしい。
ズンケは予想外の質問に戸惑いを見せつつ、少し考えて口を開いた。
「本当に忌憚のない意見を言わせて頂けるなら、それだけでは何とも言えないですね」
「言っただろう? 適当な誤魔化しの言葉を言うなら――」
「誤魔化しじゃなくてな。羽の有る無しだけじゃ何も言えねえって」
どうも本来は、そんなに丁寧な物言いはしていないらしい。
本音で語れというプロケラの言葉に従ったように、ズンケが元来の口調で言葉を紡いでいく。
「頭領だって知ってるだろうが。男は基本的にゃ、女より魔力が弱え。だから俺が隊長になった時は男のくせにって散々言われまくったし、嫌がらせだって怒りを通り越して、呆れるくれぇに受けた」
「ああ、その節は済まなかった。もっと早くに気付いていれば、我が直々に馬鹿共全員に活を入れてやったところだが――」
「止してくだせえよ。それこそテメェの部下の躾けも出来ない情けない隊長だって言われて、表じゃ反省した振りして、裏で舐められて仕舞いじゃねえですか」
プロケラが手や口を出したところで、ズンケ本人が認められる事はない。
ズンケ本人が功績を上げるなり力を示し――
「そうだったな。だからこそお前は単身で大型の雷鳥を討ち取り、それでも文句を言う奴等の処罰だけを我に頼んだ」
「力見せても認められない奴なんて、部隊に置いとく訳にゃ、いかないですからね」
そして、尚も男の癖にと文句を言う部下に、ズンケも容赦しなかった。
ならば俺と同じように力を示せ。
自分達の力だけで雷鳥を仕留めるか、口だけの愚か者として部隊から除隊処分を受けるかをプロケラの権限で選ばせ――
数名が見栄と意地の果てに死に。
残りは戦士としての誇りも覚悟もない卑怯者として、空の上から居場所を失くして、自らの意志で山に下りていった。
「羽があるから凄い奴とか良い奴だなんてのは、幻想でしかねえ。羽があっても下らない碌でもねえ連中なんて嫌って程に見てきたし――」
そこでズンケは、研一の方にチラリと視線を向ける。
「そっちの兄ちゃんみたいに羽なんてなかろうが、隊長の俺ですら引くくらい、ものすげぇ奴も居る」
隊長を任されていただけあって、ズンケの目は飾りではない。
いくら抑えていたところで、魔力制御のあまり上手くない研一の底知れない力なんて、一瞥しなくても近くに居るだけで伝わってくるのだから。
(多分、この人間が風通信で緊急通達されていた救世主ってヤツだな……)
魔力だけなら総司令であるプロケラさえ、大きく上回っていた。
これで研一が救世主でなくてただの普通の人間というのなら、とっくに飛天族は人間に滅ぼされている、なんて無意識にズンケが感じてしまう程に――
強者揃いの飛天族の者達すら寄せ付けない程の力が、研一からは迸っていた。
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