第415話 百の話よりも一の実地体験
「あの子どもの件、かあ。んー……」
羽のない者達に付いて周囲がどう思っているのか。
子どもの事を通して、プロケラが真剣に考えていた事は研一も知っている。
だからこそ、安易な閃きで乱雑な答えを返す訳にもいかず、暫し研一は思案に耽った結果、導き出した答えは――
「正直、現状じゃ俺からは何も言えない」
「そ、そうか。いや、そうだな。救世主様は、魔族との戦いで忙しいのだ。我の些事に余力を割いている暇もないのだろう。変な事聞いて申し訳なかっ――」
まさかの無回答。
これにはプロケラも戸惑いを隠せないものの、よく考えれば救世主。
人類の存亡を賭け、魔族と戦う立場なんだから仕方ないとばかりに理解を示して、話を終わらせようとするのだが――
プロケラの考えは、すぐに覆される事になる。
「んー、そのさ。色々知りたい事があるから、偉い人に会わせてほしいって言ったのは俺だけどさ。それって後回しにする事って出来る?」
「は、はあ。それは無論、可能だが――」
「周囲がどう思っているとか、子どもの親がどう思っているかなんて、勝手に想像するだけじゃ何も解からないからさ。いっそ全部調べてから考えようよ」
あくまで『現状では』何も言えないだけ。
推測に推測を重ねたところで答えなんて出せる訳ないんだから、答えを出す為に必要な事を片っ端から調査していこう、と研一は提案する。
「え、いや、しかし。我の為に救世主様の手を煩わせる事など――」
「それ言い出せば俺達の案内の為に、えーと、何だっけ? 軍団統括長?」
「総司令だが――」
「ああ、そうそう。全軍の総司令様を独り占めする事だって大概おかしいでしょ」
「い、いや。我等種族全体の恩人である救世主様には、これでも足りないくらいで――」
「その救世主様ってのは、別に俺本人の事じゃないしね。そこまでしてもらう理由なんて、最初からないよ」
「だ、だが――」
「それに俺の知りたい事にも繋がっているから、むしろ俺から頼みたい」
これは本音だ。
偉い人に今までの歴史とかだけを聞いて、人間や飛天族の関係を解かった気になろうとしていた事の方が、おかしかったのだ。
現地に住む者達の話や様子を実際に確かめて、その果てに判断していく。
最初からそうすべきだったのだ、と今では研一は思っている。
「その、駄目かな?」
とはいえ研一としてもプロケラに無理強いは、したくない。
我儘を言って困らせてしまっているかな、と僅かに不安の表情を覗かせるが――
(研一さん! その声と表情は卑怯過ぎます!)
それは研一本人も意図せず、どこか甘えてくれているようにすら見える仕草になっていて。
隣で見ていたセンさえ、今だけは正面からじっくりと眺めたいと思わせる程に、普段の優しくも頼りがいのある研一とは違う、愛らしさが滲み出ており。
「いえいえ! 是非我に協力してほしい!」
真っ直ぐ正面から見せ付けられたプロケラに、抗う事は出来なかった。
駄目じゃないと言わんばかりに、反射的に必死で捲し立ててしまう。
「無理言ってごめんね?」
「……いえ。助けて頂けるのは我の方なので。むしろこちらから礼を言わせて頂きたく――」
(何という凄い方なんだ。すぐにでも長に会って話を聞きたいだろうに。悩んでいる我を放っておけず、自分の為だなんて嘘を吐いてまで協力してくれるなど。中々、出来るような事ではないぞ……)
プロケラの方が悩みの解決に協力してもらう立場だというのに。
一切恩を着せる様子がないどころか、まるで我儘を聞いてもらって悪いと言わんばかりの態度に加え、研一が長に会うという目的を差し置いてまで、自分を助けてくれているという勘違いも重なり――
研一を見るプロケラの目に好意と尊敬が色濃く宿っていき。
(……うん。研一さんも満足してるし、プロケラさんの悩みも解決に向かっていく。これで全部よかったんだ)
そんな光景を眺めたセンは。
どこかヤケクソ気味に、無言で並べられている鳥料理を貪り食っていくのであった。
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